2025年11月27日、医師偏在の是正と医療DX推進を柱とする医療法改正案が衆議院で可決した。
都市部で医師と診療所が過密化する一方、地方では医療機能が崩れつつある状況を受け、国は都市部の新規開業を抑制し、地方偏在を是正する政策転換に踏み切った。
本改正は、美容医療を含む自由診療クリニックにも影響が及ぶことは避けられず、2025〜2027年にかけて開業環境は大きく変わる見通しだ。
INDEX
1|都市部“開業抑制”の本格導入──医師偏在是正へ政策転換
医療法改正案では、医師が多い地域での新規開業を抑制する措置が明確に盛り込まれた。
都市部の開業希望者に対し、都道府県が不足する救急・在宅医療などの機能提供を要請できる制度が創設され、要請に従わない医師には勧告・名称公表といった行政措置が検討されている。
これにより、これまで“事前届出のみ”で開業できていた都市部は、
実質的な審査制へ移行する段階に入った。
この対象にはもちろん、美容医療を中心とする自由診療クリニックも含まれる。
2|美容医療にも影響──自由診療は「規制の外」にいられない
美容外科・美容皮膚科を含む美容医療市場は都市部への過度集中が続き、
開業の急増 → 競争過熱 → 不適切広告・医療安全問題の増加
という構造が顕著になっていた。
今回の医療法改正により、美容医療は次の点で影響を受ける可能性が高い。
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外来医師多数区域では、自由診療も開業審査対象となる
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事前届出だけでなく、地域医療貢献計画など追加書類が求められる可能性
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新規参入が減るため、既存クリニックは競争緩和というメリットも
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一方で、行政監督の強化・コンプライアンス負荷が増す見込み
美容医療が「例外扱いされる時代」は終わり、
“医療の一部門”として公的枠組みに組み込まれるフェーズに入ったと言える。
3|DX推進と地方偏在対策──2025〜2027で構造が変わる
改正案は開業規制だけでなく、医療DXの推進も柱としている。
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電子カルテの標準化・義務化
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オンライン診療の普及促進
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医療データの連携基盤整備
特に美容医療では、電子カルテの義務化・診療情報の標準化は
運営コスト増 → 体制整備の遅れたクリニックが淘汰される可能性
を意味する。
一方、医療機関が減少し人口より速いスピードで“空白地帯”が増える地域では、
国が「重点医師偏在対策支援区域」を設定し、承継・開業を後押しする。
自由診療クリニックにとっても、
都市部一極集中から地方分散へのシフトは大きな戦略テーマとなる。
≪編集長POINT≫
都市の美容医療は“自由市場”から“計画市場”へ──参入障壁が上がる時代の生存戦略
今回の改正案は、単なる「医師偏在対策」ではない。
都市部の医療が過密化し、競争と広告が暴走し、
「医療の質」より「集客戦争」が優位を取ってしまった状態への政策的介入である。
美容医療もその例外ではなく、
これからの都市部は “好きな場所で、好きなタイミングで開業できる時代”が完全に終わる。
代わりに求められるのは:
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医療安全・説明同意・苦情対応など基盤力の強化
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行政連携を前提としたコンプライアンス運営
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DX活用による生産性向上
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都市部では差別化、地方では地域密着型の価値創造
美容医療は今、「市場の自由」から「制度の統治」へと軸足を移す過渡期にある。
まとめ
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医療法改正案が衆院可決、都市部の新規開業は実質的に抑制へ
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要請に従わなければ勧告・名称公表の措置も検討
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美容医療も例外ではなく、外来医師多数区域の規制対象に含まれる
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地方は支援区域として承継・開業の後押しが強化
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DX改革が加速し、電子カルテ・オンライン診療が標準化
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2025〜2027で美容医療の参入構造そのものが変わる
NEROでは、アジア各国における医療の制度変容と自由診療の構造分析を継続的に報じている。今後も「医療市場の倫理とサステナビリティ」をテーマに、日本がどこまで自由診療を拡張すべきか、その境界を問い続ける。
