ウェルエイジングクリニック南青山 理事長 青木 晃先生へインタビュー。美容内科の創始者であり、アンチエイジング医学の啓蒙家としても名高い「ウェルエイジングクリニック南青山」理事長 青木晃先生にインタビュー。専門分野は糖尿病や肥満症などの生活習慣病で、美容内科医として美容を切り口に生活習慣病の予防医療を行っています。今回は、アンチエイジング医学との出会いや、美容内科の使命などについてお話を伺いました。先生ご自身が行っている健康寿命を延伸するための方法も伺いましたので、ぜひご覧ください。
INDEX
ドクターズプロフィール
ウェルエイジングクリニック南青山 理事長
青木 晃(あおき あきら)先生
代謝・内分泌内科医として糖尿病や肥満症の臨床・研究に従事してきた美容内科医。日本初のアンチエイジングクリニックを開院し、日本抗加齢医学会の役員としてもアンチエイジングの正しい啓蒙活動に携わっています。自らも日常生活の中でアンチエイジングライフを実践し、実年齢は60代前半(※インタビュー当時)ながら体内年齢は40代半ばをキープしています。
(経歴) 1988年 防衛医科大学医学部 卒業、防衛医大附属病院および自衛隊中央病院 勤務 2004年 恵比寿アンチエイジングクリニック 院長就任 2007年 順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座 准教授就任(2011年まで) 2008年 横浜クリニック 院長就任 2019年 銀座よしえクリニック都立大院 院長就任 2023年 医療法人 晃和会 ウェルエイジングクリニック南青山 理事長就任 (役職・資格) 日本美容内科学会理事長 日本健康医療学会常任理事 日本ウェルエイジング検定協会理事 日本抗加齢医学会評議員 脳心血管抗加齢研究会評議員 国際抗老化再生医療学会評議員 日本抗加齢医学会専門医 日本健康医療学会認定医 |
医師としての背景 ~糖尿病専門の内科医からアンチエイジング医学の美容内科医へ~
―――先生が医師になったきっかけは何でしょうか?
僕は、祖父が内科医、父が整形外科医という医師家系の4代目です。育った環境と教育熱心な母の影響で幼少期から「将来は医師か弁護士のどちらかになろう」という想いが強く、御三家と呼ばれる私立の中高一貫校に入学。
高校卒業後の進路は、祖父と父の母校でもある国立大学の医学部を考えていました。しかし、父から「日本男児たるもの、全寮制で制服があり心身ともに鍛えられる大学にしなさい」とすすめられ、防衛医大に進学しました。
―――防衛医大卒業後、医師としてのスタートで選んだのは何科でしたか?
兄のように慕っていた先輩と同じ、「防衛医大附属病院」第三内科の代謝・内分泌内科です。内科を選んだのは、防衛医大の同級生で現在も親しい石川浩一先生(現「クロスクリニック銀座」院長)が外科志望だと知ったため。彼には手先の器用さでは敵わないと思ったんです。
また、僕が防衛医大在学中に母が悪性の肉腫で命を落としたことも関係しています。入局を考えていた第三内科の腫瘍内科では、当時、国内でも珍しかった化学療法を行っており、がんの化学療法を学べることも第三内科へ入局した理由の1つです。
―――第三内科で医師人生に大きな影響を与えた患者様との出会いがあったそうですね。
はい、そうです。第三内科に入局して僕が初めて担当した患者様は、糖尿病の末期でした。すでに糖尿病の3大合併症*を起こしていて、足や陰茎が腐る、目が見えない、透析をしなければならない、という悲惨な状態に陥っていました。
その患者様の看取りで湧き起こったのが、「糖尿病は予防できる病気なのに、なぜここまで重症化してしまうのだろう?」という疑問や無念さ。その想いが僕の中で「糖尿病にならないための医療を行いたい、糖尿病を専門にしよう」という決意に変わったのです。
*糖尿病の3大合併症…糖尿病の進行により引き起こされる神経の障害(糖尿病性神経障害)、目の障害(糖尿病性網膜症)、腎臓の障害(糖尿病性腎症)のこと
―――糖尿病の臨床や研究に従事していた頃の想いを教えてください。
病院では、糖尿病の患者様向けに糖尿病教室を開いていました。僕の話をきちんと理解してくださった患者様は、血糖値を適切な範囲に維持する血糖コントロールが上手にできるようになって。医師としての手ごたえを感じていました。
一方で、「治療だけでなく予防もしなければ、糖尿病の合併症を起こす患者様を減らせない。どうしたものか…」と頭を悩ませることもしばしば。現在と同じで、当時も糖尿病の患者数は年々右肩上がりでしたからね。そのとき、医師になり約10年が経過していました。
ふと周りを見渡したとき、「病気を治療できる医師がこれだけいるなら、患者様を病気にさせない医師が1人くらいいても良いのでは?」と思ったんです。また、「保険診療のフィールドでは病気になった患者様を治療することしかできない」と感じ、防衛省を退職しました。
―――その後、美容医療の世界に飛び込んだきっかけをお聞かせください。
僕が防衛省を退職する少し前に、大学の同期だった石川先生も某大学病院の形成外科を退職し、美容クリニックを開業していて。一度食事をしたときに、僕が「糖尿病にならないための予防医療に取り組みたい」と話すと、彼は心底共感してくれたのです。
そのとき、石川先生に「フェイスリフトやシミ取り、脂肪吸引をしても、結局、生活習慣が整っていない患者様はまた同じような施術を受けにいらっしゃる。全人的な医療を考えたとき、自分は外側の治療はできるけれど体の内側は治療できないから、君にやってもらいたい」と言われて。それがきっかけで、美容内科医として歩み始めました。
美容内科の魅力と可能性 ~アンチエイジング医学に基づきポジティブに健康へ導く~
―――美容内科医として最初はどのような医療を行っていたのでしょうか?
石川先生の美容クリニックで美容外科や美容皮膚科のサポートをしながら、最初はビタミン点滴やプラセンタ注射、ニンニク注射などを行っていました。次第にダイエット目的の患者様も来院され始め、その方々を僕が担当するようになりました。
当時の美容医療は美容外科がメインで、ようやく美容皮膚科が始まった頃。ダイエットの薬やサプリメントを使った内科的な治療はまだ珍しかったですね。それが、僕が「美容内科のパイオニア」と言われる由縁でしょう。
―――アンチエイジング医学と出会ったときのことを教えてください。
2002年に一般社団法人日本抗加齢医学会(JAAM)が立ち上がり、僕も会員となりました。そこで初めて耳にしたのが【アンチエイジング医学(=抗加齢医学)】。これは、見た目の美しさを求めるものではなく、本質は健康長寿に関する医学です。
健康寿命の延伸を目指すアンチエイジング医学は、僕の専門でもある代謝・内分泌内科が土台。「僕がやりたかった医療はこれだ!」と運命を感じました。学会の理事の先生方に思いの丈をぶつけたところ、「青木君みたいな若くて情熱的な内科医は大歓迎です」と言っていただき、学会の評議員になりました。
―――アンチエイジング医学のどのようなところに魅力や可能性を感じましたか?
アンチエイジング医学が誕生した背景には、成長ホルモン補充療法に関するある有名な研究が関与しています。後々、その研究で用いられた手法にはいくつかの問題点があることも分かってきましたが、医学的な観点からその研究の成果自体は非常に興味深いものでした。
その研究を知り、「外科ではなく、内科的なアプローチで体の老化を制御できることが証明された!」と僕はアンチエイジング医学に魅了されました。「今後僕が取り組むべきはアンチエイジング医学しかない」とすら思えたのです。
また、アンチエイジング医学では患者様のモチベーションを高めるアドバイスを行うことが基本です。そのため、患者様が意欲的にライフスタイルの改善や治療に取り組めることにも可能性を感じました。
―――患者様のモチベーションを高める具体的な指導方法について教えてください。
糖尿病の治療説明は、「血糖コントロールのために糖質制限をしましょう、歩きましょう、ほかにも~…」とどうしてもお説教になってしまう。患者様の体のためとはいえ、大人になってまでお説教を聞きたい人などいませんし、「余計なお世話」と捉えられかねません。
また、エピジェネティッククロック*や体内年齢*などの専門用語を用いて論理的に説明したり、「暦上の年齢と体内年齢にこれだけ差がありましたよ」とお話したりしても、患者様の心に響かないことも。場合によっては、患者様の機嫌を損ねることすらあります。
一方、「きれいで素敵に生きられます」「豊かな性生活を送れます」「仕事も現役で続けられます」とポジティブに伝えると、患者様の多くは「先生、そのためにはどうしたら良いですか?」と聞き返してくださいます。
実は、どちらにしても同じ食事療法や運動療法を指導することになるのですが、ベクトルが違う。美容内科の役割は、患者様自身が理想とする年齢の重ね方をサポートすることなのです。
*エピジェネティッククロック…暦上の年齢ではなく、生物学的年齢や老化速度、さまざまな疾患リスク、炎症、免疫状態、運動機能年齢などを調べる検査のこと。生物学的年齢検査ともいう。
*体内年齢…体組成データと基礎代謝量のデータをもとに、どの年齢に近いかを表す数値のこと。
―――先生が健康寿命を延ばすために実践していることはありますか?
現在、アンチエイジング医学のフィールドでは、運動が重視されています。僕は膝の手術をして以来、フルマラソンや速く走ることは控えていますが、ランニングやジョギングは毎日続けています。自宅ではマシンを使った軽い筋トレも継続中。
その次に食事も大切。基本的には食事から栄養をまんべんなく摂取し、補助的に添加物の少ない良質なサプリメントを使います。節制ばかりでなく、大好きなワインも適度に楽しみます。患者様に指導することを、自分自身のライフスタイルにも取り入れているのです。
―――アンチエイジング医学の啓蒙活動にも熱心に取り組まれていると伺っています。
そうですね。アンチエイジング医学に関して執筆した本がヒットして、いろいろな情報番組に出演させていただきました。診察室でお話できるのは患者様1人だけですが、本やテレビ番組であればアンチエイジング医学の本質を何千、何万もの方々にお伝えできます。
新しい医療を世の中に浸透させるためには、普段の診療に加えて、さまざまなメディアに頼ることも必要です。その想いから積極的にメディアへ出演して、アンチエイジング医学を啓蒙しています。
医療業界の課題 ~医療費抑制と正確な情報発信が国家のアンチエイジングになる~
―――先生が考える医療業界全体の問題点は何でしょうか?
糖尿病の治療にあたると、実際は人間ドッグや健康診断をきちんと受けている患者様が多いことに気づきます。そのため糖尿病患者様の中には、人間ドッグや健康診断のときに「少し尿に糖が出ていますから、糖尿病予備軍ですよ」と医師から指摘を受けている方は意外と多くいらっしゃいます。
しかし、その診断結果を病院に持参しても未病のため保険での治療は受けられません。医師からは「食事や運動に気を付けて、これ以上悪化しないようにしましょう」と言われるのが関の山。患者様も重く受け止めずに同じ生活を続けてしまい、やがて糖尿病を発症するのです。
保険医療制度では高品質な医療を安価に受けられますが、国民一人ひとりの健康リテラシー*が自立しにくいことも問題。未病でも治療が開始できる実費負担の医療を拡充する必要があるかもしれません。そうすることで、国家のアンチエイジングにもつながるでしょう。
*健康リテラシー…健康や医療の正しい情報を見極めて理解し、活用できる能力のこと。ヘルスリテラシーともいう。
―――医療費の抑制と美容内科の発展のために考えていることを教えてください。
医療費を抑えるために、今後も美容内科医として予防医療に力を入れようと考えています。良い年齢の重ね方をし、健康寿命を延ばして一生を終えることは、個人と国家どちらのアンチエイジングも叶えるためです。
以前は、医療費の抑制や予防医学について考える内科医は少なかった印象です。そこで、2023年に『一般社団法人日本美容内科学会(JAIM)』を発足させ、理事長に就任しました。アンチエイジング医学に携わって20年以上経ち、「けじめとして自分が始めた美容内科の学会をつくり、日本の医療に貢献しよう」という想いからです。
―――美容医療業界の課題は何だと思いますか?
日本の美容医療業界に入ってくる新しい治療法が、やや暴走気味になっていることが気がかりです。美容医療業界では新しいものがもてはやされる風潮にありますが、内科的な考え方では「安全な医療のためにも、ちょっと待って」とブレーキをかけたいところ。
偽物がたくさん出回ったり、業者主導になって医師が薬剤や機器などの本質を見抜けていなかったりするケースもあります。そこで、日本美容内科学会が美容医療業界に向け、新しい治療法の安全性と必要性について正確な情報発信を行いたいと考えています。
美容内科の展望 ~美容内科以外の診療科にもアンチエイジング医学を浸透させる~
―――アンチエイジング医学や美容内科は現在どのように認知されていると思いますか?
世の中に『アンチエイジング』という言葉が広まり、20年経った現在も「アンチエイジング=美容」と思われている印象があります。その状態を無理に覆すのではなく、逆手に取って美容という切り口でアンチエイジング医学を広めたいと考えています。
「体の中をきれいにすることも美容法の1つ。インナービューティを高める努力をすると、健康で長生きすることにもつながる」という考え方が広まれば、日本人の健康リテラシーも高まるでしょう。
ありがたいことに、ある大手製薬会社様が美容内科の重要性に注目し、日本美容内科学会の協賛会員となってくださいました。大手企業様のバックアップは、「自分が思い描く医療は正しい方向を目指せている」という自信にもつながりました。
―――アンチエイジング医学を推進する美容内科の展望を教えてください。
ダイエット目的で来院される患者様を指導して、患者様の体重や体型に結果が出ると、アンチエイジング医学に基づいたライフスタイルの素晴らしさに目覚める方も多くいらっしゃいます。
患者様に「これが真のアンチエイジングなのですね」と言っていただけると、僕も美容内科医として非常にやりがいを感じます。健康的に痩せることやきれいになることが、結局はアンチエイジングなライフスタイルの実践につながっていて、美容医療の世界に飛び込んだ目的を果たせたと思えるためです。
将来的には、美容内科だけでなく美容皮膚科を受診する患者様にも美容内科的アプローチを説明し、ライフスタイルに取り入れていただける仕組みづくりをしたいと思っています。美容内科の本質をたくさんの方々に理解していただくことが目標です。
読者や患者様へ向けて伝えたいメッセージ ~美容内科でウェルエイジングを目指す~
外見が若々しい人は、健康で長生きするというエビデンスが出ています。つまり、若々しく見える人は、体内も若々しく元気だということです。「健康寿命を延ばしたい」、「いつまでも生き生きと若々しくありたい」、「痩せて素敵に見られたい」というのは誰もが願うこと。
皆さんにはぜひ美容内科に興味を持っていただき、いつでも美容内科医を頼っていただきたいです。ただ年齢に抗うのではなくて、病的な老化を予防しながら、ワクワクするようなより良い年齢の重ね方である『ウェルエイジング』を一緒に目指しましょう。