学校法人 東京医科大学 医学総合研究所 分子細胞治療研究部門
落谷 孝広 教授
1988年に大阪大学医学部で博士号を取得後、1991年から米国に留学。1993年より長年にわたり国立がん研究センターで分子腫瘍学や分子細胞治療の研究に従事し、定年後は東京医科大学で研究を継続。エクソソームを介した細胞間伝達やがんの研究で世界をリードし、ノーベル財団主催の講演に招かれるなど、世界のトップ1%に入る研究者として高く評価されている。クラリベイト・アナリティクス社が発表した「高被引用論文著者」に2019年度から6年連続で選出されている。
“細胞レベルの若返り”を目指せるとして、美意識の高い芸能人やインフルエンサーがこぞって取り入れているエクソソーム注射やエクソソーム点滴、エクソソーム入り化粧品……。
“高濃度エクソソームで効果を実感!”などの魅惑的なキャッチコピーを掲げた広告が氾濫しています。しかし、その多くは科学的裏付けに乏しいという現実があるのです。
本記事は、エクソソームの世界的権威・落谷 孝広教授(東京医科大学)の見解のもと、“本物のエクソソーム”を解き明かします。
「効果的なエクソソーム治療を見極めるには?」「エクソソームって結局何に効くの?」そんな疑問を持つ方は、ぜひチェックしてください。
※本記事は医師の経験に基づく個人的見解であり、治療の有効性を保証するものではありません。
科学と市場の深い溝:その「エクソソーム」本物ですか?

再生医療や美容医療の世界で注目を集めるエクソソーム。しかしその裏側で、市場には科学的根拠に乏しい情報や製品が多く出回っていることをご存じでしょうか?
エクソソーム広告「粒子数〇〇億個」の嘘
現在の自由診療市場では、エクソソーム製剤を用いた治療において「粒子数〇〇億個を含有!」といった目を惹く広告が氾濫し、あたかも高い効果が約束されているかのように謳われています。
しかし広告で示されている「粒子数」は、エクソソーム製剤の元となる「幹細胞培養上清液*」に含まれるさまざまな成分の粒子数を示しているに過ぎません。目的とするエクソソームの他に、細胞の破片物やアミノ酸残渣やタンパク質なども含まれています。
これらの「粒子数」をあたかも「エクソソームの数」として提示することは、科学的に大きな誤りで消費者を誤解させる可能性があり、注意が必要です。
*幹細胞培養上清液:幹細胞を培養した際に分泌された成分を含む上澄み液
学会の警告「エクソソームの臨床的有効性は未評価」
エクソソーム研究の世界的第一人者、落谷 孝広(おちや たかひろ)氏が理事長を務める「日本細胞外小胞学会(JSEV)」は、エクソソームを用いた治療について「臨床的有効性は未評価である」と明言。
医薬品レベルでの厳格な品質管理と、効果や安全性をしっかりと見極めるための科学的根拠の確立が必要であると警鐘を鳴らしています。
衝撃の調査結果…市場に潜むエクソソームの「偽物」の実態
“粒子数〇〇億個”=エクソソーム数ではない!
誤解を招く広告表示の実態
こちらは複数のエクソソーム製品に含まれる粒子の数を示したグラフ。広告の「エクソソーム○○億個配合」といった表示は、実際には幹細胞培養液中の“粒子数”をカウントしたもの。
必ずしもエクソソームそのものの量を示すわけではありません。実際には細胞の破片やタンパク質などの残渣(ゴミ)が多く含まれるケースもあり、注意が必要です。
24品目中“本物のエクソソーム”はわずか!
CD9/CD63基準を満たした製品はごく一部

エクソソーム製品24品目について、エクソソームの表面に存在するタンパク質「CD9/CD63*」を測定。結果的として、基準を満たしたのは数品のみ。製品によってエクソソーム含有量に大きな差があることが科学的に浮き彫りとなりました。
| *CD9/CD63とは? エクソソームの表面に存在するタンパク質。CD9・CD63のマーカーの有無や量を調べることで、その製剤がエクソソームをどれだけ多く含んでいるかを判断する指標となる。 |
さらに2024年、NHK NEWSの特集に落谷 孝広教授(東京医科大学医学総合研究所/JSEV 理事長)がインタビュー出演し、国内外で “エクソソーム製品”と呼ばれ流通している製品の実態が放送されました。
番組では落谷教授らが、自由診療のクリニックなどで使用されている24品目のエクソソーム(細胞培養上清を含む)製品を調査した結果、エクソソームの識別に必須とされる「CD9」「CD63」が見受けられない製品が多く含まれていたと報告しています。
さらに測定された粒子のうち、60%は細胞の破片やタンパク質などの「残渣(残りカス)」でエクソソームではありませんでした。これは、患者が「打たなくてもよいもの」を高額な費用を払って投与されている可能性を示唆しています。
つまり、自由診療市場で「エクソソーム」と謳われている製品は、科学的裏付けが不十分であるケースが多く見受けられるのです。
では、安心してエクソソーム治療を選ぶために、どのようなことに気をつけると良いのでしょうか。
落谷教授は「エクソソーム製剤がまだ試験試薬であることを、患者側も理解しておく必要がある」とコメントしています。エクソソームの効果や安全性はいまだ研究段階にあり、すべてが明らかになっているわけではないのです。
そのため私たちが「本物」と「偽物」を見分けるのは難しく、冷静に情報を見極める姿勢が欠かせません。クリニックがどのような製剤を使用しているのかを確認し、調べることは安全性を守る第一歩となるでしょう。
コラム:【エクソソームの歴史】細胞の“ゴミ箱”から、新たな治療法開発における研究対象へ
エクソソームの発見は、40年以上前にさかのぼります。1980年代、研究チームが網状赤血球(未成熟の赤血球)の中に小胞を発見。1987年に「エクソソーム」と名付けられて以来、「細胞が不要な物質を細胞外に排出するためのゴミ箱」だと考えられてきました。
ところが2007年「エクソソーム中にマイクロRNAが存在し、別の細胞にマイクロRNAが受け渡されている」ことが判明。細胞間の情報伝達物質としての役割が、がんや糖尿病などの治療に応用できる可能性があるとして、爆発的に関心が高まりました。
2011年にはエクソソームの国際学会「ISEV」が発足。日本でも2014年に「日本細胞外小胞学会(JSEV)」が設立され、エクソソーム研究は急速に広がっていったのです。
エクソソームは効果なし?
“本物のエクソソーム”を知りたい方はこちらをチェック
※本記事は医師の経験に基づく個人的見解であり、治療の有効性を保証するものではありません。
本物の科学が拓くエクソソームの未来

自由診療市場では、誇大広告がはびこるエクソソーム。
一方で、エクソソームの真の働きを明らかにして臨床現場で役立てようと、多くの科学者たちが研究を進行中。エクソソーム技術は、新たな診断法や治療法を切り拓くカギと世界中から注目を集めています。
世界的に加速するエクソソーム研究
これまで根本的な治療法がなく完治が難しいとされてきた病気に対し、エクソソームを用いた技術は画期的な効果をもたらすことが期待されています。
海外では、アルツハイマー病治療を目的としたエクソソームを用いた点鼻薬投与による臨床試験*が進んでいるほか、エクソソームを用いた治療薬が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)治療で、米国食品医薬品局(FDA)による第三相試験薬としての承認を受けるなど、さまざまな医療への応用が進行中。
こうした世界的な流れのなか、日本でも落谷 孝広教授が中心となり、エクソソーム研究の臨床応用に向けた取り組みをリードしています。
世界が認める日本のエクソソーム研究
世界のエクソソーム研究をリードしているのが、JSEV理事長であり、2つの機関におけるエクソソーム研究者別ランキングで、世界1位に選ばれた落谷孝広教授です。
落谷教授は、日本で数台しか存在しない最先端の機器などを駆使し、厳格な品質管理や安全性の確認を行うことで、高品質なエクソソームの安定供給を目指しています。
中でも注目されているのが、植物由来のエクソソーム研究。
落谷教授が取り組むレッドドラゴンフルーツ由来のエクソソームには、紫外線による老化現象の抑制や、DNA修復を助けるといわれているmiRNAが多く含まれており、強力な抗酸化力をはじめ美白や抗老化、育毛などへの応用が期待されています。
さらに、植物そのものをエクソソームの原料とするのではなく、植物の幹細胞(カルス)を培養して得られるエクソソームを活用することで、季節や収穫時期、産地による品質のばらつきを抑え、衛生的で安定した供給が可能になります。
広大な農地や人手を必要としないため環境負荷を軽減でき、SDGsの観点からも注目されている点が特徴です。
落谷教授は、「将来的にはサプリメントなどの形で私たちの生活に取り入れられ、ヘルスケアや予防医学の発展につながる可能性がある」と語ります。
日本発のエクソソーム研究が、世界の医薬品開発(核酸医薬)や美容分野の未来を拓こうとしています。
Beyond Exosome—限界を超えて科学がめざす次のステージ
エクソソーム研究において“限界を知り、超えていくこと”に真の科学の意義があると語る落谷教授。
「ゲノム編集や遺伝子治療と同様に、エクソソームにも限界があります。しかし、その限界を追求し、超えることで新たな可能性が生まれるのです」という言葉に、未知の領域に挑み続ける研究者としての真の哲学が込められています。
2026年のAPSEV アジアパイフィック国際学会のテーマ「Beyond Exosome(ビヨンド エクソソーム)」は、まさにその哲学を体現するもの。エクソソームの先に広がる次世代の生命科学への可能性を示しています。
誤情報や商業利用が混在する今だからこそ、落谷教授は「正しい知識を社会に還元すること」が医師・研究者・メディアの責務であると強調しています。
次世代の植物由来エクソソーム研究に興味がある方はこちらをチェック
編集部が独占取材!落谷教授の研究室で見えたエクソソームの真実

NERO編集部は、エクソソームの最前線を探るべく、落谷孝広教授の研究室に潜入しました。
そこにあったのは、国内に数台しかない先端的な解析機器類や大量培養機械、そして厳格な品質管理体制を備えた研究環境。自由診療市場に流通する不透明な製品とは一線を画す「本物の科学」が息づく現場です。
ここでは落谷教授へのインタビューを通じて、エクソソームが拓く未来の医療と、美容や健康にどのような革命をもたらすのかを紐解いていきます。
―――エクソソームは注目度の高さゆえに、サイエンスとビジネスの狭間にある現状にあります。この点についてどのようにご覧になっていますか?
落谷教授:エクソソームは本来、病気の診断や治療に役立てられるものです。
しかし、商業的な利用が強調され誤った情報が広がり、正しい科学的知見が末端まで届きにくい状況になっています。研究者として看過できない状況ですね。
―――エクソソームについて、正しい情報を広めるためには、どのような発信の仕方が望ましいのでしょうか?
落谷教授:研究は、昨日まで正しいとされていたことが今日には変わることもあります。ですから、SNSのような流動的な媒体では正確性を保つのが難しい。
大切なのは「今わかっていること・まだわかっていないこと・これから解決すべき課題」を切り分けて、メディアが伝え続けることだと思います。
―――エクソソーム研究の最終的な目標は、美容にとどまらず、心身ともに健やかな生活を送ることを目指す「ロンジェビティ(Longevity)」にあるとおっしゃっていますね。
落谷教授:エクソソームは血管や脳神経、免疫、腸、皮膚といった体のあらゆる部分に関わっていく可能性があります。
たとえば血管を若く保つことで動脈硬化を防ぎ、脳の働きを守ることで認知症を初期段階でブロックできるかもしれない。さらに腸や免疫の調子を整えるほか、肌や髪の再生にも役立つと考えています。
―――「見た目の若々しさ」だけではなく「体の中から老化をコントロールして、元気に長く生きる」というロンジェビティのテーマに直結しているんですね。落谷教授は、国立がん研究センターで20年以上にわたり「がん」研究に携わってこられました。エクソソームは、がんに対してどんな可能性を秘めているのでしょうか?
落谷教授:長年の研究を通じて、標準治療にはどうしても限界があると感じています。
そこで注目しているのが、がんになる前に「予兆」をつかみ、早期に介入できる診断法としてのエクソソームの活用です。
診断から治療選択に至るまで一貫して担える可能性があり、超早期の段階でがんのシグナルを見つける事により、がん進行を防ぐ新しい医療基盤になると考えています。
―――自分や家族ががんになったとき、「治療費の負担はどれくらいになるのか」「正しい治療にたどり着けるのか」という不安は多くの人が抱きます。その点はどうお考えですか?
落谷教授:経済力によって受けられる医療に差が出てしまう現状は、非常に不公平です。
患者さんを経済的に追い詰めるような不正な医療ビジネスは排除すべきですし、知恵と技術、そして科学的な根拠に基づいた医療を、誰もが公平に受けられる仕組みを整えることが必要だと強く感じています。
―――健康寿命の延伸や、がん診断・治療の新たな可能性など、エクソソームはまだまだこれから広がっていく分野なんですね。
次世代の生活環境を大きく変えるかもしれない落谷教授のエクソソーム研究。NERO編集部はこれからも、正しい情報を届けていきます!
落谷教授とともに“真のサイエンス”を追求!
株式会社アズフレイヤとは
※本記事は医師の経験に基づく個人的見解であり、治療の有効性を保証するものではありません。
まとめ
医療や美容の未来を変える可能性を秘めているエクソソームは、近い将来医薬品へと開発が進んでいくそうです。2025年時点では、正式な医薬品へのレギュレーション等がまだ定められておらず、疾患に対しての効果や安全性が十分に確立されたわけではありません。
科学的根拠の積み重ねと適切な規制が求められている段階です。だからこそ広告の煽りに流されず、治療について冷静に判断する姿勢が求められています。
自分の健康と美を守るために、エクソソームの進化を正しく理解することが大切です。
落谷教授のように“本物の科学”を追求する研究者たちが切り拓くエクソソームの未来に期待を寄せながら、自らの選択に生かしていきましょう。



