📌 この記事をざっくりまとめると……
- 2026年6月2日、マンジャロ(チルゼパチド:糖尿病治療薬)をSNSで無許可販売した男女3人が薬機法違反で書類送検(大阪府警)。
東京都薬務課も公式Xで「直ちに販売を中止して下さい」と異例の直接警告を発出した - マンジャロは日本では「2型糖尿病」の治療薬としてのみ承認。
ダイエット・美容目的は適応外。
同じ成分の肥満症承認薬「ゼップバウンド」が2025年4月に発売済みだ - 「効く薬」と「安全に使える薬」は別の話だ。
NEROが整理した3つのリスク(法的・品質・医学的)を知った上で判断してほしい
2019年に「血液クレンジング」が炎上した。
医学的根拠の乏しい美容施術がSNSで拡散し、「誇大広告の疑い」として問題化した一件だ。
あれから6年以上が経った2026年、驚くほど似た構造を持つ問題が、はるかに危険な形で起きている。
「マンジャロ」をめぐる騒動だ。
INDEX
何が起きているのか——2026年5〜6月の動き
📅 2026年5〜6月 マンジャロをめぐる行政・司法の動き
東京都保健医療局健康安全部薬務課が公式X(旧Twitter)から、マンジャロを販売するユーザーへ直接リプライで警告。
「医薬品であるマンジャロを許可等なく販売等することは医薬品医療機器等法に違反します。
直ちに販売を中止して下さい」(東京都薬務課 公式X、2026年5月28日)
大阪府警が、マンジャロを無許可で販売・貯蔵した大阪府・奈良県在住の22〜35歳の男女3人を薬機法(医薬品医療機器等法)違反の疑いで書類送検。
大阪府警では初の立件。
容疑者らは容疑を認めている(朝日新聞・産経新聞 2026年6月2日)
マンジャロとは何か——まず正確に理解する
一般名はチルゼパチド(tirzepatide)。
米国製薬大手イーライリリーが開発した注射薬で、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の2つの受容体に同時に作用する「二重インクレチン作動薬」だ。
日本では2022年9月に「2型糖尿病」の治療薬として厚労省に承認されている。
食欲を抑えることで体重が減少する効果があるため、ダイエット目的での需要が急増した。
なお同じ成分(チルゼパチド)を使った肥満症治療薬「ゼップバウンド」は2025年4月に国内発売されており、医学的に「肥満症」と診断された患者には保険適用の治療選択肢が存在する。
ダイエット目的は適応外使用。
副作用被害救済制度の対象外
2025年4月発売。
保険適用は「高度肥満症・合併症あり」など厳格な基準を満たした場合のみ。
適切な適応患者への治療選択肢
3つのリスク——「効く」と「安全」は別の話
マンジャロが体重減少に効果的であることは、複数の大規模臨床試験で確認されている事実だ。
SURMOUNT-1試験では糖尿病のない肥満患者への投与で68週間に平均15〜20%の体重減少が確認された(NEJM 2022年)。
しかし「効く薬」と「安全に入手・使用できる薬」は全く別の問題だ。
⚠️ リスク① SNS転売・個人輸入での入手は重大リスクあり
マンジャロは「処方箋医薬品」であり、医師の処方箋なしでの販売・譲渡は薬機法違反だ。
SNS・フリマアプリでの転売品や、海外からの個人輸入(個人輸入代行サイト経由を含む)での入手も問題がある。
今回書類送検された事例では、自分の糖尿病治療のために処方された薬を他人に転売したケースも含まれている。
「自分用に処方されたものを分けてあげる」行為も違法になる。
薬機法第66条・第68条・無許可販売は刑事罰の対象となる。
⚠️ リスク② 偽造品には「別の薬」が封入されていたケースがある——「海外の話」ではない
英国の医薬品規制機関MHRA(Medicines and Healthcare products Regulatory Agency)は2026年2月、マンジャロKwikPen製品の特定バッチについて緊急アラートを発出した。
偽造品の中には本来の有効成分(チルゼパチド)の代わりにインスリンが封入されていた事例があり、誤投与による低血糖の重大リスクが懸念されている。
WHO・製造元のイーライリリーも偽造品への警告を発出済みだ。
「それはイギリスの話」と思ってはいけない。
SNSの転売品や個人輸入代行サイトを経由した場合、その流通経路——海外工場・中間業者・国境越えの輸送——のどこで偽造品が紛れ込むか、追跡は不可能だ。
外見での判別も事実上できない。
「安く買えた」背景に何があるかを考えてほしい。
⚠️ リスク③ 適応外使用は副作用被害救済制度の対象外・リバウンドリスクも
主な副作用は消化器症状・胆嚢関連有害事象(胆石症・胆嚢炎)。
PMDAから注意喚起あり。
ダイエット・美容目的での使用は適応外のため、万が一重篤な副作用が起きても国の副作用被害救済制度を利用できない。
さらに重要なのがリバウンドリスクだ。
SURMOUNT-4試験では、36週の投与後に中止すると中止後1年以内に参加者の大半が体重減少分の25%以上を再増加させたことが確認された(JAMA 2024年1月・Horn et al. JAMA Intern Med 2025年)。
「25%戻るだけなら」と過小評価してはいけない。
実態は「薬を止めると体重が元の水準に向かって戻り続ける傾向がある」ということだ。
つまり安易に手を出すと、最終的に「一生高額な自由診療を払い続けるか、元の体重に戻るか」の二者択一を迫られる可能性がある。
毎月数万円の自由診療費を何年も払い続ける経済的リスクを含めて、医師から説明を受けているだろうか。
「適応外処方」は違法ではないが——医師が負う重い責任
美容クリニック・自由診療クリニックでのマンジャロのダイエット目的処方自体は、医師の裁量による適応外処方として直ちに違法とはならない。
ただし以下の義務が医師に生じる。
医師の説明義務は法的に存在する。
しかし現場では「手軽なダイエット注射」としてマーケティングされ、カウンセリングで「適応外使用であること」「副作用被害救済制度の対象外であること」が十分に伝えられないケースが後を絶たない。
インフォームドコンセント(十分な説明と同意)が形骸化し、「よく効くダイエット注射があります」という一言で処方が決まる——この構造こそが問題の核心だ。
NEROがECM製剤・エクソソームで繰り返し指摘してきた「情報の非対称性」と全く同じ構造が、より直接的な医薬品で起きている。
- 「適応外使用であること」を患者に明示的に説明し、同意を得ること
- 「副作用被害救済制度の対象外であること」を明示すること
- 肥満症には承認薬(ゼップバウンド)が存在することを説明した上で処方を判断すること
- リバウンドリスク・長期的な治療計画を含めた説明をすること
これらを説明しないまま「痩せる注射です」として処方することは、倫理的・法的に問題がある。
これはECM製剤・エクソソームの問題でNEROが繰り返し指摘してきた構造と全く同じだ。
「最先端・効果的」という情報だけが先行し、リスクが患者に届いていない。
「書類送検」「東京都の直接警告」という事実は、
氷山の一角だ。
問題の本質は転売業者ではなく、
「適応外使用であること」
「副作用被害救済制度の対象外であること」を
患者に伝えないまま、
手軽なダイエット注射として処方し続けている
構造にある。
マンジャロは確かに効く薬だ。
だからこそ、「効く」と「安全に使える」を
混同させてはいけない。
「何を打たれているかを知る権利」は、
ダイエット注射でも変わらない。
まとめ
- 2026年6月2日、マンジャロSNS無許可販売で男女3人が薬機法違反で書類送検(大阪府警)。
東京都薬務課も公式Xで直接警告を発出 - マンジャロは日本では「2型糖尿病」の治療薬としてのみ承認。
肥満症には同成分の「ゼップバウンド」(2025年4月発売)が存在する - 3つのリスク:①SNS転売・個人輸入での入手は違法販売組織への加担・偽造品トラブルのリスクあり ②偽造品に別の薬が混入した事例あり(英MHRA警告) ③適応外使用は副作用被害救済制度の対象外
- 適応外処方自体は直ちに違法ではないが、「適応外・救済制度対象外・リバウンドリスク」を患者に説明する義務が医師にある
よくある質問
ただし「適応外使用である」「副作用被害救済制度の対象外である」「同じ成分の肥満症承認薬(ゼップバウンド)が存在する」「リバウンドリスクがある」といった説明を受けた上で処方されることが医師に求められます。
これらの説明なしに処方されている場合は、適切な医療とは言えない可能性があります。
継続か中止かは担当医師と相談してください。
ただし「適応外使用であること」「副作用被害救済制度の対象外であること」の説明を受けていなかった場合は、改めてその確認と説明を担当医師に求めることをおすすめします。
高度肥満症や合併症(高血圧・脂質異常症など)を合併する場合には、保険適用の可能性がある「ゼップバウンド」への切り替えも担当医師に相談できます(保険適用は一定の条件を満たした場合のみ)。
①トラブルのリスク:処方箋医薬品の無許可販売は重い刑事罰の対象であり、違法取引や詐欺などのトラブルに巻き込まれる危険性が高い。
違法な販売組織の資金源になるリスクもある ②品質リスク:英国MHRAが確認した偽造品のように、本来の有効成分ではなくインスリン等が封入されている可能性がある。
外見での判別は不可能 ③管理リスク:マンジャロは温度管理が必要な注射薬で、不適切な保管により成分が変性している可能性がある。
出典
朝日新聞「やせ薬としてSNS拡散のマンジャロ 無許可販売容疑で書類送検」Yahoo!ニュース 2026年6月2日 / J-CAST「『直ちに販売を中止して下さい』東京都庁薬務課、マンジャロめぐりXで警告」2026年5月29日 / 東京都薬務課(@tocho_yakumu)公式X 2026年5月28日 / 英国MHRA「Falsified Mounjaro(tirzepatide)KwikPen alert」2026年2月 / WHO Medical Product Alert(Falsified tirzepatide関連) / Eli Lilly「Open Letter Regarding Falsified Tirzepatide」 / PMDA「チルゼパチド製剤(マンジャロ皮下注)添付文書」/ Jastreboff AM et al.「Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity」NEJM 2022 / Garvey WT et al.「Tirzepatide once weekly for the treatment of obesity in people with type 2 diabetes (SURMOUNT-2)」Lancet 2023 / Aronne LJ et al.「Continued Treatment With Tirzepatide for Maintenance of Weight Reduction in Adults With Obesity: The SURMOUNT-4 Randomized Clinical Trial」JAMA 2024年1月2日(DOI:10.1001/jama.2023.24945)/ Horn DB et al.「Cardiometabolic Parameter Change by Weight Regain on Tirzepatide Withdrawal in Adults With Obesity: A Post Hoc Analysis of the SURMOUNT-4 Trial」JAMA Intern Med 2025年11月24日(DOI:10.1001/jamainternmed.2025.6112)

