テレビCMやSNSに流れてきた美容クリニックの広告を見て、「こんなに安いなら施術を受けてみたい!」と思った経験がある方は多いのではないでしょうか。しかし、実際にカウンセリングに行ってみると、広告で見た料金とは異なる高額な見積もりを提示された……なんてことも。これは、ビジネスにおいてよく用いられる「アップセル」という手法です。実は、大手美容外科クリニックでは、今もなお不当なアップセルが行われているという噂。そこで今回は、アップセルの仕組みを解説するとともに、自分の体とお金を守るための対策をお届けします。
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アップセルとは?美容外科でよくある手口を知ろう
アップセルとは、顧客1人あたりの単価を向上させるセールス方法のこと。商品やサービスの購入を検討している顧客に、より高額な別の商品・サービスをおすすめして売上の向上を目指します。顧客にとっても、もともとほしいモノやサービスに付加価値や品質のアップグレードを期待できるため、正しくアップセルが行われた場合は、満足度の高い買い物ができる1つの手段と言えるでしょう。アップセル自体は、コスメショップや美容院、エステサロンなど身近なところでも行われており、美容クリニックも例外ではありません。しかし、“悪徳”と噂される美容クリニックのアップセルには、以下のようなものがあります。
- 無料カウンセリングで、当初希望していた施術とは違う予想外のプランを提案
- 広告では最安値3万円~なのに、提示プランは割引20万円など、割引に見せかけた追加費用の発生
- 「この金額でできるのは今だけ」「今なら院長が特別価格で対応」といったお得感を煽る営業トーク
美容クリニックは自由診療になるため、医療機関といっても一般企業のような営業要素が強くなりがちです。しかし、扱うサービスは技術も知識も必要な医療行為ですから、内容によっては金額が何十万、何百万になってもそれが適正価格の場合もあります。今回問題となったのは、大手美容外科で“不当な”アップセルが行われていたから。
業界内でも、技術に見合わない料金設定や、詐欺まがいの広告、強引なセールストークを行っているという噂が後を絶ちません。それでも、「大手だから」「テレビでCMが流れているから」「医療だから」と信用してしまい、高額な契約をしてしまう方が多くいます。では、なぜ大手がわざわざ信頼を損ねかねないことをするのか?その背景には、規模拡大・クリニック維持のための運営費や、広告費の回収など、大手チェーンクリニックならではの理由があるようです。
こんなときは要注意!アップセルに巻き込まれやすいパターン
美容クリニックでアップセルが行われるのは、基本的にカウンセリングの時間です。多くのクリニックではカウンセリング時に患者の悩みを聞き、肌診断や治療シミュレーションを実施するなどしてプランの提案と見積もりの提示まで行います。このとき、納得できるならその内容で契約し、納得ができないなら断れば良いのですが、実はアップセルに巻き込まれやすい状況になって正常な判断ができなくなってしまうことも。ここからは、意に反して高額な契約をしてしまった方たちの例をもとに、注意したいパターンをいくつか見ていきましょう。
パターン①「そのままでは満足できない」「安いプランはやっても意味がない」と言われる
広告で見たプランを希望してカウンセリングに行くと、「あなたの現在の肌状態を見ると、広告のプランを施術しても満足いく効果は得られません」「お試し施術は、実はあまり意味がなくて……」と受けさせてもらえないケースがあります。悪質だと、「今は広告プランは取り扱っていません」と、選択肢すらなくなることも。その代わりに、「効果がある施術」として別メニューを提案され、そのメニューがいかに素晴らしいか説明を受けるうちに、契約へと流されてしまうパターンです。
パターン②初めての施術で「プランアップ」や「追加オプション」をすすめられる
初めての施術を受ける際に、いきなり「プランアップ」や「追加オプション」をすすめられるケースも。例えば「二重埋没法」を希望する際、本来ならベーシックなプランを適正価格で受けられるかもしれない方が、「腫れない・バレない・取れないプランもあります」と、高額プランに誘導されることがあります。また、医師の診察もなく「脂肪が多いので二重になりにくいですよ」と脂肪除去をすすめられる、「笑気麻酔」「痛くない特別な糸」など痛みに対する恐怖心を利用した細かいオプションをいくつも追加される、といった状況も、いつの間にか見積もりが跳ね上がる初心者が陥りやすい要注意パターンです。そのほか、「1回では効果が出ない」と、まだ実際に治療して経過も見ていない施術を、定期セットプランとしてすすめられるケースもあります。
パターン③「今だけ特別価格」「ローンも利用できる」など金銭面でのプレッシャー
アップセルによくある手段が、“カウンセリングを受けた人だけの今日だけ価格”です。
モニター割引や期間限定の特別価格でお得感を煽り、さらに「後日は適用されない割引がある」ことを強調して当日の契約を急かします。「お金がなくて支払えない」「それでも高い」と断っても、「これが相場です」「医療ローンも組めます」「一旦カードが使えるか試してみますか?」など、なかなか引き下がってもらえないケースも。「施術は受けたいけど、損をしたくない」という患者側の心理を引き出すセールストークのため、冷静な判断が必要な場面です。
パターン④逃げづらい環境がいつの間にか作られている
最初は気軽な気持ちでカウンセリングに来たはずなのに、着替えを伴う詳細なカウンセリングを受けていたり、個室に通されてカウンセラーと密室空間にいたら要注意。断りにくい雰囲気の中でパターン①~③のセールストークを乗り越えなければならず、実際に、契約書にサインするまで数時間帰れなかったという事例も頻繁に起こっています。中には、「今やらないとどんどん悪化しますよ」といったコンプレックスを刺激する発言もあるようです。
アップセルに負けないための対策と心構え
美容クリニックと患者は対等でありたいところですが、とくに初めての方は、カウンセラーや医師に対して受け身の姿勢になりがち。アップセルで予想外の契約をしないためには、患者側も心構えをしておくことが大切です。美容クリニックに行く前に、知っておくべきこと・やっておくべきことをまとめました。
対策①営業トークに流されない知識を持っておく
まずは、やりたい施術の内容と料金の相場を複数のクリニックのホームページで調べ、後で見返せるようにリストアップしていきましょう。注入治療であれば部位ごとの注入単位、レーザー治療であればショット数、二重整形やクマ取り、リフトアップなどの整形手術なら考えられる手術方法とそれぞれのメリットデメリットなどを細かく書き出し、治療の適正内容と適正価格を把握しておきます。また、その治療とよく組み合わされる治療についても調べ、痛みが不安な方は麻酔の種類と相場も知っておくなど、提案されるであろう内容を先取りして調べておくことが重要です。
知識があれば、カウンセリング時にセールストークの違和感に気付けたり、必要のない施術やオプションを追加されても「もともとの計画にないため必要ないです」と断ったり、自分主体で判断しやすくなります。万が一、知らない内容が見積もりにあった場合は、まずはどんなメニューなのか、なぜ追加されているのか質問しましょう。また、やっていくうちに知識がアップデートしていくこともあります。最初からレベル最大の効果のある治療を求めるのでなく、予算内かつ、それなりの効果が得られる治療からスタートする計画を立てていくのも、自分の身を守る方法の1つです。
対策②その場で決めずに一度持ち帰る
アップセルで契約してしまった方の多くが、提案された内容をその場で承諾しています。しかし、その場の雰囲気に流されてしまった、知識不足からカウンセラーの言葉を信じてしまったと、後から後悔する方が少なくありません。中には、契約は急かすのに重大なリスクについては説明不十分で、きちんと理解していなかった……なんてことも。一度契約書にサインをすると、キャンセル料や違約金が発生する可能性があります。治療内容や予算に納得できなかった場合は、「一旦持ち帰って契約を保留にする」という選択肢を持っておくようにしましょう。
また、複数のクリニックのカウンセリング回りを行い、クリニックによる提案内容の違いや、カウンセリングの特徴を比較するのも大事なポイントです。カウンセラーの提案が信頼できるものかどうか判断しやすく、より相性の良いクリニックと出会える可能性が高まります。
対策③交渉術を身につける
カウンセラーも仕事で治療の提案を行っているため、あいまいな断り方ではなかなか終話できないことや、そもそもきっぱりと断るのが苦手という方もいるでしょう。提案内容が納得できなかったときに備えて交渉カードを準備しておき、相手の出方を伺いつつ、自分主導で折り合いがつくところまで交渉できるようにしておくのもおすすめです。使いやすいセリフをいくつか以下にまとめたので、ぜひアレンジして使ってみてください。
- 「○○円なら今日契約するつもりで来ましたが、××円になるなら少し考えたいので、今日は持ち帰らせてもらいます。」
- 「使える予算は○○円と決めているので、それ以上の契約は考えていません」
- 「××円は持ち帰って家族に相談してみないと決められないのですが、今日施術したいので○○円に収まるプランはないですか?」
- 「すみません、この後△時から大事な人と会う約束があってもう時間がないんです」
- 「提案してくれた内容を1人で冷静に考えたいので、契約する場合は今日中に連絡してもいいですか?」
- 「仕事で休みが取れないので、今回は1回の施術だけ希望します」
ポイントは、断る理由に具体的な根拠があること。悩んだフリは相手も悩む理由を知りたいため、引き下がってもらえない可能性があります。また、提案された内容やアドバイスに実は悪意はなく、本当に自分に必要な治療だったというケースも。いきなり敵対心を持って対応していると、その後の施術やカウンセリングで余計な心配を費やすことになるため、あくまでもいざというときの回避術として覚えておくと良いでしょう。
アップセルされる確率を下げるクリニック選びのポイント
そもそも信頼できるクリニックを選んでいれば、アップセルに巻き込まれる確率はぐんと下がります。クリニック選びの時点で、危険信号を察知できる能力を養うことも大切です。最後に、美容クリニック選びのポイントをご紹介しましょう。
評判や口コミからクリニックを調べる
まずは、クリニックをGoogleなどで検索し、評判や口コミをチェックしてみてください。実際にアップセルが行われているクリニックには、経験談が書かれているかもしれません。ただし、割引などの見返りに高評価をつける“ステルスマーケティング”には要注意。良い口コミが多いと一見評判の良いクリニックに見えますが、ステマによって悪い口コミの表示順位が下がり、埋もれているだけの可能性もあります。順番を並び替えるなどして、評価が正しいものかどうか見極めましょう。
▽ステマについて詳しく解説した記事はこちら
カウンセリングでの対応や透明性を重視する
そもそもカウンセラーには、患者の気持ちに寄り添い、プランや料金を明確に伝えるという役割があります。巷ではカウンセラーが常駐しているクリニックはアップセルされるという噂もありますが、必ずしもそうではありません。医師には聞きにくいこともカウンセラーには聞きやすかったり、治療の決断を後押ししてくれたり、本来は心強い存在なのです。カウンセリングでの対応や発言にはしっかり耳を傾け、説明が丁寧で透明性があるか、相談しやすい雰囲気かなどチェックしておきましょう。ただし、医師免許のないカウンセラーが触診する、また独断でプランを決めるのは医師法違反です。医師とカウンセラーで説明に相違がないところを選ぶようにしましょう。
実績や資格がある信頼性の高い医師を見極める
アップセルが行われているクリニックでは、規模拡大による人材不足などの理由により、経験が少ない医師が執刀するケースも散見されています。医師の入れ替わりが激しいところはとくに要注意。医師に技術力がないまま、カウンセラーが提案した高額かつ複数の施術を組み合わせたプランを任せられた場合、仕上がりの面でも副作用の面でもリスクしかありません。カウンセリングの質も重要ですが、クリニックに在籍している医師の名前と経歴、こなしてきた症例数は事前に確認しておきましょう。その際、所属している学会や、特定の分野の肩書きがあるかなども信頼性を見極めるポイントになります。
▽より詳しいクリニックの選び方や医師の見極め方はこちら
まとめ
できることなら、巻き込まれたくない美容クリニックのアップセル。アップセルそのものには違法性がなく、不当なセールストークかどうか線引きが難しいものです。しかし、大切な自分の肌、体、お金を守るためには、知識を持って相手の話を聞き、見極め、自衛することが大切。誇大広告や高評価ばかりの口コミ、過剰な割引に惑わされず、信念を持って適正価格で適切な治療を行うクリニックを見つけていきましょう。
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