慶應義塾大学 整形外科学教室 特任講師 早野 元詞先生へインタビュー!老化研究を社会に届けて世界を変える

慶應義塾大学 整形外科学教室 特任講師 早野 元詞先生へインタビュー!老化研究を社会に届けて世界を変える

慶應義塾大学 整形外科学教室 特任講師 早野 元詞先生にインタビュー。老化やエピジェネティクスを専門とする研究者であると同時に、自ら興した企業を通じて成果を社会に届ける早野先生。エンドユーザーに役立つものを作らないと意味がないという想いのもと、老化のメカニズムを解明するにとどまらず、事業化により社会実装を推進しています。今回は早野先生が取り組む研究や老化のメカニズム、今後の展望についても詳しく教えていただきました。

プロフィール

慶應義塾大学 整形外科学教室 特任講師
早野 元詞(はやの もとし)先生

老化やエピジェネティクスを専門とする生物学者。東京大学 大学院 新領域創成科学研究科 博士(生命科学)取得後、2010年より東京都医学総合研究所所員、日本学術振興会海外特別研究員、Human Frontier Science Program Fellow、ハーバード大学院医学部客員研究員を経て、2017年より慶應義塾大学 医学部 特任講師。株式会社坪田ラボ参画、株式会社Flox BioやOne Genomics Inc. (米国スタートアップ)創設などに関わる。DNAの損傷によって誘導されるエピゲノムの変動が、後天的に老化の速さやタイミングを制御しているというメカニズムを明らかにした実績を持つ。2024年に老化研究や社会実装を推進することを目的に一般財団法人ASAGI Labs、株式会社ASAGI Labsを立ち上げる。著書には『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』がある。

(経歴)
2005年 熊本大学 理学部 卒業
2010年 東京都医学総合研究所所員、日本学術振興会海外特別研究員、Human Frontier Science Program Fellow、ハーバード大学院医学部客員研究員
2011年 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 博士(生命科学)取得
2017年 慶應義塾大学 医学部眼科学教室特任講師、株式会社坪田ラボCSO就任
2024年 一般財団法人ASAGI Labs(代表理事)、株式会社ASAGI Labs(代表取締役)

▷早野研究室の公式HPはこちら

研究者としての背景 ~研究者でもありアントレプレナー*でもありたい~

―――まず、早野先生が研究者の道に進んだきっかけを教えてください。

僕はもともと人がなぜ年を取るのかなど生物の根本的なことを知りたいと生物学を専攻していたんです。研究者の道に進んだのは、大学生のときに知ったウェルナー症候群がきっかけ。ウェルナー症候群とは思春期を過ぎたぐらいから早くもさまざまな老化現象に悩まされる遺伝性疾患の1つです。遺伝子1つ変わるだけで老化が進んでしまうなら、遺伝子を理解することで治療もできるのではないかという考えに至りました。

―――研究者から起業家を視野に入れたのはなぜだったのでしょうか?

老化を抑える薬作りに携わりたいと、東京大学のメディカルゲノム専攻に進んだのですが、研究を深めるうちに臨床医や研究者だけでは老化の薬は作れないのではという想いが生まれて。最終的なエンドユーザーがハッピーになれるものを作らないと研究者にとって意味がないともどかしい思いを抱えていたときに、当時老化の原因と若返りの方法を研究しながら起業しているデビッド・A・シンクレア教授の存在を知りました。研究者でもありアントレプレナー*でもありたいと考えていた自分にとって、デビット教授はぴったりロールモデルだったんです。

*アントレプレナー…ゼロから事業を作り出す起業家を指す言葉。

―――それからアメリカに渡ったのですね。

それがすんなりとことが進んだわけではありませんでした。当時デビット教授はアメリカのハーバード大学医科大学院で研究しながら製薬ベンチャーを興すなど多忙を極めており、研究員として採用してほしいというメールを送ったのですが返信はなく…。それでも諦めず何度もメールを送り続け、2013年にようやく採用されハーバード大学に留学することになりました。

―――デビット教授のもとで学んだ日本人は早野先生ただ一人ですが、どのような学びがありましたか?

研究は社会に還元して世界を変えるべきものというのがデビット教授の考えでした。日本だと予防医学の考え方が一般的ですが、デビット教授は僕が留学した2013年からすでに老化を治療すると言っていましたね。その当時僕は8つくらいのプロジェクトに携わっていたのですが、申請書を提出するときに受けた「それが世界を変えるのかどうか」という質問は今でも覚えています。

デビット教授の研究の進め方も、興味深いものでした。個人単位では実現できない世界を変えるビジョンを進めるため、さまざまな知識を持つ研究者との共同研究を前提に、広くネットワークを構築。メンバーがやりたいといったときにすべての資金とメンバーが全部調達できているというプロセスやラボの長としての仕事ぶりは大きな学びとなり、帰国後スタートアップに携わる際にも大いに参考になりました。

早野先生の取り組み ~老化を治療する方法を確立し社会につなげる方法を模索~

慶應義塾大学 整形外科学教室 特任講師 早野 元詞(はやの もとし)先生

―――そもそも老化とはどのようなメカニズムで生じるものなのでしょうか?

簡単にいうと、細胞1つひとつの機能が衰えていく、これが老化のメカニズムです。体の中には外からの刺激に対するレスポンスの仕方などがマニュアル化され、エピゲノムという形で保存されています。若いうちはマニュアル通りに体が反応しますが、年を重ねていくとマニュアルが分からなくなってきて適切に対応できなくなるんです。そうすると細胞の機能が落ちていき、顔にシワができるなど見た目に変化が生じ、最終的には疾患にもつながります。

―――なるほど。では、早野先生の中での老化を治療するイメージを簡単に教えてください。

僕らの体の中には37兆個もの細胞があって、脳も筋肉もDNAの配列は全部同じなんです。そんな中で例えば筋肉が筋肉として働いているのは、ここで使う細胞ですよというマニュアルが組み込まれているから。それが老化していくと筋肉が筋肉のアイデンティティをなくしていって、だんだん機能が下がっていく。アイデンティティをももう一回戻してあげるというのが老化を治療するイメージで、何を用いて行うかを今研究しているところです。

―――面白いですね、話を聞いていてやる気がなくなった社員にもう一度やりがいを見つけてあげる感じだなと思いました。

そうなんですよ。機能低下が進んでいくと田中なのに佐藤ですとか言い始めるので、君は田中だよっていうのを教えて元に戻す感じですね。それでいうと、細胞1つひとつの認知症に対応していくのに近いかもしれません。

―――早野先生が取り組んでいることを教えていただけますか?

僕たちの研究室では、ICEマウスを使った研究を行っています。ICEマウスはデビット教授のもとで構築に携わった、遺伝子の特定箇所にダメージを与え人工的に老化のスイッチを入れたマウスのこと。ICEマウスの構築により老化が始まる閾値を可視化できるようになったことで、老化研究が大きく前進するきっかけとなりました。ICEマウスを使った研究でエピゲノムにより老化が制御でき、治療できる可能性があるというところまではたどり着いたので、どう治療していくか研究を進めているところです。

一部のお金持ちができるものではなく、誰でもできるようになれば、全体として健康寿命が伸びることにつながると思うので、僕の研究室では薬局で売っている薬を用いた研究を行っています。市販薬の中にも「これ飲んだらなんか元気になるよね」って意外にみんな分かっているけど、どういうメカニズムか把握できていないことが結構あって。こういうところを突き詰めていけば、手軽にできることは意外とある。今後は薬局で売っている薬から新薬として今のルールに則った産業にするなど、社会につなげていく方法を模索していくつもりです。

美容領域との関連性と今後の展開 ~日々の生活習慣が遺伝子を左右する~

―――美容業界において、早野先生の研究はどのように応用されていくイメージですか?

アメリカで山中ファクターを用いて免疫治療やがん治療を行う会社では、すでに皮下脂肪やシワの改善などに実際応用されているんです。皮膚の領域は病気の数も多いし変化も分かりやすいので診断と介入がしやすく、また美容の領域はお金を払ってでもやりたい方が多いという側面もあり、研究者としても試しやすい部位ではあります。

また、我々の研究室でも新しい光を使った皮膚の若返りの研究を行っています。具体的には、紫色を感じるセンサータンパク質が皮膚にあって、エイジングコントロールに重要な役割を担っています。非常に手軽な光を使用した技術に関して今後、具体的なヒトでの臨床データも取っていきたいと考えています。

美容の領域が最先端に進むのは当然ではあるのですが、適切に応用していくためには自由診療の良いところと悪いところを施術する側がきちんと理解して、サイエンス的なリテラシーを高めていく必要はあると思っていて。施術する側とされる側の何かしらの教育する団体が必要だと思っています。特にエイジングの領域が広がりなかには信憑性が低いものもあるので、施術を受ける側はデータがあることを重視してほしいですね。

僕らの財団も、今年は最先端の論文を分かりやすくかみ砕いて周知するところをやっていきたいと思っていて。メディアも含めて連携していくことで、医師にも一般の方にも知ってもらう機会を増やせたら良いと思っています。

―――体の内側からのエイジングケアについての早野先生のお考えを教えてください。

エピゲノムには長期間記憶っていう機能があって、例えば若い時に1回太ってしまうと、たとえ痩せたとしても体が覚えていて、加齢関連疾患や心臓疾患などいろいろなリスクが残ってしまうんです。これをエピゲノム記憶と言います。だから、シワが出てきたから急に何かやるよりは、若い時から自分の生物学的年齢をちゃんと理解したうえで、若いうちからエピゲノムの状態やマニュアルをあまり乱さないような生活習慣を整えていくのが一番良いのではないかと思います。

ICEマウスで若い時に紫外線に当たる、毎日高カロリーなものを食べるなどのストレスを与えるといった環境に似たストレスを与える研究を行ったところ、エピゲノムが変化して老化が加速しました。変えることが良い場合もあるのですが、ストレスを浴びる前の状態に戻すことはできずそれが最終的な疾患につながってしまう。若い時の生活習慣は、自分自身が認識しているよりも体が記憶して、遺伝子の使い方を左右することを理解しておくことも大切と思います。

―――そうなると、美容も単なる概念じゃなくなりますね。

そうですね。体の中で起こっていることと顔の表面で起こっていることは基本的に一致していて相関性が高いので、AIなどを使って顔から測定した年齢は生物学的年齢とだいたい一致するんです。同窓会とかで老け込んだ同級生がいるとその人が積み重ねてきたものを概念的に想像してしまいますが、将来的には、カメラとか血液検査とかで簡単に自分の生物学的年齢が把握できるようになるなど、今後はそれがデータとして表される時代になってくると思います。

また、今は端々の健康情報があふれている状態で、例えば体が糖化するとこんなリスクがあるなどという情報はたくさんありますが、それが99%起こりうるのか50%くらいの確率なのか分からず、ただ不安を煽っているだけになってしまっている。今後はそういった情報が全部統合されて、多様なデータから今後の疾患をかなり高い精度でパーソナライズに診断できるようになります。サプリメントにしても、人によって合う合わないがあるところが合うか合わないか一瞬で判断できるようになり、生物学的年齢の若返りの指標も明確になる。そのため自分自身で生物学的年齢をコントロールしたりモニタリングしたりする世界観になるのかなと思っています。

エイジング業界の今後の動向と展望 ~研究と産業の両面からサポート~

―――日本のエイジング業界としての期待はありますか?

エイジング業界として日本の持つポテンシャルは高いと思っています。日本は医療データや人種的なバックグラウンドもクリーンで、医療施設や介護施設も整っているので、新しいものを介入して健康にどう影響を与えるかテストする場としては最適です。

ただ、日本で生まれた技術よりも世界で実証された技術の方が日本では受け入れられやすいので、僕個人的には日本で実証したものを海外で展開し、成功したものを日本に持ち帰って連携することで日本の健康寿命にインパクトを与え始めるという流れになるのではと思っています。

―――早野先生が取り組んでいることを教えていただけますか?

日本での問題点は、山中 伸弥先生のiPS細胞でもしかりですが、日本で生まれたノーベル賞レベルの技術に対して、産業化になると日本が遅れをとってしまう点にあります。エイジング業界で研究と産業の両方の角度からサポートしながら、世界的にも成功するものを作ることで、エイジング業界だけでなく研究分野全体が良くなるよう注力したいと思っています。そのためには、公的資金に依存した研究ではなく、民間からの資金調達や連携は不可欠です。

また、これから若い方たちが新しいマインドでいろいろな研究をしていくと思うので、それを支援する仕組みづくりにも注力していくつもりです。ASAGI Labsという財団法人と株式会社を立ち上げたのも、民間からの研究資金援助や国際的連携のための一環です。独創的な研究を日本で推進する仕組みを推進し、世界を変える研究者が増えることを期待しています。我々の取り組みを一緒に進めてくださる会員の方(個人・企業)も募集しています。

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読者に向けて伝えたいメッセージ ~自分に合った若返りの方法を模索して~

慶應義塾大学 整形外科学教室 特任講師 早野 元詞(はやの もとし)先生

―――最後に、読者へ向けて伝えたいメッセージをお願いいたします。

生物学的年齢は状況により変化するものでもあるので、生物学的年齢が低くなっていたらモチベーションにもなるし、暦年齢より上回っていたら生活習慣に気を配るきっかけになると思っています。若いときから気を付けることはもちろん、50歳、60歳と年齢を重ねても自分でコントロールすることで巻き戻すこともできる。自分のモチベーションを保つための1つの材料になればと思っています。

僕自身は無理なく若返ることを目指して研究しています。昔カロリー制限の実験で、エサの量が減らされた猿は寿命が伸びなかったんです。つまり、ストレスを感じながら健康にはなれないんです。

楽しみながら自分でエイジングを測定できるのが美容領域の良さ。エイジング業界の美容領域は最先端ですし、見た目的にも結果が分かりやすい分野です。アプリなどで自分の肌年齢を測定したりいろんなサプリメントを試してみたりして、自分に合った若返りの方法を模索していただければ良いと思っています。

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