あなたの受けている“幹細胞治療”、正確ですか?
「幹細胞」と呼ばれていた美容医療の一部は、厳密には“幹細胞ではなかった”可能性がある。
日本再生医療学会は2025年5月29日付で、これまで国内で広く使用されていた「間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells)」という表現のうち、幹細胞としての機能を明確に示せないものについては、今後「間葉系間質細胞(Mesenchymal Stromal Cells)」に統一する方針を発表した。
この動きは、ISCT、ISSCR、FDAといった国際的な医学機関との整合性を図るものであり、美容医療を含む自由診療分野における広告・診療表記の見直しが求められる大きな転機となる。
📌 記事をざっくりまとめると…
✅「間葉系幹細胞」は誤解を招く表現として、「間葉系間質細胞」へ名称変更へ。美容医療でも広く使われており、影響は必至。
なぜ今、表現の見直しが必要なのか?
今回の見直しは、学会が発表した改訂版提言
「間葉系間質細胞等の経静脈内投与の安全な実施への提言(2025年5月改定)」に基づくもの。
学会によると、「幹細胞」と表記されることで、あたかも多分化能(さまざまな組織に分化できる力)や自己複製能があるような誤認を与えるリスクがあり、特に脂肪由来の細胞などでは、実際にはこのような能力が確認されていないケースも多いという。
具体的には、以下のように分類される:
細胞の由来 |
呼称(今後) |
幹細胞機能 |
骨髄・臍帯 |
間葉系幹細胞(MSC) |
分化能・複製能あり |
脂肪組織など |
間葉系間質細胞(MSC) |
機能は限定的 |

🧪 自由診療・美容医療への影響は?
自由診療分野では、「幹細胞点滴」や「幹細胞上清液」といった名称で施術が提供されているが、その多くは脂肪由来の間質細胞を利用しており、今後「幹細胞」との表記が不適切となる可能性がある。
広告表現や施術メニューに対し、医療広告ガイドラインの観点から是正の対象になるリスクも考えられる。
今回の表記見直しは、すでに公表されていた提言文書の表現も修正されており、今後は「間葉系間質細胞」としての正確な理解・説明が医療提供者に求められる。
⚠ 表記を変えないリスク――美容医療は今、分かれ道に
日本再生医療学会が「間葉系幹細胞」の表記見直しを打ち出したことで、美容医療・自由診療の現場では次の4つのリスクが浮上している:
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広告違反リスク
「幹細胞」と謳いながら実際は“幹細胞でない細胞”を用いた施術を宣伝し続ければ、医療広告ガイドライン違反に該当する可能性がある。
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患者の信頼失墜リスク
「幹細胞=再生・若返り」のイメージで治療を受けた患者が、後に実態を知った場合、不信・クレーム・返金対応などの火種になりうる。
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ブランド毀損と価格競争の激化
用語の誤認を是正しないまま高額メニューを維持すれば、他院との信頼格差が拡大し、価格の根拠が揺らぐおそれがある。
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行政・法令順守面でのリスク
表記見直しを発表しているのが公的学会である以上、無視すればコンプライアンス意識の低い施設と見なされる可能性がある。

編集長POINT
~幹細胞ブームの陰に潜む“誤認”リスク~
「幹細胞」と名乗る前に、その細胞は何か?
医療の言葉は重い。とりわけ自由診療では、その一語が患者の期待値と治療の価値を大きく左右する。
今回の「間葉系幹細胞」から「間葉系間質細胞」への変更は、“夢の治療”を現実のデータに引き戻す動きとも言える。
美容医療においても、治療内容の実体と表現の整合性は避けて通れない時代に入った。医師と患者の“言葉のギャップ”が、信頼の断絶を生まないために、今こそ再点検が求められる。
まとめ
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日本再生医療学会が「間葉系幹細胞」の名称見直しを発表
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脂肪由来など、幹細胞機能が確認できない細胞は「間質細胞」と定義
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ISCT・ISSCR・FDAなど国際基準に準拠した動き
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自由診療・美容医療での「幹細胞」表記に影響大
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提言文書も「幹細胞等→間質細胞等」へ修正済み
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表現の見直しは、医療提供者の責任と信頼構築の第一歩