第1章:「直美」現象が医療界にもたらしたインパクト
厚生労働省の統計によれば、2008年と比べ2022年の美容外科医の数は約3.2倍にまで増加。この増加を牽引しているのが、研修医終了直後に美容医療へ進む医師たち、いわゆる“直美”だ。
二重整形、ヒアルロン酸注入、ボトックス、豊胸術といった自費診療を行う美容外科は、都市部を中心に拡大。小学生でも施術を受ける時代に、医師側の供給も急増している構図がある。

第2章:若手医師の選択──なぜ美容医療を選ぶのか?
ある現役美容外科医は、その理由をこう語る。
「保険診療では報酬が限られ、36時間連続勤務なども当たり前。でも、美容なら時間も収入もコントロールしやすい」
保険診療では、診療報酬が国によって定められているため、高収入を得ることは難しい。一方、自由診療は価格設定の自由度が高く、成果報酬型の給与体系も魅力となっている。
また、美容医療の本質的な魅力として語られるのが、
「病を治すのではなく、ゼロからプラスへ。“より良く生きる”をサポートできること」
という、内科・外科とは異なる“創造型の医療”としての価値である。

第3章:美容医療の拡大と“偏在”問題
だがこの“直美”現象は、別の問題を浮き彫りにする。
外科・救急・小児・産科など、過酷で人手不足が深刻な診療科への医師供給がさらに困難になるという懸念だ。
とくに地域医療においては、都市部に美容クリニックが集中する一方で、地方では「医師が来ない」という声が続出。医師偏在は医療インフラの崩壊を招きかねない。
また、経験の浅い医師が麻酔下で施術を行うなど、安全性への懸念や死亡事例の発生も報告されており、制度面での対策が急務となっている。

第4章:保険診療を見捨てないために必要なこと
若手医師に美容医療が魅力的に映るのは、それだけ保険診療の現場が疲弊していることの裏返しでもある。
「保険診療を魅力的にするには、報酬の見直しや働き方改革が必要。美容医療の前に5年間の保険診療経験を義務化すべきだという声もある」と語る医師もいる。
とはいえ、それだけでは根本的な解決にはならない。保険診療を選びたくなる環境と待遇の構築、そして「社会を支える医療としての意義」を再定義する必要がある。
🧠 編集長の視点
~「“ゼロをプラスに”の誘惑──医療の価値はどこへ向かうのか」~
若手医師が美容に流れるのは、逃げではない。むしろ、保険診療の限界と構造のひずみが露わになっている証左だ。“直美”を責める前に、なぜそうなったのかを問わねばならない。それは、医療制度と社会の責任である。
「医療の自由と公正の間で、次の世代の医師に何を残せるか?」──それが、いま問われている。
まとめ
- 美容外科医が15年で3.2倍に増加
- 若手医師が研修直後に美容医療へ進む“直美”が急増中
- 自由診療の高収入・労働環境が大きな魅力に
- 保険診療の過酷な勤務実態と待遇のギャップ
- 医師の偏在・医療の質の低下を招くリスク
- 医療制度改革と保険診療の魅力再構築が急務