【Asia Global News】「“奇跡の美肌注射”で長期治療に」──ベトナムで相次ぐ合併症、その背景

📌 記事をざっくりまとめると…

  • 美容医療国際学会2026(IMCAS)で、ベトナム医師がスキンブースター関連213例の合併症を報告

  • 発生の約7割が医療資格を持たない美容施設

  • 国立皮膚科病院が公式に注意喚起

  • 20〜30代の若年層にも重症例

  • 問題は技術ではなく、管理体制と市場構造の空白

急成長市場の“もう一つの顔”

アジアの美容医療市場は、いま急拡大している。
スキンブースター注射、いわゆる“メソ注入”は、その象徴的存在だ。

短時間。
ダウンタイムが少ない。
価格も比較的手頃。

その手軽さが市場を押し上げてきた。

だが──
その拡張スピードが、安全管理を上回ったとき、何が起きるのか。

ベトナムではここ数年、
“美肌目的の注射”後に数か月単位の治療を要する症例が相次いでいる。

NERO編集部が
美容医療国際学会2026の発表、地元有力紙、国立皮膚科病院の公式声明を横断的に検証したところ、単発事故とは言い難い、構造的な増加傾向が浮かび上がった。

これは技術の善悪の話ではない。

問われているのは、
「誰が、どこで、何を使い、どう管理しているのか」

市場の裏側でいま揺れているのは、その基本設計だ。

IMCASが示した「213例」という重み

「スキンブースター注射で213例の合併症」──ベトナムで浮上した“非医療施設リスク”とは

画像引用:IMCAS World Congress 2026 公式プログラム(Mesotherapy Complications発表)

IMCAS(美容医療国際学会2026)で示されたのは、単なる症例の羅列ではない。

2022年から2025年に確認された美容関連合併症1,016例。
そのうち213例がマイクロインジェクション関連だったという事実だ。

3年間で2割超

数字だけを見れば限定的にも映る。
だが、発生場所の内訳を見た瞬間、景色は変わる。

73%が医療資格を持たない美容施設。
医療クリニックは4%にとどまる。

問われているのは「メソは危険か」という単純な問いではない。

注入という医療行為が、
どの管理領域で行われているのか。

問題は“技術”ではなく、
場の設計である。

合併症の質が示すもの

報告された症状は、

・持続性結節
・肉芽腫
・炎症反応
・瘢痕形成

一過性の赤みではない。

治療には、

・抗生剤の長期投与
・高用量ステロイド
・595nmロングパルスレーザー

が必要とされた。

ホーチミン市皮膚科病院の警鐘

「スキンブースター注射で213例の合併症」──ベトナムで浮上した“非医療施設リスク”とは

画像引用:ベトナム紙「Tuổi Trẻ」報道(皮膚科医による診察風景)

2026年1月。
ホーチミン市皮膚科病院が公式サイトで注意喚起を発表した。

これはメディアの過熱報道ではない。
医療機関自身の発信だ。

非医療資格施設(スパ施設)での注入後、
肉芽腫、感染、瘢痕、色素沈着が増加していると明言する。

象徴的なのは36歳女性の症例だ。

・不明薬剤
・医師ではない施術者
・数週間後に疼痛性結節

診断は炎症性肉芽腫。
治療は数か月に及び、瘢痕が残った。

ここで重要なのは何か

問題は、直ちに「製剤が悪い」と断定できるものではない。

むしろ浮かび上がるのは、

① 医療資格を持たない施術者による注入行為
② 製剤の流通経路と品質管理の不透明性

という二重のリスクである。

医療行為である以上、

  • 解剖学的理解

  • 無菌操作

  • 適応判断

  • 合併症時の即時対応

が前提となる。

これらが欠けた状態で行われれば、
同じ製剤であってもリスクは跳ね上がる。

さらに、報告では使用製剤の詳細が不明な例もある。

正規流通品なのか
並行輸入(詳細不明ルートからの製品)なのか
自家調合か

NEROが以前から報道しているケースもあるように
製剤トレーサビリティが曖昧であれば、
品質や安全性への疑義は避けられない。

市場が拡張するほど、
“奇跡”という言葉は売りやすくなる。
だが医療は奇跡ではなく、管理の積み重ねだ。
【Asia Global News】「“奇跡の美肌注射”で長期治療に」──ベトナムで相次ぐ合併症、その背景※画像引用:ベトナム民間皮膚科「Doctor Acnes」公式サイト(メソセラピー合併症解説記事)

北部ハノイでの若年重症例

北部ハノイでも同様の症例が報告された。
25歳男性が、医療資格を持たない施設で注入を受けた。

その後、

  • 肉芽腫反応

  • 亜急性炎症

治療は半年以上続いた。
皮膚は平坦化したが、色素沈着が残存し
さらに1〜2年の慎重な管理が必要だという。

報告では、20〜30代の受診増加も確認されている。
市場の拡張が、若年層にまで浸透していることを示す数字だ。

編集長POINT—日本市場は本当に無関係なのか

今回の論点は、メソセラピーの是非ではない。

焦点は、

  • 誰が

  • 何を

  • どの流通経路で

  • どの管理体制の下で

行っているかだ。

日本では医師以外の注入は原則違法とされている。

しかし、構造的リスクが存在しないと言い切れるのか。

  • 価格競争の過熱

  • 並行輸入の流通製剤

  • 管理経路の不透明化

  • SNSによる即効神話

  • 合併症情報の共有不足

「軽い施術」という言葉が、
医療行為である事実を希薄化させていないか。

自由診療市場の拡張は止まらない。

しかし重要なのは、
拡張の速度と安全設計の速度が一致しているかどうかだ。

NEROは常に、ここに自由市場の中での
美容医療の未来がかかっていると感じる。

まとめ|これは“ベトナムの問題”なのか

  • 3年間で213例。その73%が医療資格を持たない施設で発生。
  • 南部と北部、複数の主要病院が警鐘を鳴らしている。
  • 若年層にも拡大し、長期治療例も確認された。

ここで問われているのは、
技術の優劣ではない。

急成長する市場が、制度設計を置き去りにしていないかという問いだ。

アジアで起きているこの構造は、
他国にとっても他人事ではない。

日本の自由診療市場は、
この警鐘をどう受け止めるのか。

今、静かに問われている。

 Reference
IMCAS発表(Dr. Nguyen Duy Quan)
ホーチミン市皮膚科病院公式サイト(2026年1月12日)
ベトナム紙「Tuổi Trẻ」報道(2025年9月28日)
ベトナム国営紙「Nhân Dân」報道(2023年2月7日)
SKĐS医療番組(メソ合併症特集)

NERO 安達健一 

NEROでは、世界各国における医療の制度変容と自由診療の構造分析を継続的に報じている。今後も「医療市場の倫理とサステナビリティ」をテーマに、日本がどこまで自由診療を拡張すべきか、その境界を問い続ける。