JAAD International 2026年7月23日掲載 / 近畿大学・京都大学・札幌医科大学・広島大学
近年、AIが「シミか、ほくろか、皮膚がんか」を判断する皮膚病変分類AIの研究が増えている。
精度が高いモデルが世界中で報告されてきた。
問題は、AIがなぜそう判断したかを医師が確認できないことだった。
「ブラックボックス」と呼ばれる問題──
精度がいくら高くても、根拠が見えないAIは臨床現場で使いにくい。
2026年7月23日、近畿大学・京都大学・札幌医科大学・広島大学を含む共同研究グループが
JAAD Internationalにその問題に正面から向き合った論文を発表した。
8種類の色素性皮膚病変を高精度で分類し、同時に「AIがどこを見て判断したか」をヒートマップで示す──
説明できるAI(Explainable AI)だ。
- ✦今回のAIが何をしたのか──8種類の病変分類とヒートマップ可視化の仕組み
- ✦「説明可能AI(Explainable AI)」とは何か──ブラックボックス問題との関係
- ✦「スマホで判別できる」は正確か──この研究が示した「通常のカメラ」の意味
- ✦この研究の限界と「皮膚科専門医がいない地域」への期待
- ✦美容医療・皮膚科診療へのAI導入が意味すること
INDEX
今回の研究が何をしたのか──
8種類の病変分類とヒートマップの意義
京都大学のプレスリリース(2026年8月17日・直接確認)によれば、
研究の核心は以下の通りだ。
「AIが見た場所」を人間が確認できる──
これを第一著者の飯沼紀実氏は次のように語っている(プレスリリースより要約)。
大塚篤司教授(近畿大学・概要説明):
「ダーモスコープという特殊な医療機器を使わずとも、一般的なカメラで撮影した画像を高精度で判別できるAIを開発した。今後、医療現場に普及することで、皮膚科専門医がいない地域での診断精度向上に寄与することが期待される。」
飯沼紀実氏(第一著者・研究のこだわり):
「本研究で最もこだわったのは、精度そのものよりも『AIがどこを見て、そう判断したのか』を示すことだった。ヒートマップは、AIの視線が確かに病変を捉えていること、そして、病気ごとに見ているポイントが違うことを教えてくれた。医師が根拠を確認できるAIであってこそ、安心して臨床の現場に届けられると考えている。」
「説明可能AI」とは何か──
ブラックボックス問題が医療AIに与える影響
AIが「答え」を出すことはできる。
しかし「なぜその答えなのか」を説明できないのが、深層学習(ディープラーニング)の構造的な問題だ。
医療の現場でこれが問題になる理由は明快だ。
・精度が高くても「なぜそう判断したか」が分からないと医師が責任を持って採用できない
・AIの誤りを人間がチェックできない
・患者への説明根拠が作れない
・医師の教育・学習に使えない
今回のAIはヒートマップ技術によって、
「AIが皮膚のどのエリアに注目して分類したか」を色の濃淡で可視化する。
「病気ごとに見ているポイントが違う」という知見は、
医師の教育ツールとしても使える可能性を示している。
「スマホで判別できる」は正確か──
「通常のカメラ」が意味すること
この研究を「スマホカメラで皮膚がんを判別できるAI」と紹介する文脈を目にすることがある。
本研究が示したのは「通常のカメラで撮影した臨床写真を入力に用いたAI」であり、その点は正確に理解したい。
ダーモスコープ等の特殊医療機器は不要、という点が重要
・「一般市民向けのトリアージツール」としての有効性は本研究では示されていない
・前向き臨床試験での有効性は未検証(本研究は後ろ向き内部検証)
「特殊な機器がいらない」という点は、
クリニックや地域診療所レベルでの導入ハードルを下げる意味がある。
しかしそれは「誰でも自己判断できる」とは別の話だ。
この研究の限界と次のステップ──
「皮膚科専門医がいない地域」への期待の文脈
・Multicenter retrospective internal validation study:既存の臨床データを用いた後ろ向き研究であり、前向き臨床試験の結果ではない
・Internal validation:参加した4機関のデータで検証しており、外部データでの有効性は別途確認が必要
・一般市民トリアージへの応用:本研究の直接的なスコープには含まれていない
・次のステップ:「医療現場に普及させる」ことが目標として示されているが、実装・承認のプロセスは別途必要
大塚教授が語る「皮膚科専門医がいない地域での診断精度向上への期待」は、
医療過疎地域という日本固有の問題と直結する。
専門医へのアクセスが限られる地域において、
「なぜそう判断したかを説明できるAI」が診療支援ツールとして機能するなら、
遠隔診療との組み合わせなど、実用的な応用が見えてくる。
美容医療・皮膚科診療の文脈で、この研究が持つ意味は2つだ。
① 美容・皮膚科AIの「信頼性」という問いが前景化する:
「精度が高い」だけでは医師も患者も採用しにくい。「なぜその判断か」を示せるAIが標準になる方向が見えてきた。
美容医療でも「AIによる肌分析」ツールが広がっているが、根拠の可視化は同様に重要な問いになる。
② 「色素性病変」という領域は美容皮膚科との親和性が高い(NERO編集部の考察):
しみ・そばかす・色素斑の判別は美容皮膚科でも重要なテーマだ。
レーザー治療の適応判断にAIがどう応用されうるかは今後の議論となりうる(NERO編集部の考察・論文が直接言及しているものではない)。
まとめ
- ✦近畿大学・京都大学・札幌医科大学・広島大学を含む共同研究グループが、通常のカメラで撮影した一般的な皮膚写真から8種類の色素性皮膚病変を分類し、AIの判断根拠をヒートマップで可視化する「説明可能AI」を開発した。JAAD International 2026年7月23日掲載(DOI: 10.1016/j.jdin.2026.07.002)(京都大学プレスリリース直接確認)。
- ✦「精度が高い」だけでなく「AIがどこを見て判断したかを医師が確認できる」設計が核心だ。ヒートマップは病気ごとに注目箇所が異なることも示しており、教育ツールとしての可能性も示唆される(NERO編集部の読み解き)。
- ✦「スマホカメラで判別できる」という表現は不正確。正確には「通常のカメラで撮影した一般的な皮膚の画像」を使用。ダーモスコープ等の特殊機器が不要という点が重要だが、一般市民が自己診断できるアプリが完成したわけではない。
- ✦本研究はMulticenter retrospective internal validation studyであり、前向き臨床試験での有効性・一般市民トリアージへの有効性は未検証。「皮膚科専門医がいない地域での診断精度向上に寄与することが期待される」(大塚教授)は将来的な展望として示されている(NERO編集部の読み解き)。
出典・参考文献
- 京都大学. 「8種類の色素性皮膚病変を高精度で判別―診断根拠を可視化するAIを開発、医療現場への導入に期待―」. 2026年8月17日. kyoto-u.ac.jp(本記事の主要一次情報・直接確認済み)
- Iinuma K, Fujii K, Nakashima C, et al. "An explainable deep learning model classifies eight categories of pigmented skin lesions on clinical photographs: A multicenter retrospective internal validation study in Japan." JAAD International. 2026;28:92-94. doi:10.1016/j.jdin.2026.07.002


