美しさの強制装置となった「整形アプリ」とSNS
完璧な顔を要求するアルゴリズム社会
整形アプリ「SoYoung」や「GengMei」が搭載する“顔スキャン機能”が、自動でユーザーの顔の欠点を判定し、推奨手術を提示する仕組みを構築している。投稿・ポイント制度を絡めた“ゲーミフィケーション整形”が若年層の心を侵食している。
100回以上の手術を経験し、整形の過程をSNSで発信するアビー・ウーは、中国初の整形インフルエンサーの一人として象徴的な存在だ。整形が「美の再設計」ではなく、「SNS映えする身体改造」へと変質している。
🟡 日本でも美容医療アプリや整形SNSが増えているが、「診療と広告の境界」があいまいになるリスクは極めて高い。アルゴリズムに「美しさ」を預けることの是非が今、問われている。
100回以上の手術を受けたアビー・ウーは、中国初の美容整形インフルエンサーの一人だ。 (出典:BBC)
「美容整形ローン」と“顔採用”の圧力
借金、就職、手術──すべてが24時間以内に起こる現実
ある若年女性は、面接翌日に「整形しないと採用しない」と告げられ、年利30%超のローンで手術を強要された。しかも、ローン申し込み、施術、仕事開始までが24時間以内というスピードだった。こうした事例は氷山の一角であり、「整形前提の就労詐欺」は中国で拡大している。
🟡 日本でも「外見の良さ」が無言の評価軸になっている現場は存在する。美容整形が就職条件にならぬよう、企業倫理と美容医療側のガイドライン整備が求められる。
整形ブームの裏に横たわる“医療の質の空洞”
資格なき施術者と「顔を壊された」被害者たち
中国では8万の無認可施設と10万人以上の無資格施術者が活動しているとされ、日々の美容医療事故は数百件に上ると推定されている。女優ガオ・リウの鼻先が壊死した事件は、有資格者を装った無認可施術の象徴的な事例だ。
失敗手術によってキャリアを断たれた例や、「皮膚の下にセメントがあるような感覚」と訴える被害者が後を絶たない。整形がもたらす身体的・精神的なダメージは、“自己責任”では片付けられない公共課題になりつつある。
🟡 広告主導型で拡大する日本の美容医療市場も、「資格不明」「研修不足」な施術者問題は無縁ではない。安全性とトラブル対策の可視化は急務といえる。
女優ガオ・リウの鼻先が黒くなり、死んでしまった手術の失敗が2020年に話題になった。 (出典:BBC)
編集長ポイント
歪んだ美の追求の果てに──社会構造としての“整形依存”
整形とは選択か、それとも強制か。中国の現状は、“見た目による社会的排除”と“経済による整形圧力”が構造的に絡み合い、整形を義務と感じる社会心理を生んでいる。整形依存はもはや個人の趣味嗜好の問題ではなく、経済格差とテクノロジーが融合した社会病理である。
美容医療において、“選ぶ自由”と“選ばされる圧力”は紙一重だ。日本市場においては、整形があくまで主体的な選択であることを守るために、業界のガイドライン整備・SNS活用ルール・教育現場での啓発が不可欠である。

まとめ
1.中国では年間2000万人が整形、特に若年層が主導層
2.整形アプリが顔をスキャンし、美容提案を“自動化”
3.無認可施術とローン契約による事故・詐欺が横行
4.就職圧力を悪用した美容ローン詐欺が常態化
5.SNS上のインフルエンサーが整形基準を加速させている
6.日本市場も“美の義務化”にどう抗うかが未来を左右する