2024年12月10日、大手医療脱毛クリニック「アリシアクリニック」の倒産が決定。
被害者の数、被害総額ともに過去最大規模にものぼると言われており、XをはじめとしたSNSでは経営の杜撰さへの指摘が散見されます。
今回の騒動で見えてきたのは、美容医療業界に隠された「自転車操業」の実態でした。
そこでNEROでは、アリシアクリニック倒産の背景を振り返るとともに、美容医療業界のビジネス構造における課題と改善策を考察。
消費者のみならず、経営者、個人事業主、従業員と、さまざまな立場の方へ警鐘を鳴らします。
INDEX
アリシアクリニック倒産の概要
医療法人社団美実会が運営する「アリシアクリニック」は、首都圏を中心に全国に43店舗を展開する大手医療脱毛専門クリニックです。
今回の倒産で被害を受けた方は約9万2,000人、被害総額はおよそ124億円にもなり、従業員約1500名については破産決定同日に一斉解雇されることとなりました。
未消化の施術が残っている契約者については、今後施術を受けることはできず、支払い済の代金が返金される可能性はほぼ0。※
なぜ誰もが知る大手クリニックが突然倒産してしまったのか?それには美容業界に蔓延化する業界のビジネス構造に問題がありました。
※クレジットカード分割払いなどによるクレジットカード会社による保障対応などの可能性あり
アリシアクリニック破産から見えた美容業界の実態とは?
そもそも美容医療クリニックや医療脱毛クリニックが開業する場合、以下のような固定費が発生します。
- 物件の契約・工事費用
- 医療機器や設備費用
- 人件費・光熱費
- 広告宣伝費用
- 備品 など
とくに美容業界は日々クリニックやサロンが乱立しており、新規店舗を展開する際はスピード感を持って認知度を高めることが重要視されます。
そのため固定費の中でも「広告宣伝費」に多額の資金を投じる傾向があり、売上以上に支出が大きくなることも珍しくはありません。
また美容医療・医療脱毛は専門の医療機器を扱うため、機材費用だけでも1,000万円/台を超えることは当たり前。(脱毛機器の相場は300万~2000万と幅が有る)
さらに、医師免許を持った人が常駐しなければいけないことや、人手不足の中で優秀な看護師を雇わなければいけないことを含め、人件費も高額になりがちです。
さらに、脱毛専門業態の場合は時間当たりの単価が1施術者に対し1患者であることが多く、時間生産性もそこまで高くできないという点も大きいでしょう。
多くのクリニックは開業資金の確保のため銀行から融資を受けますが、売上を上回る支出を埋めながら返済していくためには、次々に新規顧客を獲得し、資金を賄わなければいけません。
アリシアクリニックの資金繰りが上手くいかなかったのも、売上と支出のバランスが崩れてしまったことが原因と考えられます。
高額な広告費の問題点については後述の「広告費が経営にもたらすリスク」で解説しますが、同様のビジネスモデルでの失敗例として記憶に新しいのは2023年年末に起こった脱毛サロン「銀座カラー」の倒産。
これより以前にも脱毛サロン運営会社が立て続けに倒産しており、業界中の競争激化と経営困難の連鎖は今もなお続いていると言えます。
▼エステ・クリニック脱毛が倒産したら?対応と対策もチェック
アリシアクリニックの急速な拡大と資金繰りの破綻
アリシアクリニックがどのようにして急速な発展を遂げ、倒産まで至ってしまったのか。Xで寄せられている情報をもとに時系列を整理しました。
アリシアクリニックは、もともと創業10年以上の実績あるクリニックでした。
2018年頃はまだ広告に莫大なお金をかけておらず、口コミを利用しながら、同業サロンとの差別化を図っていたという声もあります。
アリシア契約してたの情弱って言われるけど2018年頃は広告出さないからこの値段で契約できます。お客様の口コミで広めてもらうために初期のお客様は通い放題です。他社(ミュゼとか)と比べて高いのは医療脱毛だから。サロンは毛は減るけど消えないよっていう説明だったんだよなあ
— にくまるさん (@haramisuky) December 11, 2024
2021年はコロナ禍で、業界全体に影響があった年。
しかしアリシアクリニックはタレントを起用した大々的なCM効果で、2021年4月期の決算では過去最高の年収入高約163億1500万円を計上しています。
同年7月には一般社団法人八桜会を立ち上げ、新たな医療脱毛クリニック「じぶんクリニック」を開業。
アリシアクリニックとじぶんクリニックの2本化で集客が2倍になり、コロナ禍を乗り切ったと考えられます。
〔お知らせ〕
アリシアクリニックの姉妹院「じぶんクリニック」ABEMAオリジナルCMに出演させていただきました!
撮影で色々な衣装を着ることができて本当に楽しかったです!!👗
医療脱毛とIPL脱毛、両方から選べるのはすごい✨#じぶんクリニック #全身脱毛 #医療レーザー脱毛 #IPL脱毛 pic.twitter.com/C3Cl4gITKL— 川口葵 Aoi Kawaguchi (@aoi112631) November 3, 2021
出典:@aoi112631さん
順調に思えた経営ですが、2023年末に「銀座カラー」が倒産。
運営会社の(株)エム・シーネットワークスジャパンのグループ法人としてクリニック運営を行っていたアリシアクリニックも影響を受け、解約者が続出するなど一時的に経営が悪化します。
同年11月に、アリシアクリニックは資金繰り改善のためグループ法人を離脱し、さらなる改善のため「じぶんクリニック」を「アリシアクリニック」へ統合。
しかしこの判断が凶と出たのか、アフェリエイト広告での集客が統合前に比べて激減。コロナ後のセルフ脱毛機の普及も客足を戻せなかった要因の1つと言われています。
2024年に入ると既存客から「予約が取れない」「ポイント消化できない」などサービスの改悪に不満の声が続出し、中にはすでに倒産の予兆を察知している方も。
たぶんアリシアクリニック潰れる。
23区内で施術受けられるのたったなんと4つの院だけ。
2025年の4月まで予約いっぱいで取れないよ #アリシアクリニック#じぶんクリニック— ぷう (@pop_step_puu) November 19, 2024
同年11月頃には倒産を示唆する声、不満の声が目立つようになり、12月4日にはアリシアクリニック公式ホームページにて「システム障害による新規カウンセリングの停止」が掲載されます。
そして12月9日に「臨時休業のお知らせ」がアプリで配信され、翌日、文書とともに正式に倒産が発表されました。
東京商工リサーチによると、2023年4月期の決算ではすでに赤字だったとのこと。
元従業員のポストでは、春頃から福利厚生の見直しや給与カットが行われていたことも暴露されており、この経緯からアリシアクリニック側は、どこかのタイミングで倒産を視野に入れながら、それでも新規顧客をストップしなかった・できなかったことが伺えます。
契約金を前払い済なのに1度も施術を受けていない方も多く、多方面の有識者から脱毛業界の自転車操業的なビジネスモデルの限界を指摘されています。
アリシアクリニック倒産から学ぶ借入と広告費が経営にもたらすリスク
ここからは、アリシアクリニックの倒産から学ぶ借入と広告費のリスクについて解説。何が敗因だったのか?どこで間違ったのか?
現在も野放しになっているビジネスモデルの課題を紐解いていきましょう。
1.過大な借入と広告費のリスクの仕組み
本来無理のない返済で安定した経営を行っていくには広告費を含む固定費を削減し、初期費用を抑えることが重要です。まずは以下の図をご覧ください。
同じ売上高でも固定費が高いだけで、利益は少なく、利益が出るまでの損失が多いことが分かります。
一方、医療脱毛クリニックが新規店舗展開や広告キャンペーンに資金を投入するために、開業資金の不足分を銀行に融資してもらうのは常套手段。
提供するサービスが長期契約や高額プランも含まれるため、新規契約者の増加が続く限り、多少広告費が高くても売上を元手に積極的に事業拡大を進められるスキームになっています。
そこで早く多くの顧客獲得を狙うには、やはり広告を多く打ち出すのが効果的。しかし、何らかの要因がきっかけで売上が下降し続けると、広告費への投資が仇となり、資金が一気にひっ迫するリスクも潜んでいます。
また、医療脱毛クリニックでは多くの場合、コース契約金を前受金として預かります。前受金は施術をして初めて売上に計上できるものであり、契約後に来院されなかった方がいた場合は売上に反映することができません。
上記図の固定費がそのままで、実際の売上はもっと低いと考えるとどうでしょうか。さらなる売上アップを目指して新規顧客をどんどん増やすことになりますが、次のような弊害も出てきます。
2.新規店舗展開と借入返済の悪循環
広告を打ち新規顧客を獲得しても、コース契約者で店舗のキャパシティがいっぱいになれば既存客の予約が取りにくくなります。
前受金の消化ができず、売上にも反映できない。既存客からの不満も溜まり、解約者が現れれば返金することで売上見込みが減る……。
このような事態を避けるには、広告費用で不足した運転資金を補填するためさらなる融資を受け、新たな顧客の受け口として新規店舗を開設せざるを得えません。
さらに「医療脱毛専門」であれば回数が完了次第リピーターにつながる可能性は低く、経営を続けるためには1店舗目と同様に、2店舗、3店舗と店舗を増やしていくしかないという悪循環に陥るのです。まさに、役務ビジネスの魔の循環サイクルといえます。
3.広告効果の限界と競争激化
そして、広告の費用対効果が必ずしも良いとは言えないこともリスクの1つ。
医療脱毛は医師と機械さえ用意できれば民間企業も参入できるため、今や超レッドオーシャンと呼ばれるほど競争が激しい業界です。
| 【コラム】医療脱毛クリニック専門にいる医師はどんな医師が多い? ・他の施術と比較し、患者側も「この医師でなければ脱毛したくない」といったニーズがない ・アルバイト・日当などで雇われた非常勤医師も多い ・院長など、管理責任者としての名称を出したくないという人も多い(経歴への不安) ・追加手当が支払われる、管理責任者としての求人もある 以上のことから、医療従事者が理事長(医療法人)ではない、一般社団法人による設立も多くみられる業界であり、美容外科などと比較し圧倒的に参入障壁は低いと言えるでしょう |
アリシアクリニックの競合は湘南美容クリニック、あおばクリニック、エミナルクリニック、レジーナクリニックなどの大手ばかりで、アリシアクリニックはその中で目立つ広告を打ち出す必要がありました。
実際に、有名タレントを起用したテレビCM、雑誌への掲載、電車の吊り広告などのOOHといったオールドメディアから、スマホユーザーに向けたウェブ媒体まで、手広く利用する戦略が知名度向上に貢献しました。
しかし、リスティングなどの先行投資型の認知コストに加え、アフィリエイト(成果報酬型の広告)は1来院ごとにアフィリエイターにマージンを支払うシステム。
集客した分だけコストがかかるほか、競合が増えるほど広告料(リスティングコストの単価や、アフェリエイターへのマージンの高額化競争)は高騰し、結果的に広告費への投資が赤字経営を招いたとも言えます。
また、医療脱毛業界ではユーザーを1人でも多く取り込むため施術料の値下げ合戦も勃発。「広告料は高い・集客が見込めない・単価が下がり売上が減る」この悪循環が続いたことで、赤字経営のまま固定費が圧迫し、キャッシュフローが回らなくなったと推察できます。
美容医療業界への警鐘:健全な経営モデル・健全なキャッシュフロー化への移行
アリシアクリニックのような事例を今後生み出さないために、改善できることとは?NEROでは業界全体への警鐘として次の改善策を提案します。
1.消費者に対する制度の改善
美容クリニックの倒産リスクを回避するには、消費者に安心してサービスを受けてもらうことが大前提のはず。
一般診療の世界と異なり、ビジネスとして成立する自費診療の世界においては、一部の経営情報の開示を義務付けたり、業界全体で保障制度を構築したりと、クリニックの透明性を高め、消費がより安心できる仕組みづくりを実施することが急務なのではないでしょうか。
また、経営面でキャッシュフローを意識することももちろん大切ですが、都度払いプランや1回契約コースを用意し、消費者がニーズに合わせて選択できる営業形態も整備していくべきなのかもしれません。
2.美容医療業界の自己改革
過去の倒産事例や成功事例から教訓を引き出し、自社の経営に落とし込むことも重要です。
今回の件で言えば、広告や店舗数の拡大に頼るのではなく、既存顧客の満足度向上やリピート率を上げる施策に転換することが、長期的に安定した経営につながると考えられます。
また、それぞれのクリニックがサービスの品質向上や独自性を打ち出し、価格競争からの脱却を目指すことも欠かせない要素。
例えば医療脱毛で成功しているクリニックは、肌管理やシミ治療などほかの施術も人気で、脱毛に依存しない収益構造が確立されています。
目先の利益にとらわれず、長期的にキャッシュフローを安定化させる仕組みを構築することが、持続可能な経営への近道なのではないでしょうか。
※実際、アリシアクリニックも脱毛業態だけではここまで述べてきた課題が解決できず、美肌系の治療メニューの都度払いシステムなどを検討し進めていた流れもあった中ですが、方向転換をしきれなかったようです。
要因として、施術が増加するたびにそれぞれの施術に対して掛かってくる広告コスト・追加の人材育成コスト・機材導入などの追加投資を得られず、許容しきれなかったというのも実情と考えられます。(関係者談)
まとめ
アリシアクリニックの倒産は、脱毛クリニックならではの営業形態、ビジネス構造がもたらした結果と言えます。
これほどの大手脱毛ビジネスは、一般的な美容外科・皮膚科などの美容医療クリニックの経営手段とは似ているようで異なるものですが、美容医療業界、消費者ともに、多くの教訓を得られたのではないでしょうか。
しかし教訓と言って済ませられるようなコース料金ではない、という患者側からの悲痛な叫びも我々には届いています。
とはいえ、銀座カラーの倒産から約1年のできごと。「まだ、他の大手脱毛クリニックも後に続くのでは…」というような心配な声、解約も相次ぐという情報もあります。
NEROでは、患者目線でも、クリニック経営者の方の目線でも、今回の騒動が最後になるのを願うとともに、美容業界のさらなる発展を期待しています。
※本件は関係者などに聞き取り・調査の上で独自に執筆されています。
※事実と異なる表現などがある場合など、追加編集していきます。(情報提供受付中)
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