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予防歯科は「歯を守る」だけではなかった──692人の調査が示すオーラルフレイルとWHOが定義する内在的能力の関係

予防歯科は「歯を守る」だけではなかった──692人の調査が示すオーラルフレイルとWHOが定義する内在的能力の関係
🦷 予防歯科・フレイル・ロンジェビティ
Journal of Nutrition, Health and Aging 2026年5月19日 / 東北大学

「歯は大切に」と言われても、老化や体力との関係はピンとこない人が多い。
でも口の機能が落ちることは、
歯の見た目の問題にとどまらない可能性がある。

東北大学大学院歯学研究科の小宮山貴将助教らが、
地域在住の65歳以上の高齢者692人を対象とした調査で、
オーラルフレイル(口腔機能の低下)の問題が多いほど、
WHOが定義する「内在的能力(Intrinsic Capacity・IC)」の低下領域が広い傾向
があることを確認した。
2026年5月19日、The Journal of Nutrition, Health and Agingにオンライン公開された。

「口の健康を守ること」が、
体力・認知・精神・感覚というより広い健康領域の維持と関連していることを示す研究だ。
ただし因果の方向や「食事多様性の効果」には注意が必要だ。
NEROは正確に整理する。

📋 この記事でわかること
  • 「オーラルフレイル」とは何か──咀嚼・嚥下・口腔乾燥・舌口唇機能を中核に、現在歯数なども含めて評価する口腔機能低下の概念
  • 「内在的能力(IC)」とは何か──WHOが定義する老化の新しい枠組み
  • 研究が示した関連──オーラルフレイルの項目が多いほどIC低下領域が広い
  • 「食事多様性」の効果は本研究では明確ではない──注意が必要な点
  • 予防歯科×機能的ロンジェビティの接続点

「オーラルフレイル」とは何か──
歯の本数より「口の機能」が重要な理由

「オーラルフレイル」は「口腔機能の虚弱」を指す概念だ。
「歯が何本あるか」だけでなく、以下の4つの機能が評価される。

① 咀嚼能力:しっかり噛めるか(ガムなどを使った測定)
② 舌口唇機能:舌や唇を素早く動かせるか(発音・口まわりの筋肉)
③ 口腔乾燥:唾液が十分に出ているか
④ 嚥下機能:食べ物・飲み物をスムーズに飲み込めるか

今回の研究では、国際的専門家による4項目指標と、日本で広く使われるOF-5(4項目+現在歯数)の
2つの口腔機能指標を併用した。舌圧も個別指標として評価されている。
構成項目で低下している数が多いほど、ICの低下領域も広い傾向が確認された。

「内在的能力(IC)」とは何か──
WHOが定義する老化の5つの領域

📖 内在的能力(Intrinsic Capacity・IC)とは
WHOが「健康な老化(Healthy Ageing)」の概念として提唱した枠組みで、
老化の「機能的な能力」を5つの領域で評価する。

活力(Vitality):栄養・体力・エネルギー状態
認知機能(Cognitive):記憶・判断・注意力
精神・心理(Psychological):抑うつ・不安の有無
移動能力(Locomotive):歩行・バランス・転倒リスク
感覚機能(Sensory):視力・聴力

ICが高いほど「年齢に関係なく、いきいきと機能できる状態」に近い。

「食事多様性が高いとICが維持できる」は言えるか──
研究が確認したこと・確認できなかったこと

この研究では、「閉じこもり状態(homebound status)」がオーラルフレイルとIC低下の関係を
部分的に媒介していることは確認された。
口腔機能が低下すると、外出・社会参加が減り、
それがさらにIC低下につながる経路の一つがあることを示している。

✅ 研究が確認したこと
・オーラルフレイルの構成項目で機能低下が多いほど、IC低下領域が広い傾向がある
・閉じこもり状態が、オーラルフレイルとIC低下の関係を部分的に媒介した
・オーラルフレイルとICの複数領域に関連がみられ、一次資料(東北大学PDF)ではとくに心理面(psychological)との関連が強いことが示されている
⚠️ 研究が確認できなかったこと・注意が必要な点
・「食事多様性が高いとICが維持できる」──食事多様性・閉じこもりの調整効果(moderation)は本研究では明確に確認されなかった
・因果の方向:横断研究なので「オーラルフレイルがICを下げた」のか「ICが低いとオーラルフレイルになりやすい」のかは確定できない
・対象は秋田・宮城の地域在住高齢者。他集団への一般化には注意が必要だ
💡 予防歯科×機能的ロンジェビティの接点

審美歯科の文脈(ホワイトニング・セラミック・矯正)では口腔の「見た目」が中心だ。
今回の研究は「口腔機能の維持」が、
移動能力・認知機能・精神状態を含む広い機能的能力と関連している可能性を示す。
「きれいな歯」より「機能する口」を守ることが、
ロンジェビティ(健康寿命)という文脈でも意義を持ちうる(NERO編集部の読み解き)。

NERO編集長 安達健一
NERO編集長 安達健一

「予防歯科」は日本でまだ十分に普及していない──というのはNERO編集部の見立てであり、今回の研究の直接的な知見ではない。
定期的に歯科に行く人の割合は欧米に比べて低く、
「痛くなったら行く歯医者」という文化が残っている。

この研究が示すのは、
口腔機能の低下が移動能力や認知と関連する可能性だ。
「きれいにするための歯科」から
「機能を保つための歯科」への転換が必要だと思う。


審美歯科を扱うクリニックへの視点として言うと、
「ホワイトニング・矯正・セラミック」という「見た目」の歯科に加えて、
「咀嚼・嚥下・唾液・舌圧」という「機能」の歯科へのニーズが
ロンジェビティ文脈で高まっていくと読んでいる。

予防歯科×機能的ロンジェビティは、
まだ多くのクリニックが手をつけていない領域だ。

NERO編集長 安達健一
NERO編集長 安達健一

まとめ

  • 東北大学・小宮山貴将助教らがJNHAに2026年5月19日公開(DOI: 10.1016/j.jnha.2026.100880)。秋田・宮城の11自治体でフレイル健診に参加した65歳以上の地域在住高齢者692人が対象の横断研究。
  • オーラルフレイル(咀嚼・舌口唇機能・口腔乾燥・嚥下機能の4指標を含む評価)の構成項目で機能低下が多いほど、ICを構成する5領域(活力・認知・精神・移動・感覚)の低下領域数も多い傾向が確認された。一次資料ではとくに心理面(psychological)との関連が強いことが示されている。
  • 閉じこもり状態がオーラルフレイルとIC低下の関係を部分的に媒介していることも確認された。ただし「食事多様性が高いとICが維持できる」という調整効果は本研究では明確に確認されていない。
  • 横断研究のため因果の方向は確定できない。「予防歯科×機能的ロンジェビティ」という接続点として、口腔機能の維持が広い健康能力の維持と関連しうることを示す研究として読むのが適切だ(NERO編集部の読み解き)。

出典・参考文献

  1. Komiyama T, Ohi T, E. Sato, M. Sato, Hattori Y. "Oral health, dietary variety, homebound status, and intrinsic capacity among community-dwelling older adults." The Journal of Nutrition, Health and Aging. 2026. DOI: 10.1016/j.jnha.2026.100880(本記事の主要一次情報)
    ★ 横断研究。因果の方向・食事多様性の調整効果は確認されていない。
  2. 東北大学プレスリリース. 「オーラルフレイルと内在的能力の関連を明らかに」. 2026年6月3日. tohoku.ac.jp
安達健一

安達 健一

NERO DOCTOR/BEAUTY 編集長

日本・米国看護師(BSN)・MBA保有。世界の一次医療データをもとに監修。広告主からの影響を受けない独立した編集方針を貫いています。