相次ぐ大手エステ脱毛サロン・医療脱毛クリニックの経営難。記憶に新しいのは「銀座カラー」の倒産ではないでしょうか。これによって困るのは、ほかでもない利用者。もし、自分が契約している店舗で同様のことが起こった場合、どう対処するのが正解なのでしょうか。またこれから契約する際に、経営が危うい店舗を未然に避けることはできるのでしょうか。今回は脱毛サロン・医療脱毛クリニックが倒産するまでプロセスや、対処法を解説します。
INDEX
エステ脱毛チェーン・医療脱毛クリニックの度重なる倒産状況
2023年に倒産した脱毛サロン・医療脱毛クリニックは、帝国データバンクによれば規模の大きな法人で9件と過去最多。
9月には都内を中心に全国に店舗を構えるメンズ医療脱毛専門店「ウルフクリニック」を経営するTBIが、次いで女性専用脱毛サロン「C3(シースリー)」を全国に63店舗展開するビューティースリーが倒産しました。
そして12月には、全国におよそ50店舗を構え、大々的な広告で知名度も高かった「銀座カラー」のエム・シーネットワークスジャパンの倒産。いずれも千人~10万人の被害者を出し、ニュースを見て他人事ではないと怖くなった方も多いのではないでしょうか。
実は脱毛サロン・クリニックの倒産は2023年に突然増えたわけではなく、2022年も倒産件数7件と過去最多を記録していました。そのときも全国で80店舗以上を展開していた「脱毛ラボ」が破綻することになり、数万人規模の被害者を出したのです。
倒産した脱毛サロン・クリニックの特徴として、店舗が全国に拡大されていた・通い放題や脱毛回数無制限などのプランで会員数を増やしていた、の2点があげられます。全国にいくつもの店舗を構え、CMに俳優を起用し、電車やウェブ広告でたびたび見かけるようなサロンやクリニックが倒産するなんて夢にも思わないですよね。銀座カラーのような有名チェーン店の名ばかり目立っていますが、実際は脱毛サービスの終了や、水面下で廃業した企業も多く存在するといわれています。
倒産の背景には、美容関連サービスでよく見られる「前金型・役務ビジネス 」が深く関わっています。みなさんも、「月額〇〇円以下」「永久保証付き」といった低価格かつ永久的に施術を行うことを前提とした広告に惹かれたことがありませんか?
役務型のビジネスは、 新規契約者を大々的に募り、契約金を元手に人件費や広告費、店舗拡大費用をまかなうという仕組み。つまり、新規契約者が増えれば増えるほど資金も潤沢になりますが、前金で売り上げを立てている分、すでにコース契約をした人が都度通院・施術を受ける際の売り上げは立たないという仕組みのため、「常に新規会員を増やし続ける」という必要性に迫られます。そのため、契約者が減少してしまうと資金繰りに狂いが生じてしまうのです。また、コース契約中の方で予約がいっぱいになり、店舗のキャパシティが限界を迎えると次の新規出店をすることでさらなる新規会員獲得を行っていく…という形ともいえます。脱毛サロンや医療脱毛クリニックは、今や競争が激化しており新規契約者の獲得が困難な状況。倒産した企業も新規契約者の獲得に苦戦し、さらにコロナ禍で業績が低迷。すでに出店している店舗をまわせるだけの資金が回収できなくなった というケースがおおよその理由といえます。
前払いは都度払いより割安であったり、脱毛の計画を立てやすかったりと、私たちにとってもメリットがある支払方法です。しかし契約内容が知らないうちに変更されていたケースや、高額プランをクレジットローンで契約させられるケースも実際に起こっており、利用者側から見てもリスクがないとは言い切れません。また、脱毛サービス事業に新規出店し、経験が浅く知識に乏しいサロンでは、火傷や施術ミスといったトラブルも多発しています。脱毛が身近になった今こそ、サロンやクリニックは慎重になって選ぶべき。脱毛サービスを安心して受け続けられるのか、自分でしっかり見極めることが大切です。
そもそも、破産・倒産とは?その場合、コース契約中の利用者はどうなるの?
脱毛サロン・医療脱毛クリニックの倒産が相次いだことで、気になるのはコースを契約中の利用者たちはどうなってしまうのか、ではないでしょうか。ここでは企業の破産・倒産が何を意味するのか交えながら、被害者がどういった状況に置かれるのか解説します。
倒産・破産とは?倒産危機から免れた脱毛サロン「ミュゼプラチナム」との違い
倒産=破産・廃業だと思われがちですが、厳密には違います。
【破産】 会社や経営者の借金を清算するための倒産手続きのひとつ。 【倒産】 企業の経営が悪化し、ビジネスとして持続不可能になった状態を指す言葉。 倒産には破産して会社を消滅させる手続きもあれば、会社を再建するための手続きもあります。 |
今回話題になった銀座カラーを例にあげると、経営元のエム・シーネットワークスジャパンは破産手続きを行いました。つまり、脱毛事業を完全に終わらせる選択をしたのです。破産手続きを行うと、借金の返済から解放される代わりに会社の再建は不可能になります。当然、従業員は仕事を失うことになり、顧客は今後サービスを受けることができません。なぜ銀座カラーは、被害の大きい破産の選択をしたのでしょうか。
実は銀座カラーの倒産は、新規契約者を大々的に募ったことに加え、コロナ禍による売上低迷が決定的な原因でした。このとき23億の赤字と、保有資産を差し引いても65億の借金を背負っており、従業員の社会保険料も8億円ほど滞納。経営者はこの状況下でもなんとか事業を継続させようと、経営者一族の私財をやりくりしながらM&Aによる事業売却を試みていたのです。しかし買い取ってくれる会社は見つからず、最終的に資金が枯渇し、破産の選択肢を取らざるを得ませんでした。
似たような事例で、2015年に最大手脱毛サロン「ミュゼプラチナム」の倒産騒動が起こりました。ミュゼプラチナムも銀座カラー同様、過大広告で顧客を獲得し店舗を拡大させたものの、予約が取りづらいことや解約件数が増えたことなどが重なり経営危機に。ネットニュースにも取り上げられ契約者からの問い合わせも殺到しますが、「倒産の事実はない」ときっぱり言及していました。しかし事実上の倒産といっても過言ではなく、借金の任意整理を行いながら、水面下で進めていた事業売却に成功。ミュゼプラチナムの場合、幸いにも全国の190店舗が抱える顧客は引き続きサービスを受けることができ、また従業員の雇用も守られたのです。
このように、会社が倒産し、破綻に至るまでにはいくつかのプロセスが存在します。経営難で資金繰りが困難になると、まずは任意整理や事業売却をして事業を継続できるよう動くのが一般的です。とはいえ、脱毛市場は競合他社の参入がしやすく、施術内容の差別化も難しいことから、競争が激しい世界であることには変わりありません。いずれにしても、そもそものビジネス拡大路線が正しかったのか、倒産に至る前に早めの対策ができなかったのかなど、従業員や利用者にとっては疑問が残る結末ですよね。
脱毛サロンやクリニックの倒産で、コース契約中の利用者は 泣き寝入りするしかない?
例えば脱毛サロンで年間12回の施術が受けられるコースを30万円で契約し、まだ1回しか施術を受けていないのに会社が倒産してしまった場合、残りの11回分の料金を返してほしいと思うのは当然の心理です。 しかし企業が破産手続きを行うと、残った資産は税金や従業員への支払いが優先され、残念ながらコース未消化分の代金が契約者に返される可能性はほぼありません。
路頭に迷った利用者に救済措置を取る同業サロンもありますが、施術回数や割引金額に上限がある場合が多く、少なからず損失は残ったままになる可能性もあります。返金を求めるには新たに裁判を起こす必要がありますが、倒産した企業がそれ相応の対応をしてくれるとは望めないため、泣き寝入りするしかないのが一般的です。
万が一、契約金をクレジットカードで分割払いをしている場合は、クレジットカード会社に連絡して請求を停止しなければいけません。また、クレジットカード会社にはチャージバックという仕組みも存在します。チャージバックとはクレジットカードが不正利用などされた際に、申し出をすればクレジットカード会社が返金または請求停止などの対応を行うルールのこと。しかしあくまでもルールであり義務ではないため、必ず返金されるわけではありません。制度として知っておくといざというときに便利ですが、申請には脱毛の残り回数を証明できるメール履歴や、契約書、チャージバックのための申請書を用意する必要があります。企業の倒産は仕方ないとはいえ、巻き込まれると損失を最小限にするために時間や手間をかけなければならず、大変な思いをすることになるのです。
倒産に巻き込まれないために|経営の安定した脱毛サロン・クリニックの見極め方
これから新たに脱毛を考えている方や、今通っているクリニックは大丈夫?と心配な方へ。倒産リスクの少ないサロンやクリニックを見極める方法を解説します。
<予約など外側から見て分かる情報>
経営が危ういサロンでは、キャッシュを確保するために大幅な割引キャンペーンを打ち出す、高額なコース契約を進めるなど、新規契約者を増やそうとします。同時に運転資金節約のため、徐々に店舗を統合させたり、縮小したりする動きも見られるでしょう。すると支払った契約金分のサービスを受けたい利用者と、店舗の数や対応できるスタッフの数に狂いが生じます。
今まで月1回ペースで取れていた予約が、急に3カ月以上先でないと取れない、また遠方の店舗でしか予約できないといった変化があったら要注意。
さらに、施術時間があきらかに以前より短くなるなど、サービスの改悪も倒産の予兆だといえます。
予約状況は契約後でないと分かりにくい部分ではありますが、事前に口コミで確認する、また契約後はサロンやクリニックの動向に注目して、いち早く倒産の危機を察知することがポイントです。
<経営観点>
店舗を維持するために必要なことのひとつに、接客の質があります。リピートしたいと思えるサロンは、施術スタッフへの教育がしっかりされていたり、働きやすい環境が整えられていたりするものです。資金を集めようと新規契約者が増えれば増えるほど、懸念されるのが従業員への影響。
利用者が増えれば、スタッフは働きづめになるばかりか、予約が取れないなどのクレームを受けるのも現場のスタッフになります。そのほか資金がないために新しいスタッフを増やせない、また給料がカットされるなど、働きづらさを理由に退職者が増えればさらにサービスが悪くなり、利用者の解約増加による経営破綻も免れません。
また、高額なコース契約ばかり勧められる、お得なキャンペーンがコース契約しか適用されないといったケースも、資金確保が目的の可能性があるため要注意。
派手な広告や一等地への出店、豪華できらびやかに見える内装も、数千万円単位の費用が発生します。果たしてそのサロン・クリニックにそれだけの金額をまかなえる潤沢な資金があるのか?また、表面上の売上は黒字でも、支払い計画はきちんとされているのか?など、数字から疑ってみるのも大切です。
まとめ
キレイになりたい思いで契約した脱毛サロンや医療脱毛クリニックが倒産するのは、非常に悲しくもあり悔しいものです。しかし脱毛サービスを含む美容業界は、大手・個人といった規模の大きさに関わらず、参入も撤退も激しい世界。極端にリーズナブルな価格や華やかな広告に惑わされず、経営状況にも目を向けてみてくださいね。大切なお金や体を守れるのは自分だけです。経営が安定したサロン・クリニックを見極めて、トラブルを未然に防ぎましょう。
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