涙袋にヒアルを入れたけどナメクジみたいになってしまった、おでこヒアルを入れたらボコボコ、リップフィラーがアヒル口過ぎる……など、実は失敗事例もよく聞くヒアルロン酸。気軽に受けられる治療ですが、医師によって仕上がりが異なるため注意が必要です。ヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸に失敗したとき・溶かしたいときに適応となります。今回はヒアルロン酸治療後の修正が気になる方へ向けて、ヒアルロニダーゼの仕組みや副作用、ヒアルロン酸の失敗事例について解説しましょう。
INDEX
ヒアルロニダーゼ(ヒアルロン酸溶解剤)とは?
注入したヒアルロン酸をやり直したい、溶かしたいと思ったときに効果があるヒアルロニダーゼ。近年はヒアルロン酸治療数が増加するに伴い、ヒアルロニダーゼを希望する人も増加しています。
ヒアルロニダーゼとは
ヒアルロニダーゼとは、ヒアルロン酸を分解する作用を持つ酵素のことで、もともと体内にも微量に存在しています。ヒアルロニダーゼ(ヒアルロン酸溶解剤・ヒアルロン酸分解注射)をヒアルロン酸のある部位に注入すると、ヒアルロン酸が小さな分子まで分解され、尿や汗となって体外に排出されます。注入されたヒアルロン酸製剤を溶かしたい場合に使用される薬剤です。
ヒアルロニダーゼの施術方法
ヒアルロン酸が注入されている深さや量を医師が触診で確認し、その部位にヒアルロニダーゼを注射針で注入します。しっかりと効果を得るためには、適切な量と深さで注入することが大切です。
ヒアルロニダーゼ注入後、数時間で分解され始め、数日ほどで元の状態になります(個人差あり)。とくに目や鼻の周辺は反応が速やかです。なおヒアルロン酸の種類や量などによっては、ヒアルロニダーゼを複数回注入しなければならない必要があります。
ヒアルロニダーゼの適応
ヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸を注入した部位であれば、涙袋や唇、こめかみなど、どの部位でも適応です。ヒアルロン酸注入による失敗や副作用がある場合、修正が必要な場合などに使用されます。例えば次のような場合です。
- ヒアルロン酸に対してアレルギー反応や炎症が起こった場合。
- 仕上がりがイメージと異なる場合。
- ヒアルロン酸注入前の状態に戻したい場合。
- ヒアルロン酸が皮下に青く透けて見える状態の場合(チンダル現象)。
- 手術のためにヒアルロン酸を溶かす必要がある場合。
チンダル現象とは、目の下のクマや目周りなど皮膚が薄い箇所で起こりやすい、ヒアルロン酸特有の症状です。ヒアルロン酸製剤の色が皮下から透けて青黒く見えます。本来ヒアルロン酸は真皮層に注入され、少しずつ体内に吸収されていくのが特徴です。しかし皮膚の浅い層に注入されチンダル現象が起こってしまった場合は、いつまでも吸収されずそのまま皮膚の浅い部分に残ってしまいます。改善するためには、ヒアルロニダーゼによる溶解が必要です。
【PICK UP コラム:ヒアルロン酸のアレルギーについて】 ヒアルロン酸は人の体の中に存在する成分のためアレルギーが起こりにくいとされていますが、それでもアレルギー反応が起こる人はいます。ヒアルロン酸自体ではなく、製剤に添加されている成分や不純物に対して起こる場合もあるでしょう。 ヒアルロン酸のアレルギーには、注入後すぐにじんましんや血管浮腫、かゆみなどの症状が現れる即時型アレルギーのほか、数日~数ヶ月後に腫れや痛みが現れる遅延型アレルギーがあります。とくに最近増加しているのは、アレルギー反応の一種である「遅発性結節」です。炎症性の場合と非炎症性の場合がありますが、注入部位がしこりになり、時に痛みや腫れを伴うようになります。 |
種類 | 時期 | 症状 |
---|---|---|
即時型
アレルギー |
注入後、数分~数時間 | かゆみ・発疹・じんましん・血管浮腫・血圧低下など。 |
遅延型
アレルギー |
注入後、数日~数ヶ月 | 痛み・腫れ・熱感・赤みなど。通常の副作用と区別しにくいが、アレルギー反応の場合は徐々に腫れて持続する。 |
遅発性結節 | 注入後、数週間〜数ヶ月(1年以上後のことも) | 硬いしこりになり、痛みや腫れが伴う場合もある。アレルギー体質や自己免疫疾患を持っている人に起こりやすい。 |
ヒアルロン酸注射でよくある失敗例
ヒアルロン酸注射は切らないプチ整形として人気となったことに伴い、失敗事例も増加しています。とくに経験が少ない医師が施術すると、ヒアルロン酸の種類や量が適切でなかったり注入する深さを誤ったりする可能性が高くなるため、医師選びには注意が必要です。よくある失敗事例をまとめました。
不自然なバランス・ボリュームになる
ヒアルロン酸注入後に、注入部位が過剰に膨らんで不自然な表情になったり、左右のバランスが悪くなったりすることがあります。
【例:涙袋のヒアルロン酸】
涙袋はヒアルロン酸注入でも人気の高い部位です。しかし涙袋に入れたヒアルロン酸が、ナメクジのように違和感のある大きさに膨らむケースがあります。注入量が多すぎたり、まだヒアルロン酸が残っている状態にもかかわらず繰り返し注入したりすることが主な原因です。
ヒアルロン酸は、たくさん入れれば可愛くなるわけではありません。利益を優先して安易にヒアルロン酸注入をすすめてくる悪質なクリニックに惑わされないようにしましょう。
【例:口唇のヒアルロン酸(リップフィラー)】
リップフィラーが過度に注入され、アヒル口のようになったケースです。唇中央に部分的にポコッとした膨らみがあります。ヒアルロン酸はやわらかい性状なため、注入後に周囲の組織に浸透して馴染む特徴がありますが、唇は顔のほかの部位と比べるとあまりヒアルロン酸が逃げません。施術前には医師と希望のデザインについてしっかり共有し、適切な量を注入してもらうことが大切です。
注入部位にしこりや凹凸ができる
ヒアルロン酸を注入した部位に不自然な凸凹やミミズ腫れのような膨隆ができてしまう場合があります。
【例:額のヒアルロン酸】
なめらかな曲線が美しい形とされる額は、ヒアルロン酸注入の中でも難易度が高い部位です。適切な注入方法や量、デザインで施術されなかった場合、不自然にボコボコした額になってしまう可能性があるでしょう。
【例:ほうれい線のヒアルロン酸】
ほうれい線を改善するためにヒアルロン酸を注入したところ、片側の注入部位だけが膨隆し、ミミズ腫れのようになる場合があります。安価で質の低いヒアルロン酸製剤を注入した場合に起こることが多いようです。
ヒアルロニダーゼの副作用やデメリットは?ヒアルロニダーゼのアレルギーの割合はどれくらい?
ヒアルロン酸注入をやり直したいときに便利なヒアルロダーゼですが、副作用やデメリットも存在します。
注射後の腫れや発赤、内出血
ヒアルロニダーゼ注射後は腫れや発赤、内出血などが起こる可能性があります。薬剤に対する通常の反応であれば、腫れは半日程度、発赤は2~3日程度で落ち着くことがほとんどです。内出血も2週間あれば自然と治まります。
ヒアルロニダーゼに対するアレルギーが起こる可能性がある
ヒアルロニダーゼには、牛や羊の精巣から作られる動物由来の薬剤と、ヒト由来の薬剤があります。
【ヒアルロニダーゼの種類】
由来 | 主な製剤 |
---|---|
ヒト由来製剤 | 「Hylenex」(アメリカ) |
ヒツジ由来製剤 | 「HYALAZE」(韓国)
「HYALASE」(イギリス) 「Liporase」(韓国) |
ヒアルロニダーゼは酵素(タンパク質)です。そのため動物由来であってもヒト由来であっても、アレルギーが起こる可能性があります。とくにヒツジ由来のヒアルロニダーゼは、およそ1/100人の確率でアレルギーを起こすともいわれています。そのため事前にアレルギーテストを設けてあるクリニックも少なくありません。
アレルギーが出た場合の症状には個人差があり、時間の経過で治まる場合もあれば、全身に症状が出て薬を使用しなければならない場合もあります。まれにアナフィラキシーショックという重大なアレルギー反応が起こる可能性があることも、把握しておきましょう。
状態によっては複数回の治療が必要
純度の高いヒアルロン酸製剤は、ヒアルロニダーゼに対する反応も良好です。しかしヒアルロン酸を注入してから長い期間が経っていたり、注入されたヒアルロン酸の量が多かったり、分解されにくいヒアルロン酸製剤が使用されていたりする場合は、1回のヒアルロニダーゼ注射では完全に分解できないことがあります。その場合、期間を空けて2~5回程度の治療が必要です。
ヒアルロン酸以外の成分は溶解できない
ヒアルロニダーゼはヒアルロン酸しか分解できません。注入した製剤がヒアルロン酸以外の成分を含んだ注入剤の場合は、ヒアルロニダーゼでは元の状態に戻せないため注意しましょう。例:ハイドロキシアパタイト(レディエッセ)など
もともと体内にあるヒアルロン酸も分解される
ヒアルロニダーゼ注射をすると、体内にもともと存在していたヒアルロン酸も区別なく分解されます。ただし体内ではおよそ3日で新しいヒアルロン酸が産生されるため、ヒアルロニダーゼを注射した部位が元の肌よりも余計に凹むことはありません。
ヒアルロン酸の溶かし具合は調整できない
ヒアルロニダーゼは、基本的にヒアルロン酸の溶かす量や範囲を細かく調整することは困難です。注入されたヒアルロン酸のボリュームを調整したい場合は、一度ヒアルロニダーゼ注射でリセットしてから、期間を空けて改めてヒアルロン酸注入を行う必要があります。
ヒアルロン酸溶解剤(ヒアルロニダーゼ)の相場は?クリニックの選び方やヒアルロン酸の種類ごとの回数目安も
ヒアルロニダーゼは、多くのクリニックで導入されている治療です。ヒアルロニダーゼの価格相場を調査しました。またクリニックを選ぶ際のポイントや、目安の治療回数も紹介します。
ヒアルロニダーゼ注射の価格相場
NERO編集部が独自でヒアルロニダーゼ注射の価格を調査した結果、クリニックによって価格には大きな差があることが分かりました。
メニュー | 価格 |
---|---|
ヒアルロニダーゼ(ヒツジ由来)1本(1cc) | 9,000~35,000円(平均:約20,000円) |
ヒアルロニダーゼ(ヒト由来)1本(1cc) | 40,000~60,000円(平均:約50,000円) |
アレルギーテスト注射 | 3,300~5,500円 |
中には、ヒツジ由来のヒアルロニダーゼでも50,000円以上の価格設定をしているクリニックもあります。また自院の修正か、他院の修正かによっても価格がさまざまです。多くの場合、自院修正の場合は価格設定が抑えてあり、10,000~20,000円程度が目安でした。他院修正の場合は、30,000~50,000円程度が目安といえるでしょう。
ヒアルロン酸溶解後にヒアルロン酸を再注入する場合は、セット料金を設定しているクリニックもあるようです。
ヒアルロニダーゼを選ぶポイント
- 信頼できる知識・技術を持った医師であるか。
- 修正に対する姿勢や考え方に共感できるか。
- ヒアルロニダーゼの種類(動物由来・ヒト由来)にこだわりたいか。
- ヒアルロン酸を溶かすだけか、ヒアルロン酸再注入も希望しているか。
ヒアルロニダーゼ注射を受けるクリニックを選ぶ際は、上記のポイントを意識しましょう。
ヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸が入っている部位にピンポイントで注入することで高い効果を発揮します。そのため注入量・部位を適切に判断できる技術を持った医師を選ぶことが大切です。また薬剤の種類や体質によってはアレルギー反応を起こす可能性があるため、万が一重大なアレルギー反応が起きても対応できるクリニックを選びましょう。
ヒアルロニダーゼ自体の副作用リスクや費用を総合的に考え、施術を受けるクリニックを検討するのがおすすめです。
【注入剤の種類別】ヒアルロニダーゼ注射の目安回数
ヒアルロニダーゼを受ける際は、「自分が注入したヒアルロン酸製剤が何か(そもそもヒアルロン酸製剤なのか)」「どのくらいの量を入れたか」が分かっていることが理想的です。ヒアルロン酸製剤や注入剤の種類・量がはっきり分かれば、ヒアルロニダーゼの反応の良し悪しが予測できます。下記に目安を記します。
注入剤 | ヒアルロニダーゼの反応・回数目安 |
---|---|
レスチレンタッチ | 1回~3回(注入量による)
ヒアルロニダーゼへの反応が良好なヒアルロン酸製剤。 |
ベロテロソフト | |
レスチレン | 1回~5回(注入量による)
ヒアルロニダーゼへの反応が比較的良好なヒアルロン酸製剤。 |
ベロテロバランス | |
ジュビダームビスタシリーズ | |
マクロレーン | 2回~5回(注入量によってはさらに増える場合あり)
豊胸でよく使用されるヒアルロン酸製剤。 |
スカルプトラ | ポリ乳酸が主成分の非吸収性注入剤。分解できない。 |
レディエッセ | カルシウムの一種ハイドロキシアパタイトが主成分の非吸収性注入剤。分解できない。 |
もし注入剤がヒアルロン酸製剤でない場合は、ヒアルロニダーゼ注射をしても分解できないため効果がありません。
まとめ
ヒアルロン酸は比較的手軽に顔印象を整えられる治療ですが、失敗したり満足できない仕上がりになったりすることがあります。とくに目周りや口唇、額をヒアルロン酸で自然にボリュームアップさせるのは、難易度の高い技術です。質の良いヒアルロン酸製剤を使用していれば、失敗してもヒアルロニダーゼでリセットしてやり直すことができますが、ヒアルロニダーゼ自体にもアレルギーや副作用のリスクがあり費用がかかることを忘れてはいけません。「失敗してもヒアルロニダーゼで溶かせばいい」と安易に考えるのではなく、まずは修正しなくて済むように、ヒアルロン酸注入を受ける前にしっかりと医師選び・クリニック選びを検討しましょう。
・当サイトは、美容医療の一般的な知識をできるだけ中立的な立場から掲載しています。自己判断を促す情報ではないことを、あらかじめご了承ください。また、治療に関する詳細は必ずクリニック公式ホームページを確認し、各医療機関にご相談ください。
・本記事は、執筆・掲載日時点の情報を参考にしています。最新の情報は、公式ホームページよりご確認ください。
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