Journal of Clinical Medicine 2026年1月22日掲載 / TCBネットワーク110施設・299,413件
「ヒアルロン酸は若い人が受けるもの」
その認識が、データで覆された。
2026年1月、東京中央美容外科(TCB)ネットワークの研究グループが
Journal of Clinical Medicineに、全国規模の大規模HA注入データ解析を発表した。
2020年10月〜2024年12月、全国110施設・299,413件の治療セッション・417,590の注入部位を分析した結果は、
市場の「需要構造が変わった」ことを明確に示している。
2024年には40代以上が63.7%を占め、最多注入部位は眼窩縁(tear trough)が22.6%。
「輪郭を作る」から「顔全体をリジュビネーション(若返り再設計)する」へ──
日本の美容医療における年齢構成と注入部位の比率変化が、需要構造の変化を示唆している。
- ✦このデータが何を調べたのか──TCBビッグデータの規模と限界
- ✦「40代以上が63.7%」が意味すること──年齢構成の変化を読む
- ✦なぜ「眼窩縁」が最多になったのか──部位変化の解剖学的背景
- ✦年齢別の注入部位の違い──「若者は顎・高齢者は眼窩縁」の構造
- ✦「輪郭づくりから全顔設計へ」の変化が患者・クリニック双方に意味すること
INDEX
このデータが何を調べたのか──
TCBビッグデータの規模と読み方の注意点
まず、このデータの規模と性質を正確に理解することが重要だ(論文全文・MDPI直接確認)。
① TCBネットワーク由来:日本の美容医療市場全体の無作為標本ではない。ネットワーク固有のマーケティング・価格設計・トレーニング方針の影響を受けている可能性がある。
② 「patients」は来院回数のカウント:ユニーク患者数ではない。同じ人が複数回来院した場合は複数カウントされている(論文に明示)。
③ 製剤の影響:2021年にYVOIRE(LG Chem)に統一されており、製剤特性が部位選択に影響した可能性は否定できない。
「40代以上が63.7%」が意味すること──
年齢構成の変化を読む
年齢分布の変化は明確だ。
2020年時点では20代が最大層だったが、
2023年には40代が最大層へ移行し、40代以上が過半数に転換した。
施設数増加(64→110施設)がある程度の件数増加を説明するが、
論文自身が指摘するように「施設当たりの平均患者数」が2021年の391.7件から2024年の1068.9件へと約2.7倍に増えていることは、
施設拡大だけでなく市場自体の需要変化を示している。
なぜ「眼窩縁」が最多部位になったのか──
解剖学的な老化のメカニズムから読む
2024年の注入部位トップ2は以下だ。
2021〜2022年は鼻唇溝(NLF)と二重まぶた下(pretarsal fullness)が主流だったが、
眼窩縁が年々増加し、2024年には最多部位になった。
顔の老化は「外側(しわ)」だけでなく、
「内側(骨格の吸収・脂肪コンパートメントの萎縮)」から起きる。
これを「Inside-Out理論」と呼ぶ。
眼窩縁の注入が増えている理由は:
①眼窩(目の骨格)は加齢とともに拡大し、軟組織を支える骨の土台が失われる
②深部の脂肪コンパートメント(deep medial cheek fat等)が萎縮し、周囲の組織が下垂する
③これに対して「深部への注入で前方への土台を作る」アプローチが有効だという理解が広まった
「ほうれい線を直接埋める」から「顔全体の構造を内側から支える」という発想の転換だ。
年齢別の注入部位の違い──
「若者は顎・中高年は眼窩縁」という構造
20歳未満(<20歳):pretarsal fullness(下眼瞼の膨らみ・涙袋近傍)が46.7%で最多。顎(chin)も多い。「輪郭形成・コントゥアリング」が主目的。
30〜40代:鼻唇溝・眼窩縁・mid-cheek grooveが増加。「部分補填」から「複数部位への対応」に移行。
50代(50〜59歳):眼窩縁30.1%・鼻唇溝26.8%が主流。pretarsal fullnessは低水準に。「リジュビネーション(若返り再設計)」が主目的。マリオネットライン(口角〜顎)への注入が急増(40代以上でodds比が有意に上昇・p<0.05)。
「輪郭づくりから全顔設計へ」が意味すること──
患者・クリニック双方への示唆
このデータが示す変化は「美容医療の客層が広がった」という話ではない。
もっと深い変化だ。
患者が求めているものが変わった:
「顎を尖らせる」「二重まぶたをきれいに見せる」という局所的な「盛り方」から、
「顔全体がなぜ老けて見えるのかを理解して対処する」という発想に変わってきた。
これはクリニックの「説明力」を問う:
「なぜ眼窩縁なのか」「なぜ複数部位を同時にやるのか」を患者に説明できないクリニックは、
選ばれにくくなる時代になっている。
「この顔のどこに何をなぜ打つか」を設計できる医師と、
「希望の部位に打つだけ」の医師の差が可視化されつつある(NERO編集部の読み解き)。
まとめ
- ✦TCBネットワーク(東京中央美容外科)の全国110施設・299,413治療セッション・417,590注入部位(2020年10月〜2024年12月)を解析した後ろ向き観察研究(retrospective study)。Journal of Clinical Medicine 2026年1月22日掲載(DOI: 10.3390/jcm15020893)。TCB由来データのため日本市場全体への一般化には注意が必要だ(論文に明記)。
- ✦40代以上の割合は2021年の39.4%から2024年の63.7%に拡大。2023年から過半数に転換。施設数増加(64→110)だけでなく、施設当たりの患者数が2021年の391.7件から2024年の1068.9件へ約2.7倍に増えており、需要自体の変化を示している。
- ✦2024年の最多注入部位は眼窩縁22.6%(次点:鼻唇溝20.6%)。2021〜2022年は鼻唇溝・pretarsal fullness(二重まぶた下)が主流だったが、顔の骨格・深部脂肪コンパートメントの加齢変化に対応する眼窩縁注入が増加した。年齢が多部位治療の有意な予測因子(p<0.001)。
- ✦「輪郭づくりから顔全体のリジュビネーション設計へ」という需要変化は、医師の「なぜ・どこに・何を注入するか」の説明力を問うものだ。患者側にとっても「どのクリニックが設計思想を持って治療しているか」を見極める目が重要になる(NERO編集部の読み解き)。
出典・参考文献
- Tamura T, Tamura T, Okumura K, Teranishi H. "From Contouring to Rejuvenation: A Nationwide Big-Data Analysis of Hyaluronic Acid Injection Trends in Japan." Journal of Clinical Medicine. 2026;15(2):893. doi:10.3390/jcm15020893(本記事の主要一次情報・全文直接確認済み)


