1. 2025年8月|患者死亡で国内初の「緊急命令」
2025年8月、
東京都中央区の医療機関で行われた
自己脂肪由来間葉系幹細胞を用いた再生医療において、
50代女性患者が投与中に急変し死亡する事案が発生した。
1-1. 再生医療提供中に発生した死亡事案
本件は、
「慢性疼痛に対する自己脂肪由来間葉系幹細胞による治療」として
再生医療等提供計画が提出されていた治療だった。
患者は投与中に急変し、心停止に至り死亡が確認された。
1-2. 厚労省による緊急命令の発出
厚生労働省は本事案を重く受け止め、
という、
再生医療等安全性確保法に基づく国内初の緊急命令を発令した。
👉 当時の詳細な経緯は、NEROの速報記事で詳報している
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2. 立入検査で判明した「品質システムの機能不全」
緊急命令後、厚生労働省は
医療機関および細胞加工施設に対し立入検査を実施した。
2-1. 単発ミスではなく、構造的な法令違反
検査の結果、
コージンバイオ埼玉細胞加工センターでは
事故対応以前に、品質管理体制そのものが機能していなかったことが確認された。
確認された主な違反事項は以下の通り。
2-2. とくに問題視された「清浄度管理の逸脱」
とくに重く受け止められたのは、
製造環境で管理基準を超える菌が検出されていたにもかかわらず、
是正措置を講じないまま製造が継続されていた点である。
厚労省は、
この状況を再生医療等の安全性に対する重大な懸念と判断した。
3. 2026年1月|改善命令が示した行政判断の本質
2026年1月23日、
厚生労働省はこれらの検査結果を踏まえ、
改善命令(法48条2項)を正式に発出した。
3-1. 改善命令で求められた主な対応
改善命令の内容は、形式的な是正ではなく、
安全体制の再構築を求めるものだった。
具体的には、
が命じられている。
3-2. 行政が突きつけた問い
今回の命令が示したのは、
「安全性は制度として本当に機能していたのか」
という根本的な問いだ。
再生医療は、
技術の先端性ではなく、
製造・記録・逸脱対応という“裏側の運用”が信頼を左右する段階に入った。
医師・クリニック向け実務解説
※本文理解を深めるための補足
今回の改善命令は、
医療行為の是非ではなく、
細胞加工と品質管理の“運用実務”に焦点が当てられている。
医師・クリニック側で特に重要なのは、
-
細胞加工を外部委託していても、責任は切り離されない
-
「届出済み」「過去に問題なし」は安全保証にならない
-
逸脱が起きた際の判断主体・判断基準が不明確な体制は高リスク
-
患者説明時に
「どこで、どんな管理下で細胞が作られているか」を
説明できない医療は、今後選ばれなくなる
再生医療を扱うということは、
治療だけでなく製造背景まで説明責任を負う時代に入った。
一般読者向けQ&A
Q:再生医療って、やっぱり危ないの?
A:技術自体が危険というより、
「管理がずさんなまま提供されること」が危険。
Q:今回の死亡は治療のせい?
A:因果関係は現時点では確定していない。
ただし、細胞を作る過程の管理に重大な問題があったことは確認された。
Q:患者はどう見抜けばいい?
A:
-
細胞はどこで加工されているか
-
国の制度に基づく管理・届出があるか
-
リスクについてきちんと説明されているか
「最先端」「若返り」という言葉だけで判断しないことが重要だ。
編集長POINT― これは事故ではない。“見えなくなる構造”が生んだ問題
今回の一連の事案が突きつけたのは、
再生医療の安全性が、一般の人には極めて見えにくい構造にあるという現実だ。
死亡事案の発生後、
法人名や医療機関名が変更され、その後廃止届出が出されたことで、
患者や一般市民が過去の重大事案を把握しづらくなる状況も生じた。
安全性に問題を抱えた細胞加工施設や医療提供体制が、
名称や形を変えることで不可視化されるのであれば、
それは制度として看過できない。
再生医療は希望の技術である一方、
信頼が失われた瞬間に市場そのものが崩壊する分野でもある。
今回の改善命令は、
その分岐点に日本の再生医療が立っていることを示している。
まとめ

NEROでは、世界各国における医療の制度変容と自由診療の構造分析を継続的に報じている。今後も「医療市場の倫理とサステナビリティ」をテーマに、
日本がどこまで自由診療を拡張すべきか、その境界を問い続ける。