神奈川県横浜市のJR関内駅からほど近いエリアにある「KO CLINIC & Lab(コウ・クリニックアンドラボ)」院長の黄 聖琥(こう せいこ)先生にインタビュー。同院はカスタマイズ治療を専門とし、一人ひとりの肌の状態や年齢を考慮した最適な治療を提供しているのが特徴です。再現性のある画像診断に基づき客観的で正確な診断から多様な機器、内服や外用で皮膚全層にアプローチし、健やかで綺麗な肌をチーム医療でサポートします。今回は、カスタマイズ治療のルーツとなるお考えや美容医療業界に寄せる想いなどをお伺いしました。
INDEX
ドクターズプロフィール
KO CLINIC & Lab 院長
黄 聖琥(こう せいこ)先生
横浜市立大学医学部を卒業後、同大学の形成外科へ入局。「横浜市立大学附属 市民総合医療センター」にて形成外科助教を務め、2014年に「KO CLINIC for antiaging」を開院。2015年に現在のクリニックの前身「医療法人社団浜悠会 KO CLINIC」を開設され、2022年に「医療法人社団浜悠会 KO CLINIC & Lab」へ名称変更されました。チーム医療で個々の肌の状態に応じたコンビネーション治療を施し、QOL向上に貢献する“カスタマイズ治療”の第一人者として名を馳せ、「カスタマイズ治療研究会」の代表理事としても活躍中。
(経歴) 2002年 横浜市立大学医学部卒業 2004年 横浜市立大学形成外科入局、同大学付属病院・各関連病院勤務 2013年 横浜市立大学附属 市民総合医療センター 形成外科 助教 2014年 KO CLINIC for antiaging 開院 2015年 医療法人社団浜悠会 KO CLINIC 開設 2017年 カスタマイズ治療研究会設立 2022年 医療法人社団浜悠会 KO CLINIC & Labに名称変更 (所属学会) 日本形成外科学会 (JSPRS)専門医 日本レーザー医学会(JSLSM)評議員 日本美容皮膚科学会(JSAD) 日本美容外科学会(JSAPS) |
医師としての背景 ~形成外科を経て美容医療の道へ~
―――医師になられた当初は、どのような領域に興味を持たれていたのでしょうか?
私は2002年に横浜市立大学医学部を卒業し、2年間の臨床研修で形成外科に興味を持ち、2004年に横浜市立大学形成外科へ入局しました。
形成外科へのキッカケとなったのは、乳房再建手術でご高名な「富山大学附属病院」教授の佐武利彦先生です。先生は当時「横浜市立大学形成外科」におられ、月に1度、離島の病院に足を運んでおられて。2日ほどの滞在でマイクロサージャリーによる外傷の治療や皮膚の移植、レーザーによるご年配の方のシミとりなど、幅広く治療されており、それがとても印象的でした。
形成外科は結果が分かりやすく、傷が治る、失った部位の再建で機能が徐々に戻るなどQOLを明確に引き上げられる領域だと感じました。細かくこだわればこだわるほど技術を追求でき、縦にも横にも幅広く奥深さがあり、人にとても喜ばれる……そんな医療に大変興味を持ちましたね。
―――美容医療との出会いについてお聞かせください。いつ頃から美容医療に興味を持たれたのでしょうか?
形成外科は手術が専門で、例えば癌で切除した部位の再建や、やけどした部位の皮膚の移植といった治療がメインです。その一部に美容外科もあり、保険診療でQスイッチルビーレーザーを使って痣を取るような治療もありました。
私は、大学病院では形成外科で診療し、研究日に外勤として大学外で診療する際は医局OBで美容皮膚医療をされている先生のもとでレーザー機器に触れる機会を持ち、美容医療の世界を知るようになりました。
さらに学会やセミナーで、日本から世界へIPL治療の技術を発信された「ウェルクリニック」院長の根岸圭先生や、『シミの治療』という本を出版された「葛西形成外科」院長の葛西健一郎先生をはじめとした美容皮膚診療における著名な先生方の講演を聞き、どんどん興味を深めていった流れです。
カスタマイズ治療への情熱 ~皮膚全層を改善させる治療の定着に向けて~
―――黄先生は「カスタマイズ治療研究会」を立ち上げ、第一人者として業界を牽引されています。カスタマイズ治療はどのように生み出されたのでしょうか。
美容皮膚医療に関わる外勤や学会から学ぶ日々を送っていた頃に、ふと、葛西健一郎先生の本『シミの治療』で紹介されていた先生が目に留まりました。その先生がまさに、患者様に合った治療で肌を美しくするカスタマイズ治療をされていて、発表を聞きに行った際に目にした症例写真がまた大変見事で、驚いたことを覚えています。臨床の経過や結果を、VISIAのような画像診断機を使わず、精度の高い撮影で記録として残しておられ、非常に分かりやすく大変感銘を受けました。科学的にも視覚的にも再現性が高く、治療内容と結果が論理的に結びつくような内容でした。そこから何度か見学させていただき、「こういった美容皮膚医療ができたらいいな」と思ったのが、私のカスタマイズ治療のルーツの1つです。
また、ちょうどその頃、美容医療の第一人者である「クリニック宇津木流」院長の宇津木龍一先生がまだ「北里研究所病院」におられた時期にご縁があり、週1回の頻度で勉強に伺う機会をいただきました。宇津木先生は患者さんの肌に化粧品が良い影響を及ぼしているか客観的に診療し、単に足し算ではなく必要ないものは省くという肌の機能を活かす考え方をされていて、大変理に適っていると感じました。
さらに、先述した葛西先生の本からは、肝斑はレーザーで取るものではなく生活習慣を見直すことが非常に大事、摩擦による色素沈着の対処も大切である、と学んでいたことも影響しています。私のなかで美容皮膚医療に関する情報や知識を得る時期が重なり、それぞれの先生方から大きな感銘を受け、今のカスタマイズ治療を考案するに至りました。
―――カスタマイズ治療の必要性はどのような面にあるとお考えですか?
美容皮膚診療の発展は、デバイスを中心にメーカーが主導権を握っている節があります。しかし、人間の皮膚は個々によって全然違うわけで、1つの機械がすべてを万能に治せるわけではありません。我々医師はそのデバイスの特徴を知り、肌自体をもっと知り、画像で映し出される現実をきちんと受け止め、理解し、どのような治療が合うか考えていく必要があります。“丁寧に診断し、それに合う治療を考える”ことこそ本来の医療です。
しかし、ほかの診療科と異なり、美容だけがなぜか安易になりやすい側面があります。詳細な治療のために必要な診断が抜けがちなんです。すると、予定通りの結果を得られず、患者様との信頼関係が構築しにくくなる、振り返りがなく連続性もなくなる、といったことが起こります。
時間軸を持って肌を治療していくためにも、画像で確認しながらきちんと診断して計画を立て、患者様に合った医療を提供していくというカスタマイズ治療の流れは大切だと思います。
―――カスタマイズ治療において、難しさを感じることはありますか?
経験や知識に加え、画像から必要な情報を読み取り診断するためのノウハウがないと、診療を進めていくことは難しいと感じます。現在はだいぶ画像診断機器が普及し、以前よりも診断・治療・評価の流れを重視する考え方は進んできたと思いますが、インフラ的な意味ではまだまだかなと思いますね。
―――カスタマイズ治療の未来について、どのようなビジョンを描いておられますか?
美容医療業界は、どうしても効率やビジネス的な側面に気が向きがちです。単純に、話題の技術や新たな技術に対して“患者様が気軽に情報をキャッチして利用する”という市場がすでに成り立っているため、やろうと思えばビジネスとして成立します。画像の撮影を時間のロスととらえ、診断もせず、美容医療をセット売りして1日に何組も回すような診療も成り立つわけです。しかし、本当に臨床として“患者様を治す”という視点に立つと、それでは頭打ちになります。
いまの時代は、診断・治療・評価の流れにこだわりを持ち、患者様の肌を綺麗にするために画像やデバイスに関する仕組みを理解し、知識や技術を得ようとされる先生方も増えています。『カスタマイズ治療研究会』に入会されている先生においても、そういった面に注力し、進もうとされている方が増加傾向です。きちんと診断したうえで治療できる先生方が増えれば、患者様も良い結果を得られるため、この循環がうまくいくと良いなと思っております。
黄先生の強み ~診療で心掛けていること~
―――黄先生は日々どのような想いでカウンセリングや診療にあたっておられますか?
患者様の肌は一人ひとり異なります。教科書的に言えば、日焼けで赤くなる、茶色くなるといったタイプごとにアプローチを変えないと結果は出ませんと。また、アレルギーの有無や体質、年齢などによってその方が治療すべきターゲットも変わってきます。成長期であればニキビ、年齢を重ねていればシミやくすみ、といったようにです。その点はしっかり意識しています。
また、普段のスキンケアや習慣も大変重要です。患者様が実際にクリニックに足を運ぶのは、1~2ヶ月に1回程度でしょう。医師は1年365日のなかで、多くても10回ほどしか患者様の肌の状態を見られないわけです。そのため、クリニックに来られない時にどう肌のケアをしていくか、どんな内服を活用するか、日々の暮らしで肌とどう向き合うかが、来院時の治療以上に美肌への鍵を握ります。使用する化粧品や塗り方、洗顔の方法、紫外線からの守り方、そういったポイントを意識していただくことが大切です。
カスタマイズ治療で患者様のカウンセリングをする際は「患者様ご自身による日々のスキンケアや内服の習慣が治療の成果に大きく関わり、ここでの治療だけですべてが治るわけではありません」といった内容を必ずお伝えしています。
―――カウンセリングで患者様から治療内容の理解を得るために工夫されていることがあれば教えてください。
カスタマイズの診療自体が患者様との信頼関係構築につながっていると思います。目的なく言葉だけで治療法を伝え、結果の説明もせずにいると、患者様は離れていきます。きちんと診断し、なぜその治療が必要か、治療により肌の未来はどうなるかを具体的に示し、実際に治療した結果を説明する。ステップをきちんと踏んでいくことが、信頼・継続のためにも重要です。難しいと感じる面こそ大切にしています。
また、これらは医師一人で対応するのではなく、看護師やスタッフとチームで連携することが重要です。実際にデバイスを扱う看護師においては、治療に応じた技術と知識が欠かせません。私のクリニックでは、診断時も同席してもらうようにしています。担当する看護師は、医師の責任・指示のもと医療機器を扱い医療行為をするため、診断からなぜそういった治療をするのか、なぜその機器が必要かといった意味も理解しておくことが大事です。意図の共有や理解はある意味難しいかもしれませんが、それを達成して実現することに大きな意義を感じています。
―――チームで治療に当たるという先生のお考えは、どこから確立されていったのでしょうか?
診断と結果にこだわる医療の形態は、美容皮膚診療を学び始めた頃から心にありました。診療を始めた当初から看護師と連携してきましたが、私自身も経験が浅く、患者様にマイナスを作ったこともあります。今では当たり前のようにお話していますが、手探り状態でさまざまな壁にも直面しました。ただ、苦しい思いもしながら知識やノウハウを得て、技術を習得し積み上げてきたものがあるからこそ、自信を持てている部分もあります。
“経験を積む”のは、実は非常にハードルが高いことです。私が『カスタマイズ治療研究会』を立ち上げた理由の1つは、これに関連しています。これから美容皮膚医療を目指す先生方が効率良く患者様のために凝集した形で経験を積める、共有できるようにすること。これが目標です。もちろん、実際に医師自身が患者様を見て臨床経験を積むことも絶対に必要ですが、多くの経験と知識をできるだけ共有し、正確に理解し、自信を持つキッカケとすることも大切ではないでしょうか。
―――カスタマイズ治療において大切にしていることはなんですか?
美容医療というジャンルは、答えも、答えに至るまでの方法も多様で正解・不正解がありません。それが唯一、ほかの医療と少し違う点です。そのなかで、私たちが大事にしているのは、“健康で綺麗な肌を作る”ことです。このゴールに至るために、カスタマイズ治療においてはさまざまなデバイスを使います。人によって条件がまったく異なるため、多様な選択肢がある方が、結果が見込めるためです。
私個人としては、肌に余計なものは使わない、引き算の思考を持っています。スキンケアは本当に必要なものに絞り、必要ないものは取り入れない方が肌にとってもシンプルで、健全に保てるという考えのもと診療しています。ただ、それも数ある考え方の1つです。
昨今は非常に多くの化粧品が開発されており、肌に負担なく使えるアイテムもあるでしょう。それぞれの方法があり、どれが一番・正解ではありません。しかし、示す方法に対してきちんと根拠と再現性を持って患者様の診療にあたることは、大変重要です。いかに信頼を得られる結果を届けられるか。そこに重きを置いています。
医療的な部位として肌はすごく分かりやすいと思いますが、正解は患者様の主観によるもので、定められているわけではありません。私のクリニックでは、患者様から「不自然さがなく、自然に綺麗にいられるのがすごく嬉しい」と言われるケースが多いですが、その方にとっての“自然”がどういう状態なのかは手探りです。ただ、その過程においては、感覚的に治療するのではなく3Dの画像診断機を使い、「どの部位がどう変化したときに良い結果を得られる」「患者様から満足されるのはこんなとき」と、常に診断をベースに評価しています。一定の基準において満足度を得られるような、医療を提供しているのが特徴です。
美容医療業界の今後の動向と期待 ~知識や技術をシェアして高め合っていきたい~
―――美容医療業界やカスタマイズ治療の今後について、どのように考えておられますか?
私自身の経験を振り返って述べるなら、肌の治療法は患者様や状況に応じて都度変わるものです。検証が大切で、日々の治療も、常に診断・治療・結果を客観的に評価していく必要があるわけです。
美容医療業界は、新しい治療法や考え方がどんどん登場するため、最新ばかりを追うと、何が治療として本質的に効いているのか見えにくくなります。自分自身が担当している臨床を整理し、振り返り、経験もふまえながら次の治療に活かし引き上げていくといった意識を持って進めると、経験や知識のステップアップにつながるのではないでしょうか。
―――今後の美容医療業界の発展のために、どのようなことが必要だと思いますか?
医療業界では、研究そのものや論文などで、技術をシェアするのが基本です。医療は、企業の特許やパテントのように自分のためにビジネスとして展開する性質のものではなく、人間の健康や幸福のためにあります。私は、医療技術はどちらかというとシェアしさらに更新して発展させていくものと思っております。私自身、これまで多くの先輩方、先生方から知識や技術を得て、患者様のために経験を積み上げてきました。美容に限らず、医療とはそうあるべきではないでしょうか。
『カスタマイズ治療研究会』では、いろんな先生方と知識や技術、情報をシェアしていくと、こちらから与えるばかりでなく先生方からも恩恵が返ってきて、さらに勉強になります。研究会を経て発展した知識からフィードバックを得られ、さらに高め合い、医師たちの知識・技術が向上するだけでなく、治療を受ける患者様もさらに幸せにできる。そういった好循環を作っていきたいですね。
―――今後の美容医療業界の発展のために、黄先生が実践されていることや心掛けていることがあればお聞かせください。
私は、主治医になるからには、基本的には私自身で患者様を見続けるスタンスをとっています。美容皮膚医療は、時間をかけることできちんと結果が出るため、時間軸が大切です。一人ひとりを丁寧に見て治療することで、患者様に幸せを提供でき、さまざまな医療データや技術も得られると考えています。ほかの医療と同じですね。ひとりの患者様をまとまった期間きちんと担当し、責任を持って結果を出す。時間軸を意識し、一人ひとりを丁寧に見ると、もっと業界全体が変わってくるんじゃないかなと思います。
黄先生から読者へ向けて伝えたいメッセージ ~若手医師や患者様へ~
―――美容医療業界で今後活躍が期待される若手医師へぜひメッセージをお願いします。
現在に至るまでにさまざまな出会いや感動があり、影響を受け、今の自分があります。一貫して言えるのは、患者様を見て、医療的なアプローチをして結果を出し、患者様を幸せにしてほしいということ。これにより、自分自身も幸せを得られます。着実に、一人ひとりの患者様に対してきちんと結果を出す。これを大事にすれば、技術や知識は自然に積み上がっていくと思います。
―――この記事をご覧になっている読者や美容医療に興味を抱いている方々へ向けてメッセージをお願いします。
現代において、美容医療にはさまざまな選択肢があります。クリニックごとにスタイルも違えば、治療法も異なります。患者様においては、そこからどう自分に合う場所を見つけ出すかがポイントでしょう。
私が重要だと思うのは、しっかりと話をして、治療する医師側と治療される患者様側の意思の疎通、相互理解を図ることですね。医療者側から言うとインフォームドコンセントと言います。自分自身が受ける美容医療がどういうものか理解し、先生がどういうお考えでその治療を薦めるのか、納得したうえで治療に進むことが非常に大事かなと思います。