
韓国で、健康保険が適用される診療を一度も行っていない一次医療機関(クリニック)が全国で2304カ所に達した。
その大半は、病気の治療ではなくフィラー、リフティング、脱毛など美容施術のみを行う施設だ。
街には“病院”の看板が溢れているのに、いざ患者が発熱しても診てもらえない。
これは、医療が「治す産業」から「売る産業」へと変質する過程を映し出している。
日本も自由診療化が進む中、これは決して他国の話ではない。
INDEX
1. “病気を診ない病院”という新たな現実
韓国・健康保険審査評価院(HIRA)の資料によれば、
2025年上半期に健康保険を一度も請求していないクリニックが2304カ所に上った。
2022年の1540カ所から3年間で約1.5倍の増加だ。
特にソウル江南区では、整形外科の約8割(79%)、一般クリニックの4割超(42%)が保険診療ゼロ。“皮膚科”の看板を掲げながら、湿疹や蕁麻疹を診ない――そんな“選別医療”が常態化している。
これは単なる統計ではない。
「診療を断る権利」と「治療を求める権利」が市場論理で衝突する現象だ。
2. 高額機器投資と“工場型クリニック”の台頭
取材によれば、多くの美容専門クリニックでは、
高額な美容機器を導入し、薄利多売で集客する“装置依存型経営”が主流化。
SNS広告では「1万ウォンボトックス」「5万ウォンフィラー」といった
価格訴求型キャンペーンが乱立している。
しかしその裏で、
皮膚縫合など保険診療の報酬は3万ウォン(約3300円)前後にとどまり、
時間と労力に見合わない現場構造が、
医師を美容分野に流出させる制度的圧力となっている。
医療の現場は今、
「儲かる医療」と「必要な医療」の間で分断されつつある。
3. 公益性の崩壊と“第三の市場”の誕生
記事によれば、韓国ではいま、
保険医療(一次)でもなく、自費の補完医療(自由診療)でもない――
「高額審美医療」だけを提供する“第三市場”が形成されつつある。
2024年時点で美容医療市場は3兆ウォン(約3300億円)を突破。
一方で地方では医師不足が深刻化し、
救急医療や慢性疾患ケアを担う医師が減少している。
医師免許は本来「公益性の担保」と引き換えに付与されるものだが、
“病気を診ない医師”が特権を享受する構造が倫理的議論を呼んでいる。
4. 日本への示唆 ― “自由”の名の下で何が失われるのか
日本でも美容皮膚科や自費診療専門クリニックが増加し、
保険診療を行わない“完全自由診療型クリニック”が都市部を中心に拡大している。
韓国のような極端な市場化はまだ見られないものの、
同様の構造変化(医師偏在・装置依存・低診療報酬)は確実に進行中だ。
“自由診療”は本来、新しい医療価値の創造であるべきだが、
その自由が行き過ぎれば、
医療の社会的使命が“空洞化”する未来が待っている。
編集長コメント
~「治さない医療」が生まれるとき~
今回の韓国の事例は、
美容医療そのものを否定する話ではない。
むしろ、市場の成功が制度の限界を露呈させた象徴だ。
治療よりも装置、患者よりも価格――。
この構図は日本の自由診療市場にも静かに広がりつつある。
いま問われているのは、
“どこまでを医療と呼び、どこからをビジネスとするのか”という境界線だ。
日本が同じ轍を踏まないためには、
保険医療と自由診療の共存設計、
そして「医師が誇れる医療」への再定義が不可欠である。
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保険診療ゼロのクリニック=2304カ所(韓国)
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美容・整形領域への医師偏在が急拡大
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高機器投資と価格競争が現場を圧迫
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“第3の市場”=保険外の高額美容医療が拡張
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日本も同様の自由診療化が進行中
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医療の社会的使命を守る制度設計が急務
まとめ
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韓国で「病気を診ない病院」2300超
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3年間で+50%、美容医療に人材集中
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江南区では整形外科の8割が保険診療ゼロ
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高額機器投資×薄利多売モデルが蔓延
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公益医療の担い手が減少、倫理議論が高まる
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日本も自由診療の“光と影”を制度設計で問われる
今後も「医療市場の倫理とサステナビリティ」をテーマに、
日本がどこまで自由診療を拡張すべきかについての視点も大事に発信します。
美容医療に関連するニュースをキャッチ次第、投稿していきます!
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