長寿テック投資が拡大する一方、“寿命を延ばす効果は限定的”

米国では、断食、冷水療法、ペプチド注射、ウェアラブルによる生体監視など、いわゆる“バイオハック”が長寿手段として普及し、シリコンバレーには数十億ドル規模の資金が流入している。
しかし、ガーヴェン氏は「こうした高額介入が人類の平均寿命を押し上げる効果は小さい」と指摘する。

たとえ癌が完全に克服されたとしても、米国の平均寿命が伸びるのは2〜3年程度にとどまるとする研究が示されている。高齢期の死亡は多因子的で、単一疾患の克服では平均寿命の上昇はほとんど生じないためだ。

米国の寿命を押し下げているのは“老化”ではなく社会的要因

ガーヴェン氏は、米国が他の先進国と比べて寿命が4年以上短い理由を「老化」ではなく銃関連死、薬物過量死、慢性疾患、教育格差といった社会構造に求めている。

例えば、銃と薬物の死亡を削減するだけで、米国男性の寿命は約＋2年延びるとされる。また、1日1時間の歩行は寿命＋5年に相当する効果を持つという。

この事実は、“高額テクノロジー”より“生活行動の改善”が遥かに大きな影響を持つことを示している。

長寿産業の焦点は「quantity」から「quality」へ

ガーヴェン氏は“本当に解決すべきは寿命そのものではなく健康寿命（healthspan）だ”と主張する。米国では平均寿命と健康寿命の差が12年以上あり、世界でも最悪水準だ。
このギャップは、次世代テクノロジーではなく「予防医療」「生活習慣」「孤立解消」「AIを活用したケア支援」などの介入によってこそ縮まるとされる。

遠隔バイタル監視、AIホームケア、社会参加を促すデジタルコミュニティ、ロボット介護などは、その実現に寄与し得ると評価されている。

編集長POINT
「寿命を“延ばす”より、健康でいられる時間を“設計する”時代へ」

日本の美容医療・予防医療・再生医療市場でも、
“老化を治す”という言葉が過熱しやすい。

しかしガーヴェン氏の分析は、
「老化はテクノロジーではなく“環境・生活・社会構造”で決まる」
という事実を突きつけている。

美容医療が本当に価値を持つのは、
外見の若返り × 生活習慣 × 社会的つながり × 予防医療
を統合し、
“生きやすさの質（Quality of Living）”を提供できるかどうか。
これこそ、NEROが未来医療の中心に据えているテーマだ。

まとめ

• 高額な長寿テクノロジーは寿命への効果が限定的

• 真に寿命へ影響するのは生活習慣・社会要因

• 米国は平均寿命と健康寿命の差が12年以上

• 今後の長寿産業は「量」ではなく「質」への投資へ

• 美容医療も「健康寿命を延ばす医療」への転換が必須

NEROでは、世界の長寿科学・予防医療・美容医療の動向を継続的に報じ、
“医療の倫理とサステナビリティ”を問い続ける。