今回のNews Topicsでは、第113回日本美容外科学会(JSAS)で語られた“10年後も生き残るための経営戦略”に迫る。湘南美容クリニック創業者・相川佳之氏の実体験に基づく人材・教育・財務論、そして矢野経済研究所のSNS消費動向データから、美容医療業界の未来の行方を読み解く。
1.経営は“見える化”と“数値化”が命
2025年5月28日、第113回日本美容外科学会(JSAS)にて「10年後も生き残るための経営戦略」と題された特別講演が開催された。演者は湘南美容クリニックの創業者・相川佳之氏。相川氏はクリニック経営をサッカーチームにたとえ、12のポジション(治療・集客・教育・財務など)で戦略を設計すべきと強調した。
その中で特に重視されたのが「教育より採用の精度」である。「理念に合わない人材は教育では変えられない」とし、採用時の判断ミスこそ経営の致命傷になると語った。さらにモチベーション設計として、定期的なポジション変更による意欲喚起、スタッフ満足度(ES=従業員満足度)や患者満足度(CS)の数値化による組織改善の仕組みなど、徹底した“可視化経営”が披露された。

2.SNS偏重は危うい──データで見る現実
一方、同講演では矢野経済研究所・浅井潤司氏による調査報告も行われた。2021年から継続される全国調査によると、美容医療の施設選びで参考にされる情報源の1位は「ホームページ」であり、SNSは4位以下にとどまる。
また、施設を選ぶ理由としても「価格の明瞭さ」「技術力」「症例数」が上位を占め、SNSでの発信力は選定要因としては限定的であることが明らかに。医療機関側が注力するSNS戦略が、患者視点と乖離している可能性が指摘された。

3.生き残るために必要な“全体設計”
相川氏は、USP(独自価値提案)をつくるためには「徹底した競合調査」が不可欠と述べ、他業種(例:キーエンス、ニトリ)の事例から経営構造を学ぶ姿勢も重要と語った。また、財務体質の強化とキャッシュフロー管理、リーダーの任命権も生死を分ける鍵であるとした。
最後に「リーダーで9割決まる。クリニックの未来は人事で決まる」と断言。医療×経営×組織のハイブリッド思考を持つリーダーの育成が、10年後も業界で生き残るための絶対条件であると提言した。

編集長POINT
~SNS信仰の終焉?医療広告に今こそ求められる“信頼の設計”とは~
美容医療は「治療の腕」だけで勝負する時代を終え、「組織経営」の質で淘汰が始まっている。人材の採用精度、教育制度、ES(従業員満足度)・CS(顧客満足度)の数値可視化、財務健全性、USP(独自価値提案)の構築力──これらを包括した“経営スキルの全体最適”が問われている。
SNSや広告の一過性に頼るのではなく、“組織そのものが持続的に成長する仕組み”こそが、これからの美容医療業界の信頼を担保する。いま、個人クリニックこそ“見えない数字”を読み解く力が試されているのだ。
まとめ
- 美容クリニック経営は12ポジションで設計せよ(治療・集客・採用・財務等)
- 教育より採用の精度。人材は理念に沿って選ぶべき
- ES(従業員満足度)とCS(顧客満足度)は必ず数値で診断
- SNS偏重はリスク。HP・検索比較サイトの方が影響大
- USP構築には競合調査と他業種ベンチマークが必須
- 経営の鍵は“キャッシュフロー”と“リーダーの質”に集約される