自由が丘アカデミー 代表理事/福岡大学 名誉教授 大慈弥 裕之先生へインタビュー。眼瞼形成術を得意とし、美しさと機能面のどちらも重視した精度の高い施術を提供する大慈弥先生。福岡大学の名誉教授で、美容医療ガイドラインの策定や若手医師の育成など業界の未来を見据えた改革を行う美容医療業界を牽引する存在としても知られています。今回は大慈弥先生に、医師となった背景や得意とする眼瞼形成術へのこだわり、美容医療業界の課題や展望などを伺いました。読者へのメッセージもいただきましたので、最後までご覧ください。
INDEX
ドクターズプロフィール
1980年に福岡大学医学部を卒業。北里大学病院で形成外科医としての修練を積み、福岡大学教授として数多くの臨床研究にも携わる。また、日本美容外科学会(JSAPS)理事長として、ガイドライン策定など美容医療の未来を見据えた改革に取り組むなど業界全体の発展に尽力。2020年からは「自由が丘クリニック」の眼瞼下垂(がんけんかすい)外来主任へ。得意とするのは眼瞼形成術。患者さんのQOLと気持ちの向上を目指し、見た目も機能性も叶える美容医療を提供する。NHK出演、著書執筆など、美容医療が前向きな医療となるよう業界の地位向上に大きく貢献している。
(経歴) 1980年 福岡大学 医学部卒業、防衛医科大学校 皮膚科 入局 1981年 北里大学病院 形成外科 入局 1996年 福岡大学病院 形成外科 助教授 1999年 ボストンこども病院、 Brigham & Women’s hospital 留学 2007年 福岡大学医学部 形成外科学 主任教授 2015年 学校法人福岡大学 副学長 2020年 自由が丘クリニック 教授外来 2021年 北里大学 形成外科・美容外科 客員教授 2024年 福岡大学名誉教授 (所属学会等) 日本形成外科学会 名誉会員・専門医・指導医 日本美容外科学会(JSAPS)名誉会員・前理事長・専門医 日本抗加齢医学会 前理事 |
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医師としての背景 ~患者さんのQOLと気持ちの向上に寄与できる美容医療に喜びを感じた~
―――まずは、大慈弥先生が形成外科医になった理由を教えてください。
私が形成外科を選んだのは、見た目や形態を整えることで患者さんのQOL*(生活の質)と気持ちを向上させられる点に関心を持ったからです。とくに「神奈川県立こども医療センター」の形成外科で、子どもの先天異常の治療に携わった経験が大きな転機となりました。術後ご両親が歓喜される姿に触れ、自分の仕事が直接的に患者さんや家族の幸せにつながることを強く感じたんです。当時の日本では形成外科がまだ広く認知されておらず、教育や診療の環境が整っていなかったこともあり、この分野で地域社会に寄与したいという想いもありました。
*QOL…Quality of life(クオリティ・オブ・ライフ)の略語。生活する上で身体などを含めた質。
―――大学病院で形成外科医としてのキャリアを積まれた先生が美容医療の道に進んだのには何か転機があったのでしょうか?
そもそも形成外科と美容外科は、身体の形である見た目を治療することを共通とする同じ領域の診療科なんです。世界的にも形成外科の中には美容外科があり、医師がやることに大きな境はありません。私の場合は、父が美容整形クリニックを開業しており、学生時代から美容外科にも触れていました。しかし、北里大学病院での研修をとおして、『美容外科も形成外科の1つ』という考えが根付きました。
また私は、抗加齢医学についても興味を持っていました。とくに日本人は、加齢によるまぶたの変化が顕著。これが見た目だけでなく生活の質にも影響を及ぼします。まさに“代表的な形成外科・美容外科の抗加齢医学”ともいえる眼瞼形成術に惹かれ、人生の後半はこの領域にのめり込んでいっている状況ですね。
眼瞼形成手術への情熱とこだわり ~見た目改善と機能改善のバランスを重要視~
―――眼瞼下垂手術では術後トラブルや不満足結果が多いと聞きます。大慈弥先生が眼瞼手術で重視する点は?
眼瞼手術(とくに上まぶた)の本質は、見た目の改善に加え、患者さんのQOLを改善することにあります。私は眼瞼下垂外来にいますが、眼瞼形成手術で見た目が大きく変わるのはもちろん、視野の制限、頭痛・肩凝りの軽減など、生活の質の向上に寄与できることが大きなやりがいとなっています。
まぶたの手術をすると、目がぱっちりして額のシワが取れ、患者さんの見た目が10歳~20歳くらい若返り魅力的なお顔になる方が少なくありません。術後に若返った自分の顔を見て自信を取り戻し、表情が明るくなる瞬間に立ち会えることは、医師としての大きな喜びですね。眼瞼手術は、美容面と機能面を同時に追求できる特別な分野とも言え、そこにおもしろさを感じています。
―――先生が得意としている眼瞼下垂手術へのこだわりは?
日本では保険診療でも眼瞼下垂手術はできますので、形成外科や眼科で眼瞼形成術を保険診療で行っているケースは非常に多いんです。しかし、保険診療で眼瞼下垂手術を行う目的は、本来、視野の改善だけです。実際は、見た目を気にされる患者さんも多いため、見た目と機能性のどちらにも満足できないと、良い治療とは言えないですよね。ですから私は、美容外科の手術では美容的改善と機能改善の両方を目指すことが重要であると考えています。
ガイドライン策定の背景 ~美容医療を安全で安心な医療にしていきたい~
―――美容医療診療指針ガイドラインを作られたきっかけは?
美容医療全般に関して言うと、残念ながら、いまだに日本では「美容は医療ではない」と美容医療に懐疑的な考えを持つ医師も少なくないのが現状です。
形成外科医として診療する中で、美容整形後の合併症を診たケースも少なくありませんでした。とくに注入治療等の場合、5年、10年経って合併症が出てくることもあり、行き場のない患者さんもたくさん見てきました。この経験が、ガイドラインを作ろうと思ったきっかけです。
諸外国と異なり日本では未承認の医薬品や機器が医師の裁量で使用されるケースが多く、患者さんの安全が十分に守られていないことが大きな問題です。しかし行政と学会のまとまった行動がとれず、なかなか問題解決が進まなかった…。令和元年に厚生労働省の研究事業がはじまり、その中で学会が合同で美容医療診療指針ガイドラインを作ったのです。これは業界的にもインパクトがあったようで、そこからだいぶ雰囲気が変わってきました。
―――このガイドライン策定が美容医療業界全体に与えた影響についてどのように感じていますか?
美容医療業界には美容外科学会や美容皮膚科学会をはじめ5つの学術団体がありますが、ガイドラインの策定により各団体の治療の方針が統一されました。これは美容医療の安全性と有効性を確保するための一助となり、業界に与えた影響は非常に大きかったと感じています。美容医療を前向きな医療にしていくためにも、引き続き業界全体として取り組んでゆく必要があります。
美容医療への課題と期待 ~医師の質・倫理観の向上のための取り組みを整備すべき~
―――その他に挙げられる美容医療業界の課題とは?
美容医療を提供する医師の質の向上ですね。専門医の公的な認定を目指すべきです。各学会に所属している学会員に対し、医療倫理や医療安全も含めて定期的に教育するなど専門医制度の整備を整えていかないと発展は難しいと感じています。
また、美容医療業界ではSNSや広告を通じた情報発信が盛んに行われており、誇張された情報が患者さんの誤解や不適切な治療につながるという懸念もあります。自由診療における情報の質も課題の1つですね。
―――美容医療業界ではいわゆる直美*(ちょくび)も問題視されていますが、先生はどのようにお考えですか?
直美は、患者さんと業界、そして本人にとっても不幸なことだと思っています。「自由が丘クリニック」にも他院修正の患者さんが来られることがありますが、明らかに経験不足の医師による手術だと分かるケースも多々あります。手術する必要のない10代~20代の若い方へまぶたのたるみ取りをしても、痕だけが残ってしまうんです。つまり適応もわかっておらず、基本的な手技の習得や術後管理もできていないということ。しかしその患者さんは一生傷を抱えて生きていかないといけない訳です。それはとても悲しいことですよね。
直美が急増する背景には、現在の保健医療制度の問題もあるように思います。直美の医師は1年目から、大学病院で専門医を目指す医師の何倍もの年収を手にできます。ただ、目先の損得勘定で直美に行っても多くは長続きしません。やはり医師は患者さんに医学的に正しい医療を提供できていないと、続かないんです。もちろん経験が浅くても美容医療で喜んでもらうことはできますが、あくまで医療ですので、一定の割合で合併症等のリスクはあります。うまくいったときは何の問題もないかもしれませんが、トラブルが起きたときに適切な対応ができないことが大きな問題です。そのために美容外科の医師は、形成外科の基礎を学んでいるのです。
*直美(ちょくび)…「直接美容医療」の略語で、研修医修了後専門医の資格を取得することなしに自由診療である美容医療に進む医師を指す言葉
―――直美の若手医師に対するフォローなどは美容医療業界で行われているのでしょうか。
私のところにも「やっぱりもう一度基礎から勉強したい」と言ってくる医師がたくさん来ます。いろいろな大学に彼らの受け入れをお願いしたりもしますが、残念ながら一部を除いて受け入れ先はないのが現状です。彼らも小さいときからコツコツ真面目に勉強して、努力してやっと医者になったのに、直美を選んで現実を見て…。そういったときに後戻りして学び直しできれば、その経験も活かされる訳ですが、それができない状況は本人にとっても非常に残念なことだと思っています。
私がいた大学医局では、市中の美容クリニックから戻ってきて、「保険診療ってこんなに楽しいんだ!」「患者さんがこんなに喜んでくれるんだ!」とまるで人が変わったように形成外科研修に専念するようになった医師もいました。米国や諸外国のように形成外科専門医が主体となって美容外科を提供する流れを作るべきだと思います。
―――貴重なご意見ありがとうございました。最後に、今後日本の美容医療が発展していくためにはどのようなことが必要だと思われますか?
日本の美容医療は繊細で緻密。そういう職人気質なところは日本人の特性かなと感じています。これは海外でも高く評価されていますね。行政や業界が一丸となって安全で安心な美容医療を提供する体制を整備するとともに、きめ細かさや心配りなど、日本人ならではの特性が美容医療に活かされることで、日本独自の美容医療が発展していくことを期待しています。
大慈弥先生からのメッセージ ~患者さんの喜びが原動力。前向きな美容医療に~
―――若手医師へのメッセージをお願いします。
私が形成外科医として長く楽しく仕事ができているのは、患者さんと医療チームの仲間が喜んでくれるから。ここがやっぱり一番大事です。みなさんもそういう気持ちで医師になったのだと思いますが、目先の待遇や給与だけにとらわれると、見誤ってしまうこともあるでしょう。ぜひ先輩医師にも相談しながら、自分のゴールを掲げたうえで今後の医師人生の設計をしてもらいたいと思います。
―――最後に、読者へのメッセージもお願いします。
美容医療は、気持ちを前向きにし人生を豊かにする力があります。ただし、あくまで医療行為であるため、リスクと限界をともなうことを理解し、自分に合った治療を選ぶことが大切です。信頼できる医師やクリニックを選び、疑問や不安があれば遠慮なく相談してください。美容医療を通じて、みなさまが前向きになることを願っています。