「日本人は世界でもっともセックスしない国」と言われることがあります。
実際、国際調査では日本の性交頻度や性生活満足度は世界最低水準とされ、セックスレス状態にある夫婦・カップルは半数を超えるとも報告されています。
こうしたデータを見ると、「日本人は性に淡白だから」「夫婦仲が悪いから」と考えたくなるかもしれません。しかし、本当にそうなのでしょうか。
長時間労働、子育て負担、家事分担、恋愛観や結婚観の変化——。日本のセックスレスを紐解いていくと、そこには個人の問題だけでは説明できない“社会の構造”が見えてきます。
本記事では、日本は本当に「セックスしない国」なのかをデータから検証するとともに、なぜセックスレスがこれほど広がっているのか、その背景にある社会的要因について考えていきます。
INDEX
日本は本当に「セックスしない国」なのか
近年、日本では「セックスレス」が社会課題として取り上げられる機会が増えています。しかし、それは一部の夫婦だけに起きている特殊な問題ではありません。
実際に国際比較や国内調査を見ると、日本では性交頻度の低さやセックスレス率の高さが継続的に報告されています。まずはデータから、日本の現状を見てみましょう。
データで見る日本の性交頻度と国際比較
「日本はセックスレス大国」と言われることがありますが、それは単なるイメージではありません。
過去に避妊具メーカーDurex(デュレックス)社が実施した国際調査では、日本人の年間性交回数は48回と報告され、世界平均である103回の半分以下という結果でした。
こうしたデータから、日本は長年にわたり「世界でも有数のセックスしない国」として語られてきました。
さらに近年の国内調査でも、その傾向は続いています。2023年に既婚男女4,000人を対象に行われた調査*¹では、68.2%が「セックスレス傾向にある」と回答し、そのうち43.9%は完全なセックスレス状態と回答しました。
20〜40代に限定しても64.5%がセックスレス傾向にあるとされており、若い世代にも広がっていることがわかります。
もちろん、性交回数の多さがそのまま幸福度を意味するわけではありません。しかし、これらのデータからは、日本では性的な接触だけでなく、夫婦や恋人同士の親密なコミュニケーションそのものが減少している可能性も見えてきます。
では、なぜ日本だけでここまでセックスレスが広がっているのでしょうか。
セックスレスはどれくらい身近な問題なのか
では、日本では実際にどのくらいの夫婦がセックスレス状態にあるのでしょうか。
日本性科学会では、セックスレスを「特別な事情がないにもかかわらず、カップルの合意した性交またはセクシュアル・コンタクトが1ヶ月以上なく、その後も長期にわたることが予想される状態」と定義*²。
この定義に基づくと、日本ではセックスレス状態にある夫婦やカップルは非常に多く、近年の調査では約半数から6割以上に達するという報告もあります。
また、セックスレスは中高年だけの問題ではありません。子育て中の30〜40代はもちろん、20代を含む若年層でも増加傾向がみられています。
かつては「夫婦仲が悪いから起こるもの」と考えられていました。しかし現在では、仕事による疲労や長時間労働、育児負担、生活リズムのずれなど、さまざまな社会的・生活的要因が複雑に絡み合って生じる現象と考えられています。
つまりセックスレスは、一部の夫婦だけが抱える特殊な問題ではなく、日本社会全体に広がる身近な課題の1つなのです。
日本人が抱えるのは「回数」ではなく「関係性」の問題
セックスレスというと、「回数が少ないこと」が問題だと思われがちです。しかし実際には、回数だけでは説明できない側面があります。
日本では性交頻度の低さが注目される一方で、性生活そのものへの満足度も低い傾向が指摘されています。つまり、日本人が抱えている課題は単純な回数不足ではなく、パートナーとの関係性やコミュニケーションにあるのかもしれません。
ここでは、性生活の満足度という視点から、日本特有の特徴を見ていきましょう。
日本人は性生活に満足していない?
日本は性交頻度が低い国として知られていますが、実は性生活に対する満足度も世界的に見て低い水準にあります。
過去の国際調査では、「現在の性生活に満足している」と回答した日本人は約3割程度にとどまり、調査対象国の中でも低い水準でした。一方で、海外では半数以上が満足していると回答する国も少なくありません。
興味深いのは、日本では性交頻度の低さと性生活満足度の低さが同時にみられることです。単純にセックスの回数が少ないだけではなく、パートナーとの親密な関係性そのものに課題を抱えている可能性が示唆されています。
もちろん、満足度は個人差の大きい指標です。しかし、これだけ多くの人が満足していないと感じている背景には、日本社会特有の環境や価値観が影響しているのかもしれません。
頻度だけでは説明できない“満足度格差”
性生活の満足度は、必ずしも性交回数だけで決まるものではありません。たとえ性交頻度が高くても満足しているとは限らず、反対に回数が少なくても満足している人もいます。
つまり、本当に重要なのは「何回しているか」ではなく、「その関係性に満足できているか」という点です。では、なぜ日本では頻度だけでなく満足度まで低いのでしょうか。
その背景のひとつとして指摘されているのが、パートナー同士のコミュニケーションの減少です。
日本では性に関する悩みや希望を率直に話し合う機会が多いとはいえず、「本当はこうしてほしい」「実は悩んでいる」といった気持ちを共有しないまま時間が過ぎてしまうケースも少なくありません。
また、結婚や子育てを機に、夫婦が「恋人」から「共同生活者」へと変化しやすいことも影響していると考えられています。家事や育児、仕事に追われるなかで、互いの感情や欲求について話し合う時間が減り、心の距離が少しずつ広がってしまうのです。
こうして見ると、日本の性生活満足度の低さは単なる性の問題ではありません。むしろ、夫婦やパートナーのコミュニケーション、そして社会全体の働き方や暮らし方が反映された結果ともいえるでしょう。
なぜ日本だけセックスレスが増えるのか|愛情だけでは説明できない構造
セックスレスは、夫婦やパートナー間の愛情が冷めた結果として語られることが少なくありません。しかし実際には、愛情の有無だけでは説明できない要因が数多く存在します。
ここでは、日本特有ともいえる環境がパートナーシップにどのような影響を与えているのかを見ていきましょう。
長時間労働と慢性的な疲労が夫婦関係に与える影響
日本の性生活満足度や性交頻度の低さを語るうえで、まず無視できないのが「疲労」の問題です。日本では長時間労働や仕事によるストレスが社会課題として指摘されており、十分な休息や睡眠を確保できていない人も少なくありません。
性欲は単なる気持ちの問題ではなく、心身のコンディションと深く関わっています。慢性的なストレスは性ホルモンの働きや性的関心の低下につながることが知られており、睡眠不足もホルモンバランスやメンタルに影響を及ぼします。
その結果、「パートナーを嫌いになったわけではないけれど、その気になれない」「二人の時間よりもまず休みたい」と感じる人が増えていきます。
セックスレスは愛情不足が原因だと思われがちです。しかし実際には、愛情があっても親密な時間を持つための体力や余裕そのものが失われているケースも少なくありません。
「好きだけど疲れている」が起きる日本の働き方
セックスレスの背景には、「相手を好きではなくなった」のではなく、「好きだけれど疲れている」という状態もあります。
仕事で疲れ切った状態では、パートナーとの会話やスキンシップに使うエネルギーさえ残っていないことがあります。
特に共働き世帯では、仕事が終わっても家事や育児が続くため、夫婦だけでゆっくり向き合う時間を確保することは容易ではありません。
さらに、日本では真面目さや責任感が重視される一方で、自分の休息やパートナーとの時間が後回しになりやすい傾向があります。その結果、夫婦関係は良好であっても、親密なコミュニケーションの機会だけが少しずつ失われていくのです。
日本のセックスレスは、個人の性欲や相性だけでは説明できません。むしろ、働き方や暮らし方そのものが、パートナーとの親密さに影響を与えている側面があるのです。
セックスレスは“個人の問題”ではない
ここまで見てきたように、日本のセックスレスは夫婦やパートナー個人の問題だけでは説明できません。実際には、働き方や子育て環境だけでなく、恋愛や結婚に対する価値観そのものが大きく変化しています。
セックスレスは特定の夫婦だけが抱える悩みではなく、社会全体の変化を映し出す現象として捉える必要があるのかもしれません。
若い世代にも広がる「性離れ」
セックスレスというと、中高年夫婦の問題をイメージする人も多いかもしれません。しかし近年は、若い世代でも恋愛や性に対する意識の変化が指摘されています。
国立社会保障・人口問題研究所の調査では、交際相手がいない未婚者や恋愛経験のない若者の割合が増加していることが報告されています*³。また、近年は恋愛や結婚を人生の必須条件と捉えない価値観も広がり、生き方の選択肢はより多様になりました。
かつては恋愛や結婚が人生の通過点として捉えられることが一般的でした。しかし現在は、仕事や趣味、友人関係など、多様な価値観のなかで生き方を選ぶ時代になっています。
さらに、SNSや動画配信サービス、オンラインゲームなどのデジタルコンテンツが日常に浸透したことで、人と関わらなくても一定の楽しさや満足感を得られる環境が整いました。
こうした変化のなかで、恋愛や性的な関係は以前ほど優先順位の高いものではなくなりつつあります。つまり、日本で起きている「性離れ」は一部の人だけの特殊な現象ではなく、社会全体の価値観やライフスタイルの変化とともに進行している現象といえるでしょう。
愛情と性的欲求はなぜ一致しないのか
セックスレスに悩む人のなかには、「パートナーとはしたいと思えないのに、他の人には魅力を感じることがある」と戸惑う人もいます。この現象は、単純に愛情がなくなったからとは言い切れません。
心理学や性科学の分野では、愛情と性的欲求は必ずしも同じ仕組みで動いていないと考えられています。相手を大切に思う気持ちと、性的な刺激や新鮮さを求める気持ちは別々に存在することがあるのです。
長く一緒に暮らす夫婦は、恋人という関係から家族や共同生活のパートナーへと変化していきます。信頼や安心感は深まる一方で、恋愛初期のような緊張感や新鮮さは少しずつ薄れていきます。
また、「夫」「妻」「父」「母」といった役割が強くなることで、無意識のうちに相手を異性として意識する機会が減ってしまうこともあります。
セックスレスは“愛情不足”ではなく社会構造の問題かもしれない
日本のセックスレスは、単なる愛情不足や性欲の問題ではありません。長時間労働や育児負担、価値観の変化など、さまざまな社会的要因が影響しています。
また、「愛しているのにしたくない」と感じることも、長期的なパートナーシップでは決して珍しいことではありません。
セックスレスを個人や夫婦だけの問題として抱え込むのではなく、現代社会のなかで多くの人が直面する課題として捉えること。その視点が、パートナーとの関係を見つめ直すきっかけになるかもしれません。
*¹参考文献:レゾンデートル株式会社『夫婦のセックスレスに関するアンケート調査』
*²参考文献:一般社団法人日本性科学界『セックスレスについて』
*³参考文献:国立社会保障・人口問題研究所『現代日本の結婚と出産-第16回出生動向基本調査(独身者調査ならびに夫婦調査)報告書-』
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