レジュバメディカルクリニック 院長
平田 玲奈 先生
国際基督教大学(ICU)卒業、東邦大学医学部卒業。大学病院にて形成外科・皮膚科の臨床経験を積み、大手美容外科クリニック院長を歴任。2020年、東京・表参道にレジュバメディカルクリニックを設立。累計30,000件以上の圧倒的な症例実績をベースに、皮膚・脂肪・筋肉・骨格の4層から多角的にアプローチする、解剖学的な知見に基づいた「診断ファースト」の診療スタイルを確立。ヒアルロン酸やボトックス等の注入治療、糸リフト、再生医療(真皮線維芽細胞移植等)から婦人科形成まで幅広い分野で精緻な造形美を追求している。IMCAS World Congress(パリ)やAMWC(世界抗加齢医学会)などの国際学会へも精力的に参加し、TV出演や「VOGUE JAPAN」「美ST」を始めとする多数の主要メディア掲載実績を持つ。
「施術中・後の痛みが心配で、踏み出せない」──そう感じたことはないだろうか。
レーザー、脂肪吸引、豊胸手術。
美容医療の効果に期待しながら、術後の痛みに不安を抱く人は多い。
その疼痛管理に、静かな革命が起きている。
2025年1月、米国FDA(Food and Drug Administration・食品医薬品局)が約25年ぶりに承認した新機序の鎮痛薬──
JOURNAVX(ジャーナバックス)、一般名:スゼトリギン(suzetrigine)だ。
オピオイド(麻薬系鎮痛薬)を使わず、痛みの信号を「脳に届く前」にブロックする。
2026年3月には美容形成外科のPhase 4(市販後大規模試験)データが発表され、
患者の90.9%がオピオイド不要で回復したことが示された。
この薬が日本の美容医療に何をもたらすのか、一次情報から読み解く。
- JOURNAVX(スゼトリギン)は2025年1月FDA承認。
中等度〜重度の急性疼痛を対象とした、約25年ぶりの新機序経口鎮痛薬だ。 - 作用点はNaV1.8(ナブ・ワン・ポイント・エイト/電位依存性ナトリウムチャネル)。
末梢神経だけに作用し、脳への痛み信号を遮断。オピオイドとは根本的に異なる。 - 2,000例超の第3相(フェーズスリー)試験で、プラセボ(偽薬)比較で有意な鎮痛効果を実証。
吐き気・嘔吐の発生率はオピオイド(33%)に対しJOURNAVXは20%と低かった。 - 2026年3月、美容形成外科Phase 4(市販後試験)で90.9%がオピオイド不要を達成。
従来のマルチモーダル療法(複数の鎮痛薬を組み合わせる方法)では10%未満しか達成できなかった数字だ。 - 日本では未承認・個人輸入扱い。
国内美容外科での使用は現時点で医師の判断に委ねられるが、業界への影響は必至だ。
INDEX
「25年間、選択肢がなかった」──鎮痛薬業界の空白期間
手術後の痛み管理は、現代医療の中でも解決が難しい問題の一つだ。
術後に中等度以上の痛みを経験する患者は全体の80%以上とも言われる。
これまでの選択肢は主に2つだった。
従来の疼痛管理の「2択」構造
NSAIDs(エヌセイズ)・アセトアミノフェン(非オピオイド系)
非ステロイド性抗炎症薬。イブプロフェン(ロキソニン等)、アセトアミノフェン(カロナール等)が代表例。
軽度〜中等度の痛みには有効だが、術後の中等度〜重度の急性疼痛には力不足の場合が多い。
オピオイド系鎮痛薬(麻薬系)
ヒドロコドン、オキシコドン、モルヒネ等。
強力な鎮痛効果の一方、依存性・吐き気・呼吸抑制・術後回復遅延のリスクが問題だ。
この「空白」を埋める第三の選択肢が、約25年間存在しなかった
米国ではオピオイド危機(Opioid Crisis)が深刻な社会問題となっている。
過去20年間で64万5千人以上がオピオイド過剰摂取で死亡したとCDCは報告している(CDC, 2024)。
処方オピオイドへの依存が、依存症や過剰摂取の入口となるケースが後を絶たない。
術後患者はオピオイドを処方される確率が非手術患者の4倍とも言われており、
外科医・美容外科医は長年、「効果的だが危険」という矛盾した選択を迫られてきた。
645,000人以上
米国:過去20年間の
オピオイド過剰摂取死
出典:CDC, 2024
80%以上
術後に中等度以上の
急性疼痛を経験する患者
出典:JOURNAVX Patient Brochure
25年ぶり
FDA承認:新機序の
急性疼痛治療薬
出典:Vertex Pharmaceuticals, 2025
JOURNAVX(ジャーナバックス)の正体──NaV1.8(ナブ・ワン・ポイント・エイト)という「痛みの扉」を閉める
JOURNAVXがなぜ画期的なのか。
その答えは、作用機序の「場所」にある。
痛みが生じるとき、体の中では何が起きているのだろうか。
ケガや手術で組織が傷つくと、末梢神経に痛みの電気信号が発生する。
その信号は神経を伝わって脊髄→脳へと届き、初めて「痛い」と感じる。
📌 NaV1.8(ナブ・ワン・ポイント・エイト)とは
- 電位依存性ナトリウムチャネル(Voltage-gated Sodium Channel)の一種
- 末梢の痛み感知神経(侵害受容器)に特異的に発現している
- 後根神経節(Dorsal Root Ganglion)ニューロンで痛み信号の「活動電位」を伝える役割を持つ
- NaV1.1〜NaV1.9の9種類の中でも、NaV1.8は末梢に特有──脳には存在しない
- スゼトリギンのNaV1.8に対する選択性は、他のNaVチャネルの31,000倍以上
出典:Osteen JD et al. Pain Ther. 2025; PMC12843740
従来のオピオイドは「脳・脊髄(中枢)」に作用して痛みを感じにくくする薬だった。
だからこそ、多幸感・依存性・呼吸抑制という中枢性の副作用が避けられなかった。
JOURNAVXはアプローチが根本的に異なる。
末梢神経にあるNaV1.8チャネルだけを選択的にブロックし、
痛み信号が脳に「届く前」の段階で遮断する。
脳には作用しないため、依存性・多幸感・眠気といったオピオイド特有のリスクが生じない。
▼ 作用機序の比較
❌ オピオイド系鎮痛薬
- 作用部位:脳・脊髄(中枢)
- 依存性リスク:高
- 吐き気・嘔吐:多い(33%)
- 呼吸抑制:あり
- 術後回復:遅れる可能性
✅ JOURNAVX(スゼトリギン)
- 作用部位:末梢神経(NaV1.8)
- 依存性リスク:エビデンス上認めず
- 吐き気・嘔吐:少ない(20%)
- 呼吸抑制:なし
- 術後回復:阻害しない
出典:JOURNAVX Prescribing Information 01/2026; FDA Clinical Trials Data (Trial 1: Abdominoplasty)
2,000例超の第3相試験が示した数字
JOURNAVXのFDA承認を支えたのは、腹部形成術(タミータック)と外反母趾手術(バニオン除去)という
美容・整形外科領域の患者を対象とした2つの大規模第3相ランダム化比較試験だ。
試験設計は48時間の二重盲検プラセボ(偽薬)対照。
評価指標はSPID48(48時間にわたる痛み強度差の時間加重和)で、
スコアが高いほど痛みの軽減が大きいことを示す。
📊 第3相試験 主要成績データ(SPID48)
SPID48(Sum of Pain Intensity Difference over 48 hours):48時間にわたる痛み強度差の時間加重和。スコアが高いほど、48時間を通じた鎮痛効果が大きいことを示す。
(偽薬)
(p値)
Trial 1:腹部形成術後
n=447例
Trial 2:外反母趾手術後
n=426例
注:SPID48スコアが高いほど48時間を通じた鎮痛効果が大きいことを示す。
出典:Bertoch T et al. Anesthesiology. 2025. doi:10.1097/ALN.0000000000005460; FDA Prescribing Information 01/2026
注目すべきは、オピオイド(ヒドロコドン/アセトアミノフェン)との比較だ。
JOURNAVXはプラセボに対して有意に優れていたが、オピオイドには劣らないレベルの鎮痛効果を示した。
(腹部形成術では「有意差なし」、外反母趾手術ではオピオイドがやや優位)
換言すれば、「オピオイドに頼らなくても、ほぼ同等の痛み管理ができる可能性」が示されたわけだ。
48時間後の痛みスコア低下率(腹部形成術・Trial 1)
47%低下
43%低下
31%低下
注:JOURNAVXはオピオイド(ヒドロコドン/APAP=アセトアミノフェン合剤)より統計的に優れているわけではない。プラセボ(偽薬)に対して有意に優れていた。
出典:JOURNAVX Patient Brochure; FDA Prescribing Information 01/2026
美容形成外科Phase 4試験──2026年3月の最新データ
ここが本稿で最も注目したいポイントだ。
2026年3月5日、開発元のVertex Pharmaceuticals社が、
美容・形成外科を対象としたPhase 4(市販後)試験の新データを発表した。
米国疼痛医学会(AAPM)PainConnect 2026(ユタ州ソルトレイクシティ)での口頭発表だ。
この試験は99名の患者を対象に、
再建・美容形成手術の前後にJOURNAVXをマルチモーダル療法(アセトアミノフェン+イブプロフェンとの組み合わせ)として投与したものだ。
対象手術には乳房再建・美容乳房手術、脂肪吸引、腹部形成術(+脂肪吸引)、鼻中隔矯正術などが含まれた。
🔬 Phase 4試験(美容形成外科)主要結果
- 90.9%の患者が治療期間終了まで(最長14日間)オピオイドを必要としなかった
- 90.7%の患者がJOURNAVXを含むマルチモーダル療法の有効性を「優秀・非常に良い・良い」と評価
- 救済オピオイドを使用した9名の平均使用量は「2錠・2日間」と最小限だった
- 重篤な有害事象はゼロ。有害事象は軽度〜中等度にとどまった
- 比較対象:JOURNAVXなしのマルチモーダル療法でのオピオイド不要率は10%未満
出典:Vertex Pharmaceuticals Press Release, March 5, 2026; AAPM PainConnect 2026発表データ
リード著者:Samuel Lin, M.D., F.A.C.S., ハーバード大学医学部准教授・形成外科医
ハーバード大学医学部の形成外科医Samuel Lin氏はこのデータについて、
「JOURNAVXを組み込むことで、痛みを効果的に管理しながら
オピオイド使用に伴うリスクを低減できる可能性を示している」とコメントしている。
この結果は何を意味するか。
これまで「美容手術後のオピオイド使用は避けられない」とされていた前提を覆す可能性がある。
90%以上がオピオイド不要で回復できるなら、
依存リスク・術後嘔気・回復遅延といった問題を根本から変えられるかもしれない。
日本の美容医療への影響──現実的に何が変わるか
JOURNAVXは現時点で日本国内では未承認だ。
国内での使用は医師の判断による個人輸入等の範囲にとどまり、
国内承認審査による有効性・安全性の確認はされていない。
ただし、この薬が美容医療業界に与えるインパクトを、
中長期的な文脈で考えておくことは重要だ。
疼痛管理の患者体験が変わる可能性
「術後の痛みが怖くて踏み出せない」という離脱要因が、
解消されるシナリオが現実味を帯びてくる。
医療機関の差別化ポイントになる
「依存性なし・副作用少の疼痛管理」を打ち出せるクリニックは、
患者選択において優位に立てる可能性がある。
日本での承認審査への関心が高まる
FDA承認から日本での審査申請・承認までには通常数年のタイムラグがある。
Vertexが日本市場へのアクセスを検討しているかどうかは現時点では不明だ。
現時点での使用には慎重な判断が必要
国内未承認薬の使用は、医師・患者双方に薬機法上のリスクがある。
CYP3A(シップスリーエー/薬物を代謝する肝臓の酵素)阻害薬との相互作用、肝機能障害患者への禁忌等、安全上の注意点も多い。
Dr.レナ
私自身、JOURNAVX(スゼトリギン)を内服した上で、通常は強い疼痛を伴うシルファームX(深さ4mm)の施術を麻酔クリームを使用せず体験しましたが、私自身の体験としては痛みが大幅に軽減され、その鎮痛効果に大変驚きました。
非オピオイド鎮痛薬という新しい選択肢は、痛みに不安があり治療をためらっていた患者さんにとって、治療の可能性を広げる画期的な存在になり得ると感じています。
一方で、痛みが軽減されることは、熱傷などの異常に気付きにくくなる可能性もあるため、適応の見極めや出力設定、術中・術後の安全管理はこれまで以上に重要になります。当院では、安全性を最優先に考え、十分なプロトコルを整備した上で適切な症例に導入していく方針です。
まとめ
- JOURNAVXは2025年1月FDA(米国食品医薬品局)承認。
NaV1.8(ナブ・ワン・ポイント・エイト)選択的阻害という新機序で、約25年ぶりに登場した非オピオイド急性疼痛治療薬だ。 - 2,000例超の第3相試験で、プラセボ比較で有意な鎮痛効果を実証。
オピオイドと同等レベルの鎮痛を、依存リスクなしで達成する可能性が示された。 - 2026年3月の美容形成外科Phase 4試験では、90.9%がオピオイド不要で回復。
従来のマルチモーダル療法での達成率(10%未満)を大幅に上回る結果だった。 - 日本では現在未承認。
使用は医師の判断による個人輸入等の範囲にとどまり、国内承認審査による確認はされていない。
よくある質問(FAQ)
出典・参考文献
- Vertex Pharmaceuticals. FDA Approves JOURNAVX (suzetrigine). Press Release, January 30, 2025. news.vrtx.com
- JOURNAVX (suzetrigine) tablets. Full Prescribing Information. Vertex Pharmaceuticals Incorporated. Revised 01/2026.
- Bertoch T, D'Aunno D, McCoun J, et al. Suzetrigine, a non-opioid NaV1.8 inhibitor for treatment of moderate-to-severe acute pain: two phase 3 randomized clinical trials. Anesthesiology. 2025. doi:10.1097/ALN.0000000000005460
- Osteen JD, Immani S, Tapley TL, et al. Pharmacology and mechanism of action of suzetrigine, a potent and selective NaV1.8 pain signal inhibitor. Pain Ther. Published online January 8, 2025. doi:10.1007/s40122-024-00697-0
- Rejeev MM, Pavithran K, Palatty P. Clinical Efficacy and Safety Profile of Suzetrigine: A Novel Non-opioid Analgesic Targeting NaV1.8 Sodium Channel. Cureus. 2025;17(11):e96054. doi:10.7759/cureus.96054 PMC12676188
- PMC12843740. Suzetrigine, a NaV1.8 Inhibitor as a Novel Approach for Pain Therapy. PMC. 2025.
- Vertex Pharmaceuticals. "Vertex to Present New Data on JOURNAVX That Demonstrates Effective Pain Management Following Aesthetic and Reconstructive Procedures." Press Release, March 5, 2026. AAPM PainConnect 2026発表.
- CDC. Opioid Overdose Data. 2024. cdc.gov
- JOURNAVX Patient Brochure. "Where Pain Starts, JOURNAVX Begins." Vertex Pharmaceuticals, 2025.
※本記事は公開一次情報をもとにNERO DOCTOR/BEAUTY編集部が制作した業界ニュースです。
JOURNAVXは日本国内では未承認であり、本記事は特定の医療行為や製品を推奨するものではありません。
実際の医療判断は、医師による最新の医学的知見および関連法規制に従ってください。

