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フェムケアの広がりの裏で、静かに浮上している違和感
今、業界内外で上がり始めているのは、
単なる賛否ではない。
「これは医療行為にあたらないのか」
「法的・医学的に本当に大丈夫なのか」
という、境界への問いだ。
問題の核心は、ケアそのものよりも、
誰が診断し、
誰が説明し、
誰が責任を持つのかが設計されていないまま広がっていること。
とくに膣は、
粘膜・神経・ホルモン環境が密接に関わる
極めて繊細な領域である。
異変が起きたとき、
それを“正常な反応”と判断できるのか。
それとも“治療が必要な状態”なのか。
その見極めには、医学的評価が不可欠だ。
フェムケアが広がる今こそ、
善悪ではなく、構造を整理する視点が求められている。

美容婦人科指導医・ 日本専門医機構認定 産婦人科専門医
宮本 亜希子 先生/AKIKO MIYAMOTO,M.D.
問題の本質①―非医療者が「膣内に直接介入する」ことのリスク
膣は“皮膚”ではない——粘膜領域という前提
膣は、粘膜・神経・常在菌環境から成る非常に繊細な領域だ。
体調やホルモン状態によって反応は大きく変わり、皮膚とは性質がまったく異なる。
宮本医師はこう指摘する。
「何か起きた時に、
誰が診断し、誰が説明し、誰が責任を持つのか。
その設計がないままケアが行われていること自体が、最大の問題です」
膣内への直接介入と法的リスク
「膣内に指を入れる行為は、原則として医師しかできません。
そこを曖昧にしたまま行われるケアは、
法的にも医学的にもリスクが高い」
問題は何か起きたときに、責任の所在が設計されていないことにある構造問題も浮き彫りになってきている。

問題の本質②—“効果がある/ない”以前に「膣圧」は本当に“評価できている”のか?
多くの人が気にしているのは、
「私は大丈夫なのか」「今すぐ治療が必要なのか」という点だろう。
近年、SNSや一部サロンで頻繁に使われる「膣圧」という言葉。
だが宮本医師は、その前提自体に強い違和感があると語る。
「そもそも“膣圧を診る”こと自体が簡単ではありません。
産婦人科医でも、訓練を受けていなければ正確に評価できない。
一般の方が感覚的に測れるものではありません。」
さらに重要なのは――
膣圧は......
✔ 血圧計のような確立された測定法はない
✔ 世界共通の正常値・平均値は存在しない
✔ 市販の膣圧計も、正確性が担保されているとは言い切れない
つまり、
“数値で測れている前提”が成立していないのが現状なのだ。
にもかかわらず現場では、
-
「膣圧が低い=危険」
-
「数値が低い=すぐ治療が必要」
といった言葉だけが先行しているのが危険と啓発している。
宮本医師はさらに冷静に補足しています。
「膣圧が低い方の中に、治療が必要なケースが多いのは事実です。
ただしそれは、きちんと診断が行われた上で初めて判断できることです」
重要なのは、数値そのものではなく、
「診断が成立しているかどうか」という視点だ。
数値だけでは判断できない
オックスフォードスケールの正しい位置づけ
では、医学的にまったく評価できないのか。
その問いに対し、宮本医師はこう説明する。
「オックスフォードスケール(Modified Oxford Scale, MOS)は、
骨盤底筋の収縮を評価するための臨床的指標のひとつです」
| 評価 | 状態 | 臨床的な意味合い |
|---|---|---|
| 0点 | 収縮なし | 筋収縮が確認できない |
| 1点 | わずかな動き(flicker) | 一瞬反応はあるが、持続できない |
| 2点 | 弱い収縮(weak) | 弱い締め付けはあるが、支持力としては不十分 |
| 3点 | 中等度の収縮(moderate) | 指に明確な収縮を感じ、日常生活では一定の支持力 |
| 4点 | しっかりした収縮(good) | 明確に押し返す力があり、機能的に良好 |
| 5点 | 非常に強い収縮(strong) | 強く持続的な収縮が可能 |
そして宮本医師は、使い方を誤らないことが重要だと強調する。
「このスケールは、他人と比べるためのものではありません。
あくまでその人自身の状態や変化を把握するための評価として使われるべき指標です。」
数値だけが独り歩きしてしまうと、
本来見るべき症状や背景、生活への影響が見えなくなる危険があるとも指摘した。
正しく判断できる医師も少ない。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
もう一つの懸念—医師発信が不安を煽るケースも
宮本医師が危惧しているのは、ここです。
産婦人科・女性泌尿器科の経験が十分でないまま
フェム領域に参入する医師も増えている。
そしてSNSでは、
・「膣に悪い食べ物は◯◯」
・「女医が絶対履かない下着」
といった、刺激的だが根拠の乏しい表現も拡散しています。
医師の肩書きがあることで、
不安が“医学的に正しそう”に見えてしまう。
これが今の構造だということも知っておいた方がいいかもしれません。
読者として、何を基準にすればいいのか?
あなたがフェムケアを検討するなら、
必ず確認したほうが良いかもしれません。
✔ 医療機関かどうか
✔ 診断があるかどうか
✔ 異変時の責任は誰が持つか明確か
✔ “平均”ではなく、自分の症状に基づいているか
不安を刺激する言葉ではなく、
診断 → 説明 → 選択
この順番になっているか。
それが判断するうえで手掛かりになるとNEROも取材を進めていくうちに
見えてきたこととなります。
フェムケア市場が拡大する今こそ、整理が必要
選択肢が増えるほど、
「どこに行けばいいのか分からない」状態は生まれやすくなる。
「最初から医療に来てくれれば、
初診だけで解決した可能性もあるケースは少なくありません」
不安が先に立つと、
分かりやすい言葉、強い表現に人は引き寄せられてしまう。
だからこそ今、
冷静な整理と判断材料の共有が必要だ。
編集長POINT—フェムテック2.0の盲点は「責任設計なき拡大」
フェムテックの社会的意義は大きいと筆者は感じる。
これまで語られにくかった悩みが言語化され、選択肢が可視化されたこと自体は、確かな前進と言える。
一方で市場が拡大するほど、
「ケアの良し悪し」より先に、
誰が診断し、誰が説明し、誰が責任を持つのかという
評価と責任の設計が置き去りにされやすくなる。
問題の本質は「膣サロン」という言葉ではない。
診断が成立していないまま、評価されたことになって流通する構造、
そして分かりやすい言葉だけが、医学的検証を飛び越えて広がっていく点にある。
宮本医師の問題提起は、規制強化を求めるものではない。
「今なら整理できる」「今だからこそ立ち止まれる」という、
予防的な視点からの警鐘として受け取るべきだろう。
NEROは、
美容医療・フェムケアを含む日本の健康医療が、
安心して選べる“健康資産”として社会に根づいていくことを重視している。
そのためにも本メディアは、本件についても単発で終わらせることなく、構造・制度・現場の声を丁寧に追いながら、
継続的に取材と検証を続けていく。
まとめ
フェムケアを選ぶこと自体が間違いなのではない。
問われているのは、その前にある“診断と説明の設計”である。
問題は善悪ではなく、診断と責任が設計されていない構造
「膣圧」は数値ではなく、診断が成立しているかが重要
評価できないものが、評価されたことになって流通している
今こそ冷静な整理と、正しい判断材料の共有が求められる
NEROは、
医療と社会のあいだに生まれる情報の歪みや判断の空白を可視化し、
より良い医療の未来へとつなぐためのメディアです。技術が進み、市場が拡大するほど、
「何を基準に選ぶのか」「誰が責任を持つのか」は見えにくくなります。だからこそNEROは、
患者、医師、そして医療に関わるすべての人が、
冷静に判断できる材料を持てる状態をつくることを使命としています。NEROはこれからも、
独立した医療ジャーナリズムを軸に、
透明で、信頼できる医療の選択肢が社会に共有される未来を報じ続けていきます。


