📌 この記事をざっくりまとめると……
- NEROはこれまで「直美問題」「カウンセラーによる違法診断」「再生医療規制の抜け穴」を個別に報じてきた。
今回、それらを一本の線でつなぐ根本的な問い——「日本の美容医療には統一的な専門教育制度が存在しない」——に改めて向き合う - 英国・台湾・フランスなど先進9カ国がほぼ同時期に制度整備を加速させている。
共通するメッセージは「教育は商業化に先行しなければならない」だ - 日本の美容医療の質向上に向けて問題提起されている皮膚科専門医・小林ひかり先生(こばやし皮ふケアクリニック)に、現場の視点からコメントをもらった
2024年に「直美問題」を特集した。
2025年に「カウンセラーによる診断は違法」という厚労省通知を報じた。
今年(2026年)には「再生医療法改正と美容クリニックへの影響」「韓国のゴースト・ドクター問題」を取り上げた。
これらは別々の問題のように見える。
しかし取材を重ねるうち、NEROはひとつの問いに繰り返し行き着くようになった。
「そもそも、日本の美容医療に統一的な専門教育の基準はあるのか?」
答えは、ない。
INDEX
「直美」から「カウンセラー診断」まで——問題の根はひとつだった
NEROがこれまで報じてきた問題を並べると、共通する構造が見えてくる。
📋 NEROが追ってきた日本の美容医療問題——共通する構造
初期研修を終えた翌日から美容クリニックに立てる——皮膚科学・解剖学・合併症対応を学ぶ機会のないまま、施術者になれる制度の空白 →NERO特集
医師ではないカウンセラーが実質的に施術内容を決めていた——厚労省が2025年に違法と明文化。
「医師が施術内容を判断できるだけの知識を持つべき」という前提そのものが揺らいでいた →NERO記事
エクソソーム・幹細胞培養上清が届出なしで美容クリニックに流通——「この製剤が何で、どんなリスクがあるか」を医師が判断できる基礎知識の担保がなかった →NERO記事
薬機法の承認審査対象外の製品が美容クリニックで使われ続ける——「承認未取得であることのリスク」を医師が適切に評価・説明できるかどうか、担保する仕組みがない →NERO記事
共通する根本:「何を学んだ医師が、どんな施術をするか」を定める統一的な教育・資格制度が存在しないこと
世界は同じ問いに、それぞれの答えを出し始めた
この問題は日本だけで起きているわけではない。
美容医療が急拡大した国々で、同じ構造的問題が生じ、それぞれが制度整備で対応してきた。
この状況を受けて、英国は「放置できない」と判断した。
規制機関Ofqualが教育基準を設定し、JCCPという機関が業界認定制度を整備している。
スコットランドでは2026年1月にライセンス制の法案草案が公表された。
そして英国の専門家がこう述べている。
ガバナンスが成長を支えなければならない。
能力は実証可能でなければならない。」
Interface Aesthetics(英国)創設者・外科医 2026年2月
これは英国だけの話ではない。
NEROが各国の制度を調査した結果を示す。
「技術を習う」ことと「医療を届けられる」ことの間にある溝
2024年6月、厚生労働省 医政局が設置した「美容医療の適切な実施に関する検討会」の第1回資料に、以下が公式の政策課題として明示された。
・無資格者による診察・施術
・不十分なインフォームドコンセント(患者への説明と同意の不足)
・不安を煽る・強引な勧誘や契約
・質の低い診療・合併症を伴う診療
・カルテ不記載
これらは「統一的な専門教育制度がない」という構造的空白が生み出す問題そのものだ。
NEROが個別に取材してきた問題が、国の検討会で一覧として確認されたことは、問題の深刻さを示す重要な証拠だ。
出典:厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会 第1回 資料3」令和6年6月27日(医政局)
この問題を整理するとき、NEROが繰り返し感じてきた違和感がある。
「技術を習ったこと」と「その技術を患者に安全に届けられること」は、同義ではない。
技術研修で習えること
注射の打ち方・レーザーの設定・機器の操作手順。
企業主体の研修会や勉強会で比較的短期間に習得できる
教育的な訓練なしには身につきにくいこと
「今この患者にこの施術は適切か(適応の判断)」「どんな禁忌があるか(禁忌の理解)」「合併症が起きたとき何をすべきか(緊急対応)」「患者が断れない状態になっていないか(インフォームドコンセント)」——これらは皮膚科学・解剖学・臨床経験の積み重ねの上に成り立つ
日本でこの溝を埋める仕組みが整っていないことを、NEROは複数の取材を通じて確認してきた。
2025年に厚労省が「カウンセラーによる診断は医師法違反」と明文化したのも、「医師が自ら判断・説明できているはずだ」という前提が現場では崩れていたからだ。
SUPERVISOR COMMENT
小林 ひかり先生こばやし皮ふケアクリニック/皮膚科専門医(日本皮膚科学会認定)
日本で直美問題や未承認製剤の問題が続く背景には、「何を学んだ医師が美容医療を行うべきか」という共通の問いへの答えがない、という構造的な空白があると感じています。
皮膚科専門医として日々の診療でつくづく感じるのは、施術の手技を覚えることと、目の前の患者さんにとってその施術が本当に適切かどうかを判断できることは、まったく別のスキルだということです。
後者は皮膚科学の基礎・解剖の深い理解・豊富な臨床経験なしには身につきません。
台湾・フランスが制度整備を加速させているのは、この「溝」を放置すると患者が被害を受け続けるという共通認識が広まったからだと思います。
日本でも、学会や関連団体が連携して「美容医療を行う医師が備えるべき基礎知識と技術」の基準を作り、患者さんが客観的に「この医師は信頼できる」と判断できる仕組みを整えていく議論が必要な段階に来ていると感じています。
日本の制度も、確実に変わりつつある
「制度が何も変わっていない」わけではない。
NEROが取材を続ける中で、日本の制度も確実に動いている。
ただしその動きは「個別の問題への対処」が先行し、「教育・資格の根本的な整備」はまだこれからだ。
📅 日本の美容医療規制——近年の変化
医療広告ガイドライン・ネット広告規制開始
「美容医療の適切な実施に関する検討会」発足(令和6年6月27日 第1回)。
厚生労働省が公式に課題として認定した内容:「無資格者による診察・施術」「不十分なインフォームドコンセント」「質の低い診療・合併症を伴う診療」「カルテ不記載」——NEROが報じてきた問題が、国の検討会で公式の政策課題として明示された(厚生労働省 医政局 資料)
カウンセラーによる診察の違法化・メールやチャットによる診察は不可・病院管理者の安全管理・報告義務強化(医師法17条適否等例示)
外来医師過多区域制度化。
改正再生医療法施行(5月31日)。
厚労省・関連学会による教育制度整備の議論が本格化しつつある
「問題への対処」は進んでいる。
しかし「教育基準の根本整備(台湾・フランスが進めているもの)」にはまだ至っていない——これがNEROの現状認識だ
患者として「今すぐできること」
制度が整備されるまでの間、患者として自分を守るために何ができるか。
- 「この施術の適応と禁忌を教えてください」——すぐに答えられる医師は、基礎医学的な理解がある。
「大丈夫ですよ」だけで終わる場合は要注意 - 「合併症が起きたとき、どう対応しますか?」——具体的なプロトコル(手順)と対応体制を確認できる
- 「先生の専門科・研修歴を教えてください」——皮膚科・形成外科の専門研修を経ているかどうかは、安全性評価の参考になる
- 「使う製剤・機器の承認状況は?」——薬機法の承認を受けているかどうか、未承認の場合はどんなリスクがあるかを説明できる医師を選ぶ
「直美問題」「カウンセラー違法診断」「再生医療規制の抜け穴」「未承認製剤の流通」——NEROが2年間追い続けてきた問題は、いずれも「統一的な専門教育制度がないこと」という同じ根から生えていた。
英国では2年間で施術者が437%増え、台湾・フランスは急いで制度整備に乗り出した。
日本はまだ「個別の問題への対処」の段階にある。
「制度が整うまで待つ」という選択は、患者側にはない。
だからこそ「この医師はどんな教育を受けてきたか」を問う習慣が、今すぐできる最善の自衛だ。
NEROはこれからも、「感情ではなく理解で選べる美容医療」を届けるために、この問題を追い続ける。
まとめ
- NEROが報じてきた直美問題・カウンセラー違法診断・再生医療の空白は、すべて「統一的な専門教育制度がない」という同じ根から生えている
- 英国・台湾・フランス・シンガポールは制度整備を加速中。
共通する原則は「教育は商業化に先行しなければならない」 - NEROの調査では日本は先進国で唯一、統一的な美容医療の専門教育制度を持たない状況が確認された
- 制度が整うまでの間、患者が今すぐできることは「適応・禁忌・合併症対応・製剤承認状況の4点を確認する習慣」を持つこと
よくある質問
熱心に学んでいる直美の医師もいます。
ただし皮膚科・形成外科の専門的な訓練を経ていない場合、適応の判断・合併症対応が難しくなるリスクがあることは事実です。
「どんなトレーニングを受けているか」「合併症への対応体制は?」を事前に確認することが重要です。
台湾の「難易度別3段階資格」は「一律に高いハードルを課すのではなく、施術のリスクに応じた段階的な基準を設ける」という合理的な設計です。
フランスは日本と同様に「保険診療の収益性低下による美容への医師流入」という問題を抱えており、その対応として大学正式教育を設けました。
両国の経験が日本の制度整備の議論に活かされることが期待されます。
各学会のウェブサイトでも専門医の認定状況を検索できます。
また「この施術を何例行ってきたか」「合併症が起きたときはどう対応するか」「使う製剤の承認状況は?」をカウンセリングで直接聞くことも有効な確認方法です。
出典
Zargaran A et al.「Mapping the UK Aesthetic Medicine Industry」Aesthetic Surgery Journal Open Forum 2026年2月11日(DOI: 10.1093/asjof/ojag006)/ Interface Aesthetics「Aesthetic Medicine in 2026」2026年2月26日 / Gaskell A, Brondstater K「The Need for Regulated Training and Certification」J Clin Aesthet Dermatol 2025;18(7-8 Suppl 1):30-40 / 厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会 第1回 資料3」令和6年6月27日(医政局)/ 厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会の議論の状況について」令和6年10月30日 第111回社会保障審議会医療部会 資料1 / 厚生労働省「医師法17条適否等例示(令和7年8月15日付 医政発0815第21号)」/ 台湾衛生福利部「美容醫學相關規定」2026年 / フランス保健省「Diplôme inter-universitaire de médecine esthétique」2025年

