「老化は時間のせいではなく、細胞同士の“会話”だった」。
京都大学・東京大学・理研による一連の研究が、
細胞が互いに信号を送り合いながら老化や線維化を進めていることを相次いで示した。
ひとつは老化細胞が周囲を老化させる「老化伝播」の実証。
もうひとつは、心臓細胞間シグナルを遮断して線維化を抑える「FGFR1阻害」の成功。
両者に共通するのは、“細胞のネットワークをどう設計し直すか”という発想だ。
INDEX
1. 老化は「時間」ではなく「伝達」だった
京都大学CiRA未来生命科学開拓部門の曽我部裕子研究員、
東京大学医学系研究科の山田泰広教授、
理研AIPの山本拓也教授らが率いるチームは、
老化した細胞が放つ分泌物(SASP)が、隣接する細胞を次々と老化させる様子を
生体内で可視化できるマウスモデルを開発。
赤く光る一次老化細胞(mCherry)と、緑に光る二次老化細胞(GFP)を識別することで、
老化がどのように“感染のように伝わるか”をリアルタイムに追跡した。
肝臓では免疫細胞マクロファージが炎症性サイトカインIL-1Bを放出し、
その信号を受けた周囲の細胞が老化を開始。
IL-1受容体を阻害するとこの連鎖が止まることも確認された。
老化とは、細胞の孤立ではなく“情報の連鎖反応”である。
出典: 京都大学iPS細胞研究所:マウスモデルで細胞老化のメカニズムに迫る
参考図:Dox処理後7日目の肝臓におけるRNA in situ解析
2. FGFR1阻害が心臓線維化を止める ― 同じ構造の“逆再生”
老化を「伝えない」発想は、心臓にも応用され始めている。
京都大学大学院医学研究科・CiRAの畑玲央研究員らが率いるチームは、
拡張型心筋症(DCM)患者58例の心筋生検解析から、
心臓線維化を進行させる主要因子としてFGFR1を特定。
このFGFR1を標的にした阻害剤AZD4547を投与したところ、
ヒトiPS細胞由来心臓オルガノイドおよびマウス心臓損傷モデルで
線維化が抑制され、心臓のポンプ機能(駆出率)が有意に改善した。
単一細胞解析では、FGFR1阻害が線維芽細胞と心筋細胞の間の線維化促進性FGFシグナルを遮断し、
同時に心臓保護作用をもつNPR1経路を活性化することも判明。
老化が“伝わる”のを止めるのと同様に、
線維化も“伝わらない”ように設計できる。
出典:京都大学iPS細胞研究所:iPS細胞と動物モデルで実証:FGFR1阻害が心臓線維化を抑制し、心臓機能を改善
参考図:ヒト心臓オルガノイドにおけるFGFR1阻害剤による線維化関連遺伝子・タンパク質の減少
3. 共通するキーワードは「炎症」と「通信」
どちらの研究にも共通していたのは、炎症性サイトカインを介した細胞間通信(intercellular crosstalk)。
老化ではIL-1B、心臓線維化ではFGFシグナルが、その媒介役を担っていた。
この構造を制御できれば、
加齢・炎症・線維化という従来別々に扱われてきた現象を、
ひとつの“ネットワーク疾患モデル”として理解できる。
美容医療や再生医療においても、
炎症・線維化・代謝の三位一体を制御する発想は、
「炎症を抑える若返り」から「炎症を伝えない若返り」へ進化していく。
4. 美容・再生医療への示唆
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老化連鎖を断ち切るには、IL-1BやFGFR経路の制御が鍵
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再生医療では、iPS細胞やオルガノイドで細胞間環境を再現し治療標的を検証
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美容医療では、抗炎症・抗線維化作用をもつ新世代成分(抗SASP・抗FGF)の開発が進む可能性
編集長POINT
~老化も線維化も、「時間」ではなく「関係性の乱れ」だ~
細胞は単体で老いるのではない。
炎症という言語で会話しながら、互いに影響し合う。
老化の連鎖を断ち、線維化の伝達を止めること。
それは“若返り”ではなく、“再接続”の医療である。
美容医療が目指す「再生」とは、
細胞の孤立を防ぎ、正しい関係性を取り戻すこと。
老化の設計図を書き換える時代が、静かに始まっている。
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京大×東大×理研チームが老化細胞の伝播を生体内で実証(Nature Aging)
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マクロファージ由来IL-1Bが老化信号の媒介役
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CiRAチームが心臓線維化の治療標的FGFR1を特定(JACC誌)
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FGFR1阻害剤AZD4547がiPSオルガノイドとマウスで線維化を抑制
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老化・線維化は共に「炎症性シグナルによるネットワーク現象」
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「細胞の関係性を整える医療」が次世代アンチエイジングの核
まとめ
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老化細胞が周囲を老化させる現象を世界で初めて生体内実証
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IL-1Bシグナルが老化伝播のトリガーであることを確認
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DCM患者解析からFGFR1を心臓線維化の新ターゲットとして特定
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FGFR1阻害剤AZD4547が線維化を抑制し心機能を改善
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老化も線維化も「炎症を介した細胞間通信」によって拡大
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美容・再生医療の未来は「老化を伝えない構造設計」にある
参考文献
▼以下、参考内容/
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