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「テストステロンが低い」と言われる前に知りたい──LOH症候群は「1回の採血」で診断していいのか

「テストステロンが低い」と言われる前に知りたい──LOH症候群は「1回の採血」で診断していいのか
 欧州発・規制・ガイドライン
EAU 2026年版ガイドライン(2025版のlimited update)

「なんとなく疲れやすい」「朝起きるのがつらくなった」「トレーニングの成果が出にくい」──
こうした変化を感じて、男性美容クリニックや自由診療のメンズヘルス外来を
「テストステロン補充で改善できるかも」と訪れる男性が増えている。

EAU(欧州泌尿器科学会)が公開する2026年版「Sexual and Reproductive Health」ガイドラインは、
2025年版の限定的な更新(limited update)として、Male Hypogonadism章に重要な改訂が含まれている。
(2026年時点・EAU公式サイト確認。具体的な更新日付はEAU公式更新ログで別途確認推奨)
LOH症候群(男性性腺機能低下症)の診断に関して、
「何をどう測れば正しく診断できるか」を国際基準として明示した内容だ。

EAUガイドラインが示しているのは、「何nmol/Lか」より「どう測ったか」が診断の質を左右するということだ。
採血の時間・回数・補助指標という「測り方の厳密さ」を、国際基準がここまで明示している。

【NERO編集部の問題提起】
日本の男性美容クリニック・自由診療の現場で、これらの測定条件がどこまで徹底されているか──
NERO編集部としては注視したいと考えている。
これはEAUガイドラインが直接述べていることではなく、NEROの編集的見立てだ。

📋 この記事でわかること
  • LOH症候群(男性性腺機能低下症)とは何か──「男性更年期」との違い
  • EAU 2026年版ガイドラインが示す「正しい診断の条件」──12nmol/L・2回測定・朝空腹時採血の意味
  • SHBG(性ホルモン結合グロブリン)とは──なぜ補正が必要なのか
  • テストステロン補充療法(TRT)の適応・禁忌・前立腺がん後の扱い
  • 【クリニック選びのヒント】日本でLOH症候群の診断を受ける前に確認すること
  • 【業界・経営の視点】EAUガイドラインが日本の男性美容クリニックに問いかけること

LOH症候群とは何か──
「男性更年期」と呼ばれる状態の医学的な定義

LOH症候群(Late-Onset Hypogonadism・遅発性性腺機能低下症)は、男性性腺機能低下症(Male Hypogonadism)の一類型で、
成人男性でテストステロン(男性ホルモン)が低下することで起きる症候群だ。
「男性更年期」と通称されることも多い。

📖 LOH症候群(遅発性性腺機能低下症)の定義(EAU 2026)
「特定の症状・徴候が持続的に存在し、かつ生化学的なテストステロン低下の証拠が同時に認められる場合に診断される」
つまり「症状だけ」でも「数値だけ」でも診断はできない。
両方が揃って初めてLOH症候群と診断されるのがEAUガイドラインの立場だ。

LOH症候群に関連する主な症状は以下の通りだ(EAU 2026・Table 3.2)。

より特異的な症状(他の病気との区別がしやすい)
性欲の低下・勃起機能の低下・自然勃起(朝勃ち)の減少
活動量の低下・1km以上歩くのが困難・前かがみの動作が減少
気分の落ち込み・モチベーション低下・疲労感
より非特異的な症状(他の原因でも起こりうる)
性交頻度の減少・射精の遅延・ほてり・エネルギーの低下
集中力・記憶力の低下・睡眠障害

重要なのは、「これらの症状はLOH症候群以外でも起きうる」という点だ。
睡眠不足・過剰なストレス・肥満・うつ病でも同様の症状が出る。
だからこそ「症状だけで診断してはいけない」とEAUガイドラインは明示している。

EAU 2026年版ガイドラインの「正しい診断の条件」──
12nmol/L・2回測定・朝の空腹時採血が意味すること

EAU 2026年版ガイドラインがStrong(強い推奨)で示した診断条件は明確だ。
重要:2026年版は2025年版の「限定的な更新(limited update)」として、Hypogonadism章に重要な改訂が含まれるとされている。閾値そのものの劇的な変更というより、診断運用の厳密さが改めて整理された更新と読むのが現時点では適切だ。
NEROとして注目したいのは、国際ガイドラインがこれほど詳細に「測り方」を規定している事実そのものだ。

EAU 2026年版 LOH症候群診断の主要推奨(Strong推奨)
朝(7〜10時)・空腹時に採血する
食事の影響を避けるため、EAUは朝の空腹時採血を強く推奨している。テストステロンには日内変動があり、朝に最も高い傾向がある。
12nmol/L未満の場合、別の日に再検査して2回確認する
1回の測定が異常値でも、体調・ストレス・急性疾患で一時的に低下することがある。テストステロン療法を始める前に必ず2回以上の確認が必要だ。
診断の閾値は総テストステロン12nmol/L(約346ng/dL)
12nmol/Lを下回るときに治療開始を検討する基準値として、エビデンスに基づき設定されている。12nmol/Lを超える場合、テストステロン療法の有効性は示されていない。
測定法はLC-MS/MS(液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法)が最も正確
免疫測定法(一般的な血液検査で使われる方法)でも標準化されたものは相関が良いが、遊離テストステロンの直接測定には免疫測定法は不適切とされている。
SHBG(性ホルモン結合グロブリン)の測定と遊離テストステロンの計算が必要な場合がある
肥満・糖尿病・高齢・甲状腺疾患などでSHBGが変動すると、総テストステロン値だけでは実際のホルモン活性が正確に評価できない。遊離テストステロンの閾値は220pmol/L(6.4ng/dL)が参考値とされる。

SHBG(性ホルモン結合グロブリン)とは何か──
なぜ「総テストステロン」だけでは足りないのか

「テストステロン値が低い」と言われたとき、何の値かを確認することが重要だ。

📖 総テストステロン vs 遊離テストステロン vs SHBG

総テストステロン(Total Testosterone):
血中にあるテストステロン全体の量。ただし多くはSHBG(タンパク質)と結合しており、細胞に作用できない。

SHBG(性ホルモン結合グロブリン):
テストステロンと結合するタンパク質。SHBG量が多いと、テストステロンが結合されて「使えない状態」が増える。
肥満・糖尿病・高齢化によってSHBGが変動することがある。

遊離テストステロン(Free Testosterone):
SHBGと結合していない「体に実際に作用できるテストステロン」。全体の1〜2%。

→ 肥満・高齢の男性では、総テストステロン値は正常でも遊離テストステロンが低い場合がある。
この場合、SHBG測定と遊離テストステロンの計算が診断精度を上げる。

テストステロン補充療法(TRT)の適応と禁忌──
2026年版ガイドラインが確認・整理したこと

EAU 2026年版ガイドラインは、テストステロン補充療法(TRT)の適応・禁忌・注意事項を以下のように整理・確認している。
2026年版は2025年版の限定的な更新(limited update)として、Section 3(Hypogonadism)に有意な改訂が含まれるとされている。
閾値の劇的な変更というより「診断運用の厳密さが改めて整理された」と読むのが現時点では適切だ(旧版との逐条比較は別途確認推奨)。

✅ TRTの適応(症状あり+総テストステロン12nmol/L未満)
LOH症候群の症状が持続的に存在し、かつテストステロン値が12nmol/L未満であることが確認されている患者が対象。
2026年版の注目点:前立腺全摘除術後の低リスク患者で、再発の証拠がない場合のTRTは、Weak推奨として限定的に認められる記述がある(PSA 0.01ng/mL未満・1年以上の経過観察後)。
❌ TRTの絶対禁忌(使ってはいけない場合)
・局所進行または転移性の前立腺がん
・男性乳がん
・子どもを望んでいる男性(TRTは精子産生を抑制する)
・ヘマトクリット値(血液中の赤血球の割合)が54%以上
・コントロール不良の心不全
⚠️ TRTの相対的注意事項(慎重に判断が必要な場合)
・ベースラインのヘマトクリット値が48〜50%(TRT中の上昇リスク)
・IPSS(国際前立腺症状スコア)が19以上の重度の下部尿路症状
・静脈血栓塞栓症の家族歴
💡 テストステロン値が正常な男性へのTRTはNG
EAU 2026年版は明確に述べている:
「テストステロン値が正常な(eugonadal)男性にTRTを使ってはならない」(Strong推奨)
「積極的に子どもを望む男性にTRTを使ってはならない」(Strong推奨)
「高齢男性の認知・活力・身体能力改善のためにTRTを使ってはならない」(Strong推奨)
「体重減少・代謝改善(cardio-metabolic)を目的としてTRTを使ってはならない」(Strong推奨)

【クリニック選びのヒント】
男性美容クリニック・メンズヘルス外来を受診する前に確認すること

EAUガイドラインと照らし合わせたとき、
日本の一部の男性美容クリニック・自由診療内科での診断に
疑問が生じるケースがある。
カウンセリングや初診で確認しておきたいことをまとめた。

📌 受診前・カウンセリングで確認すべき5つの質問
「採血は朝(7〜10時)・空腹の状態で行いますか?」
食後・昼以降の採血では値が低く出る可能性がある。EAUは朝・空腹時採血をStrong推奨している
「採血は1回で診断しますか?それとも別の日に再度確認しますか?」
EAUは12nmol/L未満の場合、別日に再検査して2回確認することをStrong推奨している
「SHBGと遊離テストステロンも測定しますか?」
肥満・糖尿病・高齢の場合、総テストステロンだけでは実態が見えないことがある
「LHとFSHも測定して、どのタイプの低下症かを調べますか?」
原発性か続発性かによって治療方針が変わる。ホルモン検査の組み合わせが診断の質を左右する
「TRTの前に、生活習慣や基礎疾患の治療から始める選択肢はありますか?」
【NERO編集部提案】EAUガイドラインの精神に沿った質問として。直接の逐語確認は別途推奨

NERO編集長 安達健一
NERO編集長 安達健一

LOH症候群は実在する疾患だし、
適切な診断のもとでテストステロン補充療法が有効なケースも確かにある。

でも「なんとなく疲れる→採血1回→TRT提案」という流れに、
EAUガイドラインは「それは正しくない」と言っている。
この記事はその基準を伝えるためのものだ。


業界関係者に伝えたい。
EAUガイドラインが「採血の時間・回数・測定法」を明示するほど、
測定条件の厳格化を重視しているのは、
それだけ「診断の質のばらつき」が現実の問題として存在するからだ。

「LC-MS/MSが最も正確だが、標準化された免疫測定法でも相関は良い」という記述は、
現実的な医療現場を踏まえた表現だ。日本の自由診療でも参照すべき水準だと思う。

NERO編集長 安達健一
NERO編集長 安達健一

まとめ

  • EAU(欧州泌尿器科学会)の2026年版「Sexual and Reproductive Health」ガイドライン(Male Hypogonadism章)に、LOH症候群の診断基準が整理されている。同ガイドラインは2025年版の限定的な更新(limited update)で、Section 3(Hypogonadism)に有意な改訂を含む(出典:uroweb.org)。
  • 正しい診断の条件(Strong推奨):朝7〜10時・空腹時の採血。12nmol/L未満の場合は別日に再検査して2回以上確認してからTRT開始。閾値は12nmol/L(約346ng/dL)。EAUは食事の影響を避けるため朝の空腹時採血を強く推奨している。
  • 肥満・糖尿病・高齢ではSHBG(性ホルモン結合グロブリン)が変動し、総テストステロン値だけでは実態が見えない場合がある。SHBG測定と遊離テストステロン計算(閾値の目安:220pmol/L)がより広く推奨された。
  • 「テストステロン値が正常な男性」「子どもを望む男性」「疲れや気力低下だけが目的」の場合はTRT禁忌(Strong推奨)。前立腺全摘術後の低リスク患者への限定的TRTはWeak推奨として記述が追加された。

よくある質問

Q
テストステロン値は日本の健康診断では測れないのか?
一般的な健康診断の標準セットにはテストステロン検査は含まれていない。総テストステロン・SHBG・LH・FSHなどのホルモン検査は、泌尿器科・内科・一部の男性美容クリニックで自費または保険適用(泌尿器科など)で受けられる場合がある。EAUが推奨する「朝・空腹時・2回以上の測定」ができるかどうかを受診前に確認しておくと良い。
Q
テストステロン補充療法(TRT)は日本でも受けられるか?
日本でもTRTは泌尿器科・一部の内科・男性美容クリニックで受けられる。保険適用(医療機関での正式な診断が必要)と自由診療(保険外)がある。EAUガイドラインは国際的な参照基準だが、日本国内での適用は日本泌尿器科学会の基準・保険制度に基づく。自由診療で「手軽にテストステロン補充」を謳うクリニックを選ぶ場合は、この記事で示した診断条件を確認することを推奨する。
Q
「疲れやすい・やる気が出ない」はLOH症候群のサインか?
これらの症状はLOH症候群でも起きうるが、睡眠不足・うつ病・過労・甲状腺機能低下症・鉄欠乏性貧血などでも同様の症状が出る。EAUガイドラインは「症状だけでLOH症候群とは診断できない。血液検査との組み合わせが必要」と明示している。症状が気になる場合は、まず内科・泌尿器科などで総合的な検査を受けることが先決だ。

出典・参考文献

  1. EAU(欧州泌尿器科学会). "Sexual and Reproductive Health Guidelines 2026 – Chapter 3: Male Hypogonadism." 2026年8月10日更新. uroweb.org(一次情報・本記事の診断基準・推奨はすべてこのガイドラインに基づく)
安達健一

安達 健一

NERO DOCTOR/BEAUTY 編集長

日本・米国看護師(BSN)・MBA保有。世界の一次医療データをもとに監修。広告主からの影響を受けない独立した編集方針を貫いています。