Nature系学術誌が示した世界最高齢者(117歳)からみえた真実とは——世界最高齢者のマルチオミクス研究が示した「老化しながら健康でいる」ロンジェビティの本質

📌 記事をざっくりまとめると……

  • 世界最高齢者(117歳)のマルチオミクス解析から「老化の深刻さと健康状態は切り離せる」という知見がNature系学術誌に掲載
  • 長寿の本質は「老化を止めること」ではなく、保護的遺伝子・低炎症・健全な腸内環境が統合した「回復力」にある
  • 美容医療の観点では「老化サインを消す」より「老化しても機能し続ける生物学的回復力を作る」という発想の転換を示す研究

117歳168日。

2024年8月まで「世界最高齢の生存者」として認定されていたスペイン人女性Maria Branyas Morera氏の生物学的データが、初めて科学的に解析された。

結果が示したのは、予想外の「逆説」だった。

「老化していたのに、病気にならなかった」——ロンジェビティ・パラドックス

2026年2月、Nature Publishing Group傘下の学術誌npj Agingに掲載されたコメンタリー(Kordowitzki & Ying, npj Aging 12:25, 2026)は、Elsevier社のCell Reports Medicineに2025年に発表された超高齢者の包括的マルチオミクス研究(Santos-Pujol et al., 2025)を総括した。

この研究で明らかになったのは「ロンジェビティ・パラドックス」とも呼べる現象だ。

Maria氏の細胞データには、老化の典型的なマーカー——

テロメアの著しい短縮・B細胞の異常・クローン性造血

——が明確に存在していた。

しかし同時に、一般的な加齢性疾患(認知症・糖尿病・がん・心臓病)はほぼ発症していなかった。

出典:Santos-Pujol et al., Cell Reports Medicine, 2025. doi: 10.1016/j.xcrm.2025.102368

「老化マーカーの存在=疾患の発症」という従来の常識が、
この一人の生物学的データによって揺さぶられた。

健康長寿を支えていた4つの要因

研究チームは、Maria氏のゲノム・トランスクリプトーム・メタボローム・プロテオーム・マイクロバイオーム・エピゲノムを横断的に解析した。

健康長寿と関連していたのは、以下の4つだ。

健康長寿を支えた4つの要因

保護的な稀少遺伝子変異(神経保護・心臓保護に関与するEPHA2・CLU等)

効率的な脂質代謝(ビフィズス菌が優勢な健全な腸内環境と連動)

低炎症状態の維持(慢性炎症の抑制が加齢性疾患を回避)

クロノロジカルエイジより若いエピジェネティック年齢(生物学的年齢が実年齢を大幅に下回る)

💡 研究が示した核心

長寿の本質は「老化を完全に止めること」ではなく、
老化マーカーが存在しながらも機能を維持し続ける「多因子的な回復力(レジリエンス)」にある。
遺伝子・代謝・腸内環境・エピゲノムが統合的に機能していることが鍵だった。

美容医療への示唆——「老化サインを消す」から「回復力を作る」へ

この研究が美容医療・ロンジェビティ医療に投げかける問いは明確だ。

従来の美容医療の評価軸は「シワが減ったか」「たるみが改善したか」という外見の変化だった。
しかし今回の研究が示した健康長寿の本質は、外見の修正よりも体の内側——腸内環境・炎症状態・代謝・エピゲノム——の統合的な健康にある。

バイオスティミュレーターやPDRN・エクソソームなどの再生系施術が注目を集めているのは、この方向性と一致しているからだ。
「ボリュームを補う」より「組織そのものを再生する」アプローチが、科学的にも支持される時代が来ている。

腸内環境の最適化・抗炎症的なライフスタイル・ホルモンバランスの維持といった「内側からのアプローチ」が、外見の老化を遅らせることとも直結する——この視点が、これからの美容医療の設計思想に不可欠になる。

まとめ

  • 世界最高齢者のマルチオミクス解析により、老化マーカーの存在と加齢性疾患の発症は切り離せることが示された(Cell Reports Medicine, 2025)
  • 健康長寿を支えていたのは保護的遺伝子・低炎症・健全な腸内環境・若いエピジェネティック年齢の統合的な回復力
  • 長寿は「老化を完全に止めること」ではなく「老化しながらも機能を維持し続けること」——npj Agingがこの知見を総括(2026年2月)
  • 美容医療の観点では「外見の修正」より「内側の回復力を設計する医療」へのシフトを科学が後押しする

出典

  • Kordowitzki P, Ying K. "The pursuit of understanding human longevity." npj Aging 12, 25 (2026). DOI: 10.1038/s41514-026-00339-z(PubMed: 41644533)
  • Santos-Pujol et al. "The multiomics blueprint of the individual with the most extreme lifespan." Cell Reports Medicine, 102368 (2025). DOI: 10.1016/j.xcrm.2025.102368

よくある質問

Q. マルチオミクス研究とは何ですか?
ゲノム(遺伝子)・トランスクリプトーム(遺伝子発現)・プロテオーム(タンパク質)・メタボローム(代謝産物)・マイクロバイオーム(腸内細菌)・エピゲノム(遺伝子のスイッチ)など、複数の「オミクス」データを同時に解析する手法です。一つの視点だけでなく体全体を多角的に見ることで、より深い知見が得られます。

Q. エピジェネティック年齢とは何ですか?
実際の年齢(暦年齢)とは別に、DNAのメチル化パターンなどから算出される「生物学的な老化年齢」のことです。同じ70歳でも、エピジェネティック年齢が60歳の人と80歳の人では、加齢性疾患のリスクが大きく異なることが分かっています。食事・運動・睡眠・ストレス管理などのライフスタイルが影響することも示されています。

Q. 「低炎症状態」は美容医療とどう関係しますか?
慢性的な低レベルの炎症(インフラメイジング)は、肌の老化加速・コラーゲン分解・色素沈着・くすみなどと深く関係しています。抗炎症的なライフスタイル(食事・腸内環境の改善・睡眠の質向上)は、美容クリニックでの施術効果を高め、より長期間維持する土台にもなります。

Q. 腸内環境を整えることが美容に影響しますか?
今回の研究でも「ビフィズス菌が優勢な健全な腸内環境」が健康長寿の特徴の一つとして示されました。腸内環境は免疫系・炎症レベル・ホルモンバランスに影響するため、肌の状態とも密接に関連します。「腸と肌の関係(Gut-Skin Axis)」は近年注目されている研究領域で、美容医療の専門家からも関心が高まっています。

NERO 安達健一