非外科から外科へ──時代が変える美の価値観
10年前には過去の遺物と見なされていたフェイスリフトが、再び注目を集めている。非外科的な美容医療が全盛を迎える中、“切る”という外科的アプローチが再評価されている背景には、技術革新、患者心理、そしてSNSによる可視化の時代が大きく影響している。英国では前年比8%の増加を記録した。老化と闘う選択肢として、再びメスが求められ始めたのか。

📌 ざっくり記事をまとめると…
- 非外科施術の限界が、切開リフト回帰の引き金に
- GLP-1減量注射による顔のたるみ問題が追い風に
- 40代でも選ばれる”ナチュラルに見える”ミニリフト技術が登場
- BAAPS(英国美容形成学会)統計ではフェイス&ネックリフトは前年比8%増、眉リフトは20%増
■セレブの若返り報道が火をつけた「フェイスリフト・ルネサンス」
2025年、ボトックスやヒアルロン酸といった注入系の施術が広く普及する一方で、外科的手術であるフェイスリフトが静かに人気を取り戻している。火付け役は、クリス・ジェンナー(69歳)の劇的な若返りだ。SNS上ではキム・カーダシアンと見間違えるほどと話題となり、担当医が手術の実施を認めたことで関心が一気に高まった。
英国美容形成外科学会(BAAPS:British Association of Aesthetic Plastic Surgeons)の年次監査によれば、フェイス&ネックリフトは前年比8%増。10年前には半数以上の患者が離れていた施術だが、技術革新により“自然な表情”を維持しつつ若返ることが可能となり、リスクよりもリターンを評価する動きが顕著になっている。
非外科時代の副作用──「注入疲れ」が切開復活を後押し
非外科的治療は手軽さが魅力だが、長期的な多用が顔のバランスを崩す“注入疲れ”を引き起こしている。バイオリズムのように表情が硬化し、フィラーの膨張によって不自然な輪郭となる例も報告されている。
形成外科医ゲオルギオス・オルファニオティス氏は、「現在のフェイスリフトはSMAS(表在筋膜)層にアプローチし、効果は10年以上持続。骨格構造に働きかけるため、注入では補えないたるみにも対応できる」と述べている。
また、英国美容形成外科学会(BAAPS)の統計では眉リフトは前年比20%増、まぶたの手術は13%増と、顔の構造的改善を求める需要が広がっている。

ダイエット注射ブームが引き起こした「顔のたるみ危機」
オゼンピックやマンジャロに代表されるGLP-1受容体作動薬の普及により、急激な体重減少がもたらす“顔の皮膚のたるみ”が新たな課題として浮上している。特に40代の女性層において「痩せたけれど老けた」という声が相次ぎ、それに応えるかたちでフェイスリフトへの需要が再燃している。
リモートワークやZoom会議が常態化する現代、画面に映る自分の顔に意識を向ける時間が増加し、“Zoom醜形症”という新たな心理的負担が指摘されている。SNSによる自己観察も加わり、かつてなら見逃していた微細なたるみにまで敏感になる傾向が、若年層に広がっている。
英国美容形成外科学会(BAAPS)会長のノラ・ニュージェント氏は、「フェイスリフトは、もはや美容的価値だけではなく、社会的な立ち位置や雇用の維持にも直結する選択肢となっている」と指摘。年金受給年齢の引き上げや働き方の変化も、フェイスリフト需要の構造要因とされている。