死亡事案と同じ製造元の幹細胞、中止要請を無視して投与継続——厚労省が福岡の再生医療クリニックに緊急命令。「第三者主導の診療」という異例の実態も

⚠️ この記事は厚生労働省の一次情報(公式プレスリリース)に基づいています

出典:厚生労働省「再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について」令和8年(2026年)4月21日

📌 この記事をざっくりまとめると……

  • 厚労省が2026年4月21日、福岡市の医療法人社団禮聖会トリニティクリニック福岡に再生医療の一時停止を命じる緊急命令を発令
  • 問題①:少なくとも5人に健康被害(悪寒・発熱・嘔気)が発生、1人は入院。にもかかわらず報告義務を果たさず治療を継続
  • 問題②:同年3月に東京・銀座クリニックで起きた幹細胞治療による死亡事案と同じ製造委託先(韓国RBio・JASC京都)を使用。中止要請後も投与を継続
  • 問題③:患者選定・投与量・施術費用まで韓国の製造委託先が主導——「法が想定する再生医療とは実態を異にする」と厚労省が明言

「中止してください」という国の要請を無視して、患者に幹細胞を投与し続けたクリニックがあった。

厚生労働省が2026年4月21日に発令した緊急命令は、日本の再生医療をめぐる問題が単一クリニックの個別トラブルを超えた構造的な危機に達していることを示している。

何が起きたのか——時系列で整理する

事案の経緯

2023年5月 トリニティクリニック福岡が「自家脂肪由来間葉系幹細胞を用いた慢性疼痛の治療」を複数患者に提供。少なくとも5人が悪寒・発熱・嘔気等を訴え、1人は入院加療を要した。

2026年3月13日 東京・銀座クリニック(医療法人ネオポリス診療所銀座クリニック)で幹細胞治療による死亡事案が発生。厚労省が緊急命令を発令。製造委託先はJASC京都幹細胞培養センター(京都)とRBio幹細胞培養センター(韓国ソウル)だったことが判明。

2026年3月13日 厚労省がトリニティクリニック福岡に対し「同じ製造委託先を使っているため、死亡事案原因究明が完了するまで治療を中止するよう」要請。

2026年4月16日 厚労省が立入検査を実施。2023年の健康被害が法定報告されないまま治療が継続されていた事実を確認。

2026年4月17日 厚労省が改めて治療中止を要請。

2026年4月18日 要請を無視してトリニティクリニック福岡が幹細胞治療を実施したことを、4月20日の立入検査で確認。

2026年4月21日 厚労省が緊急命令を発令。再生医療の一時停止を命じた。

核心①——「健康被害が出ていたのに報告しなかった」

再生医療安全性確保法(再生医療法)は、提供した再生医療で疾病等が発生した場合の報告義務を明確に定めている(法第17条・第18条)。

しかしトリニティクリニック福岡は、2023年5月に5人の健康被害(うち1人は入院)が発生したにもかかわらず、この報告を行わなかった。さらに原因究明もせずに同じ計画による治療を継続した。

厚労省の立入検査で、この事実が初めて明らかになった。

核心②——死亡事案と「同じ製造委託先」

今回の事案をより深刻にしているのが、銀座クリニックの死亡事案との連鎖だ。

銀座クリニック死亡事案(2026年3月)との関係

  • 死亡事案の製造委託先:JASC京都幹細胞培養センター(京都)+RBio幹細胞培養センター(韓国ソウル
  • トリニティクリニック福岡も同じ2施設を製造委託先として使用
  • 厚労省は「死亡事案で使われた加工物と極めて類似した製造工程の特定細胞加工物を使っていた」と明記
  • 同じ製造委託先を使っていた他の再生医療機関でも、過去に「めまい・嘔吐・呂律が回らない(一過性脳虚血疑い)」で入院した事案が確認されている

核心③——「医師がいない診療」——韓国の製造委託先が主導

今回の緊急命令で最も衝撃的なのが、この点だ。

厚労省の立入検査で判明した実態は次のとおりだ。

厚労省が確認した「第三者主導の診療」実態

  • 製造委託先から「誰に・何ccの細胞を・どう投与するか」を指定したリストが提供され、クリニックはそれに従って投与していた
  • 施術費用も第三者(製造委託先)が決定していた
  • 治療計画の策定から実施まで仔細な指示を製造委託先が出していた
  • クリニックは患者が「治療対象として適切かどうか」を主体的に判断していなかった
  • 投与する細胞数の適切性についてもクリニックが自ら判断していなかった

厚労省は「法が想定する再生医療等の提供とはその実態を異にしている」と明確に記した。

つまりこのクリニックは、「再生医療を提供するクリニック」の看板を掲げながら、実質的には韓国の製造委託先ビジネスの末端窓口として機能していたと見なされている。医師としての独立した判断が行われていなかったのだ。

この問題は「一つのクリニックの話」ではない

厚労省のプレスリリースは重大なことを付記している。同じ製造委託先を使っていた他の再生医療提供機関でも、過去に健康被害(一過性脳虚血疑いでの入院)が起きていることを確認している、と。

つまり問題は、トリニティクリニック福岡だけにとどまらず、同じ製造委託先(JASC京都・韓国RBio)のネットワークを通じて複数施設で横断的に広がっている可能性がある。

NERO編集長の視点

「再生医療」という言葉は今、美容医療の世界でも「エクソソーム」「幹細胞培養上清」「PRF」などと並んで非常に魅力的なキーワードとして使われている。

しかし今回の事案が示すのは、その「再生医療」という言葉の裏に、患者を診ない医師・ビジネスを主導する海外業者・報告されない健康被害という構造が存在しうるという現実だ。

厚労省が韓国語のプレスリリースも同時発表したことは、この問題が日韓をまたぐ構造的な問題であることを示している。

再生医療を検討している方へ:「どこの培養センターで製造されているか」「費用を決めているのは誰か」「主治医が投与量を自分で判断しているか」——これらを必ず確認してほしい。

※ 本記事で取り上げた「幹細胞治療」と、美容クリニックで提供される「エクソソーム導入・点滴」は異なる施術カテゴリーです。ただし「再生医療・細胞由来製品の品質管理」という本質的な課題は共通しています。

▶ 関連特集:「エクソソームって本当に効くの?」——広告にあふれる言葉の正体を世界的権威が徹底解説
東京医科大学・落谷孝広教授の監修のもと、24品目調査で判明した「本物のエクソソーム」の実態をNEROが特集しています。

まとめ

  • 厚労省が2026年4月21日、トリニティクリニック福岡に幹細胞治療の一時停止を命じる緊急命令を発令
  • 2023年の健康被害(5人)を法定報告せず治療継続。死亡事案(銀座クリニック)と同じ製造委託先を使用しており、中止要請後も投与を強行
  • 患者選定・投与量・費用まで韓国の製造委託先が主導——「医師が診ない再生医療」の実態が判明
  • 同じ製造委託先ネットワークを使う他の施設でも健康被害が確認されており、問題は個別クリニックを超えて広がっている

よくある質問

Q. 今回の「幹細胞治療」は、美容クリニックで受けられる「エクソソーム」や「幹細胞培養上清」と同じものですか?
異なります。今回の施術は「自家脂肪由来間葉系幹細胞を用いた慢性疼痛の治療」で、再生医療安全性確保法に基づいて届出・審査が必要な「第二種再生医療等」です。美容クリニックで広く行われている「エクソソーム外用」「幹細胞培養上清の点滴・導入」は法的・科学的位置づけが異なりますが、いずれも製品の品質・安全性の確認が重要である点は共通です。

Q. 現在、同じ製造委託先を使っているクリニックのリストは公表されていますか?
現時点(2026年4月27日)での公表情報では、医療法人ネオポリス診療所銀座クリニック(3月緊急命令)とトリニティクリニック福岡(4月21日緊急命令)が名指しされています。厚労省は同じ製造委託先を使う他の施設の存在を示唆していますが、施設名の一覧は公表されていません。最新情報は厚労省公式サイトで確認してください。

Q. すでにこれらのクリニックで幹細胞治療を受けた場合、どうすればいいですか?
体調に変化(発熱・めまい・吐き気・ろれつが回らない等)がある場合は、まずかかりつけ医または救急医療機関を受診してください。厚労省には「医政局研究開発政策課 再生医療等研究推進室(03-3595-2430)」へ相談窓口があります。また消費者ホットライン(188番)でも対応しています。

Q. 再生医療を提供するクリニックを選ぶ際の注意点は?
①再生医療安全性確保法に基づく届出がされているか(厚労省の再生医療等提供機関リストで確認可能)、②使用する細胞製品の製造施設と品質管理体制、③医師が自ら患者を診て投与量を判断しているか、④費用が第三者によって設定されていないか——これらを事前に確認することが重要です。


出典

  • 厚生労働省「再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について」令和8年(2026年)4月21日

NERO 安達健一