
美容医療の世界では、常に新しい技術や治療法が登場しています。しかし、その中にはクリニックが導入を検討したものの見送られたり、一瞬流行しただけですぐに廃れたりするものも。
今回の記事ではそうした過去の治療を振り返り、代わりに現在おすすめできる実績のある技術や治療法、美容医療を受ける前に押さえておきたいポイントを紹介します。
美容医療初心者にも分かりやすく、美容医療を受ける際に誤った選択をしないためにサポートする内容です。最後までぜひご覧ください。
INDEX
一瞬流行ったけど廃れた治療法とは?過去の美容医療トレンドを振り返る
まずは、美容医療の世界でかつては期待されたものの、技術的な課題やリスクのために2025年現在ではあまり見かけなくなった治療法について振り返ります。廃れてしまった背景や、クリニックが導入を見送った理由などについて詳しくチェックしていきましょう。
■妊娠線アートメイク
「妊娠線アートメイク」とは、医療アートメイクの技術で妊娠線をカモフラージュする施術です。妊娠線自体を消すのではなく、妊娠線ができて白くなった部分に色素を注入し、もともとの肌の色味に近づけて目立たなくします。
真皮にダメージが及んでいる妊娠線は自然に消えることが難しく、肉割れや傷痕などと同様で痕が残ってしまいます。また、一度できてしまうと保湿ケア・ダイエット・マッサージなどをしても改善効果はほとんど期待できません。
【妊娠線アートメイクが廃れた理由】 |
【代替施術】 AI搭載の先端医療アートメイク「Skin52」 |
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■施術者により仕上がりに差が出たため 「妊娠線アートメイク」の仕上がりは施術者の技術レベルやセンスによるところが大きかった。施術者の視覚に頼るため注入した色素がもともとの肌色になじまなかったり、期待したほど妊娠線がカモフラージュできていなかったり、などの理由で人気が続かなかった。 |
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■特徴1:施術者による仕上がりの差が出にくい 「Skin52」の施術は妊娠線ができた部分を専用の針で1度なぞるだけ。従来のアートメイクのように同じ個所に何度も色素を重ねる必要がないため、施術者の技術レベルやセンスに左右されにくい。 |
■注入した色素の変色により逆に妊娠線が目立ったため アートメイクで使用する肌色に近い色素は、注入後に体質や紫外線などの影響を受けて変色しがち。一般的には黄色い色素が残ってしまうため、施術した妊娠線の部分が黄色く浮き上がり、施術前よりも妊娠線が不自然に目立つこともあったよう。 |
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■特徴2:AIによる肌色分析でナチュラルな仕上がり 測定した肌色をAI搭載のアプリで分析し、施術者の視覚だけでは再現が難しい色味を細かく調合。そのため、注入する色素がもともとの肌色となじみやすく、ナチュラルな仕上がりが期待できる。 |
■施術時の痛みや出血により敬遠されたため 「妊娠線アートメイク」は、出血を伴う程度の深さに色素注入のための針を刺す。そのため、麻酔クリームを使用して施術を行う必要があり、痛みの不安が強い人や出血が苦手な人には避けられる傾向にあった。 |
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■特徴3:施術時の痛みや出血の心配が少ない 「Skin52」は一般的なアートメイクと比べて皮膚の浅い層に針を刺すため、施術時の痛みを感じにくく出血もしにくい傾向にある。麻酔の必要がないレベルの痛みだが、施術では麻酔クリームを使用することもできる。 |
■ダーマペン
「ダーマペン」とは、微細な針で皮膚にたくさんの穴を開けることにより、皮膚がダメージから再生する能力を高めることが期待できる美肌治療です。「ダーマペン」と併用する「ヴァンパイアフェイシャル」が流行したこともありますが、現在はほかの代替施術が流行しています。
▽「ダーマペン」と「ヴァンパイアフェイシャル」に関する記事はこちら
【ダーマペンが廃れた理由】 | 【代替施術】 | |
■1回の施術では効果を実感できない ケースがあったため ダーマペンは1回だけでは施術の効果を実感しにくい。毛穴の開きやクレータータイプの深いニキビ痕、シミ・くすみ*1・小ジワ*2などの改善には5回以上の施術を受ける必要があった。即効性のある肌治療を求める人や、継続治療を受けることが難しい人にはあまり選ばれなかった。 |
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■1回目から効果を実感!肌育注射「PLURYAL DENSIFY(プルリアル デンシファイ)」 「プルリアル デンシファイ」は、PN(ポリヌクレオチド)・HA(非架橋ヒアルロン酸)・マンニトールを配合した製剤。注入直後からボリュームアップを実感でき、施術の数週間後から皮膚の再生効果があらわれることが多い。 |
■肌状態が悪化するケースがあったため 施術者の知識や経験が浅く、本来ならば「ダーマペン」による治療を控えたほうが良い人が受けたり、施術後のアフターケアが十分でなかったりして、肌状態が悪化するケースもあった模様。 |
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■直接的にアプローチする「ポテンツァ」や「トライフィル」「ニードルRF」 「ポテンツァ」や「トライフィル」は、皮膚に刺した針の先からRF(高周波)や炭酸ガス(CO2ガス)で肌悩みの原因へ直接的にアプローチ。どちらもドラッグデリバリーシステム搭載で、肌状態に適した薬剤を肌内部に直接届けられる。 |
■ダウンタイムが長かったため 一般的に、「ダーマペン」のダウンタイムは1~2週間ほど。とくに、皮膚の深層に針を刺すクレータータイプのニキビ痕治療はダウンタイムが長い傾向にあり、よりダウンタイムの短い治療法に人気がシフト。 |
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■ダウンタイムが少ない「フラクショナルレーザー」 「フラクショナルレーザー」も「ダーマペン」と同様に皮膚の表面にダメージを与える施術。ただし、ダウンタイムは5日~1週間程度で、「ダーマペン」よりもダウンタイムが少ないため選ばれるように。 |
*1汚れの蓄積・乾燥・古い角質層によるもの、*2乾燥によるもの
■オステオポール(オステオポア、PCLボール)や、糸のみの鼻オペ(切らない鼻尖 形成など)
「オステオポール(オステルポア、PCLボール)」とは、体内で溶ける性質のあるPCL(ポリカプロラクトン)製の糸でできたメッシュ構造のボールです。ボールのほかにドーム型の「PCLドーム」もあり、それらを鼻先の皮膚の下に挿入して鼻先を高くする手術が行われてきました。
また、糸のみの鼻オペ(切らない鼻尖形成など)とは、糸で鼻先の幅を細く縫い縮めてシャープな印象の鼻にする手術です。
どちらも美容外科で一時的に流行した素材を使用していた治療法ですが、身体被害が多数報告されたため、その危険性の高さからすぐに廃れることに。
【オステオポール・糸のみの鼻オペが廃れた理由】 | 【代替施術】 | |
・オステオポール(オステルポア、PCLボール)の場合 ■挿入位置からズレやすかったため 「オステオポール」と周辺の組織がなじむまでの期間や表情の動きによって、挿入した素材が上下や横方向にズレることがあった。■皮膚に負担がかかりやすかったため 「オステオポール」は硬い材質のため、挿入箇所付近の皮膚に負担がかかりやすい。鼻先に「オステオポール」の形が浮き出るケースや、鼻先の皮膚から「オステオポール」が飛び出すという身体被害も。■軟骨が変形したため 鼻の軟骨が弱い人は「オステオポール」の挿入により鼻先や鼻柱が変形することもあった。 |
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・安全性が高い施術「鼻先のヒアルロン酸注入」 ■体への負担がかかりにくい ヒアルロン酸はもともと体に存在する物質のため、体への負担が少なくなじみやすい。■痛み・ダウンタイムが少ない 個人差はあるが、細い注射針でヒアルロン酸製剤を注入するだけの施術のため、痛みやダウンタイムが非常に少ない。■ボリューム調整や修正も可能 注入量を細かく調整できる。仕上がりがイメージ通りでない場合は、ヒアルロン酸製剤を溶解する注射をして一定期間経てば再施術も可能。※ただし、鼻先へのヒアルロン酸注入は高度な技術が必要なため、信頼できるクリニックや医師に施術を受けることが重要! |
・糸のみの鼻オペ(切らない鼻尖形成など)の場合 ■切開を伴う鼻尖形成手術に比べると効果が低く、糸が緩むと効果が薄れる 切開を伴う鼻尖形成手術のように効果は半永久的ではなく、糸が緩むと元の鼻の状態に戻りがちだった。 |
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流行の終わりを迎えた治療に代わる、現在出てきている「続きそうな」ブームとは
続いては、カルシウムハイドロキシアパタイト(以下CaHA)を例に取り、一旦は流行の終わりを迎え、その後別の形で再度美容医療のトレンドとして引き続きブームになりつつあるものを紹介します。
■カルシウムハイドロキシアパタイト(CaHA)とは?
カルシウムハイドロキシアパタイト(以下CaHA)とは、ヒトの骨や歯などに含まれている成分です。
かつてはやわらかいヒアルロン酸製剤しか存在しなかったために、ヒアルロン酸製剤の代替としてCaHAを含む硬いフィラー(注入剤)の「レディエッセ(RADIESSEⓇ)」が登場。
その後、次第に硬いヒアルロン酸製剤が開発されたことでヒアルロン酸製剤に市場が戻り、CaHAの流行は一旦収束しました。
しかし、肌質を改善するスキンブースターの流行とともにコラーゲンを刺激する働きを持つCaHAが再注目されるように。
そして、「ハーモニカ(HArmonyCaTM)」や「ニュービア(NEAUVIATM)」といった新しいコンセプトの製剤が誕生し、CaHAは再び美容医療トレンドとしてブームになりつつあるのです。
■CaHAを含有するレディエッセ・ハーモニカ・ニュービアの製剤比較
ここまでに登場した、CaHAを含む製剤を展開する「レディエッセ」・「ハーモニカ」・「ニュービア」の各製剤についてまとめておきましょう。
レディエッセ |
ハーモニカ |
ニュービア |
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施術箇所 | フェイスライン・鼻筋・あご・こめかみ・頬こけ・ほうれい線・手の甲など | 額・こめかみ・ 頬こけ・ジョーライン(耳前~下あご先につながるライン)など |
顔全体 |
持続期間 | 1年~1年半程度 | 9ヶ月~1年程度 | 12〜18ヶ月程度 |
即効性 | あり (コラーゲン生成効果も期待できる) |
あり | あり |
注入量 | 1.3ml | 1.25m | 1ml |
痛みについて | 麻酔成分を混ぜて注入するため抑えられる | 表面麻酔・ブロック麻酔などの使用で抑えられる | 表面麻酔・ブロック麻酔などの使用で抑えられる |
粘弾性 | やや硬め | 中程度 | 非常に硬い |
ダウンタイム | 数時間~数日程度 | 数時間~2日間程度 | 数時間〜数日程度 |
出典:
レティエッセ https://www.medicadepot.com/radiesse.html?utm_source=chatgpt.com
ハーモニカ https://www.harmonyca.info/?utm_source=chatgpt.com
ニュービア https://www.neauvia.com/product/stimulate/
■CaHA製剤として注目されているニュービアの特徴
「ニュービア」はCaHAのラインナップもそろっていますが、ヒアルロン酸自体のクオリティが高く、従来のヒアルロン酸製剤とは架橋剤*が異なるためまったく違う性質になっています。
ここでは、シリーズの中からクリニックで導入されることが多い「ニュービアSTIMULATE」について詳しく紹介します。
*架橋剤……ヒアルロン酸製剤の粘弾性を調整し、体内での分解・吸収を遅らせる添加剤のこと。
■特徴①:架橋剤にPEG(ポリエチレングリコール)を使用
ヒアルロン酸製剤の実に9割以上で、架橋剤にBDDE(1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル)が使用されているようです。
しかし、BDDEにはアレルギーのリスクがあり、近年、長期持続型ヒアルロン酸製剤による遅発性アレルギーの報告が増加しています。そのため、過去にアレルギーを起こしたことのある人でも使用できるヒアルロン酸製剤が、現在求められているのです。
「ニュービアSTIMULATE」は架橋剤にPEGを使用しているため、今後ヒアルロン酸製剤としてのニーズが高まることが予想されています。
■特徴➁:少量で効果を実感できる
「ニュービアSTIMULATE」はCaHAが1%配合されているため凝集性や粘弾性が高く、注入量は1箇所につきわずか0.01ml程度。まとまった量を1箇所に注入しなくても、リフトアップ効果やコラーゲンの生成を促進する効果が期待できます。
流行に飛びつく?orじっくり待つべき?施術選びのポイント!後悔しないために知っておきたい美容医療の選び方
最後に、美容医療の流行やキャッチ―な広告などに惑わされず、自分に合った治療法を選ぶためのコツを紹介します。
■「身体被害が少ない」というエビデンスのある治療法を選ぶ
使用する製剤や素材、治療法のメカニズムなどの観点から「身体被害につながりにくい」と判断できる治療法については、挑戦してみても良いかもしれません。
治療法のエビデンスについては、KOL*(キーオピニオンリーダー)やその分野の専門医、学会の理事などが在籍するクリニックの公式ホームページやSNSなどで情報を集めると良いでしょう。
分からないことはクリニックに問い合わせたり、無料カウンセリングで相談したりする方法もあります。
*KOL……特定の分野に影響力を持つ専門家のことを指す。Key Opinion Leader(キーオピニオンリーダー)の略。
■エビデンスや症例が少ない治療法については情報収集をしたうえで検討
エビデンスや症例数が少ない治療法については、「なぜ症例数が増えないのか?」「どのような理由でクリニックでの導入が見送りになるのか?」という情報を知っておくことは非常に大切です。
こちらも、インターネット上でKOLや専門医などが在籍するクリニックから情報を集めてみましょう。
どの治療法にもメリットとデメリットはあるものですが、身体被害が報告されているものについてはとくに慎重に検討する必要があるでしょう。
【コラム】美容医療施術が廃れる2つのパターン
美容医療施術が廃れる背景には、つぎの2つのパターンに大きく分けられます。
(1)複数クリニックに浸透して美容医療トレンドとなる前に収束するパターン
一般的に、美容医療の世界では新しい技術や治療法が多くのクリニックに浸透するまでには以下のフローを辿ります。
クリニックでの試験導入 or KOL在籍クリニックでの導入 ↓ クリニック内スタッフ対象のデモンストレーション ↓ 患者さまモニター募集・モニター価格での施術 ↓ 通常価格での施術提供開始・クリニック患者さまへの浸透 ↓ 複数クリニックへの浸透 |
しかし、複数のクリニックへ新しい技術や治療法が浸透する前の段階、つまり美容医療トレンドとなる前に、費用対効果や施術を受けた人の反応、継続性の困難さなど何らかの理由で終わりを迎えることがあるようです。
(2)浸透しても、危険性や経過不良の観点から続かないパターン
上記(1)のフローを経て複数クリニックへ一定の浸透が見られた場合でも、その後で治療法の危険性が明らかになることもあります。また、短期的な効果は良好でも、長期的な経過は良くないことが後々発覚することもあるようです。
そのような治療法は人気が続かず、導入しても長期的に施術できないため、クリニックの判断で提供を断念することがあります。
まとめ
今回の記事では、現在は廃れてしまった過去の美容医療トレンドや、一旦流行のピークを終えた後に別の用途で再注目されている製剤について見てきました。
美容医療の流行スピードは非常に速く、次々に打ち出される美容医療広告の印象に振り回されてしまうこともあるかもしれません。
ただ、過去の傾向から現在流行中の美容医療トレンドのブームが長く続きそうか、身体被害や長期的な経過の面で検討するとどうなのか……といった冷静な視点を持っておくことは非常に大切です。
美容医療で理想の自分に近づくためにも、新しい治療法にチャレンジする前は今回の記事内容を思い出して活用していただければ幸いです。
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